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『海外ドラマ走査線 LA発☆最旬テレビ事情』
Vol.2 第60回エミー賞授賞式に参加して

 
2008/10/10

Meg Mimura
ロサンゼルス在住のテレビ評論家。ATAS(米国テレビ芸術科学アカデミー)会員。TCA (テレビ批評家協会)ただ一人の日本人会員で、年2回開催されるTCAプレスツアーに参加。「三度の食事よりテレビが好き!」

 

業界レベルは向上? いつもと少し違うエミー

「BONES」のデイヴィッド・ボレアナズ、妻のジェイミー・バーグマンとレッド・カーペットにて。
「BONES」のデイヴィッド・ボレアナズ、妻のジェイミー・バーグマンとレッド・カーペットにて。
 授賞式参加は今年で2回目です。レッド・カーペットの慌しさや、会場内の大混雑は相変わらずでしたが、今年からスターと一般客が同じ階に座るレイアウトになったため、通路を行き来するスターを何人も見かけました。リムジンを降りて最初に目に入ってきたのは「BONES」のデイヴィッド・ボレアナズ。体格が良いので正装が映え、遠くからでも目立っていました。ほかにも、何の用事か行ったり来たりを繰り返す「ラリーのミッドライフ★クライシス」のラリー・デイヴィッドや、人待ち顔の「デスパレートな妻たち」のカイル・マクラクランなど、プレスツアーとは異なるスターの素顔を見ることができました。

 さて、いよいよ授賞式。前回は候補作のラインナップから見る業界の変化についてお話ししましたが、それは受賞結果にも現れていました。

 ATAS(米国テレビ芸術科学アカデミー)はテレビ業界のプロの組織で、同業者内で功績を讃えるのがエミー賞です。賞によって選ばれやすい作品の傾向というものがありますが、特にATAS俳優グループが何を基準にして演技の最優秀賞を決めているのか、疑問が残るところでもありました。授賞式後に俳優グループの理事に聞いたところ、やはり知名度がものを言うとのこと。視聴率の高低にかかわらず、内容や質で評価するTCA (全米テレビ評論家協会)賞とは従来一致しないことが多かったのですが、今年はトム・ハンクス製作の“John Adams”やNBCの“30 Rock”など7月のTCA賞受賞作品がエミーでも認められました。

 ATASが数ある候補作/俳優の中から、人間ドラマをきめ細かに描いた作品や俳優の功績を讃えたことによって、業界のレベルが上がったことは確かです。

HBOが逃した大きい魚

“Mad Men”マシュー・ワイナーとキャストたち
“Mad Men”マシュー・ワイナーとキャストたち
 最優秀作品賞に輝いたのは、前回のコラムで「独立局AMC初のオリジナル」として紹介した“Mad Men”でした。ATASがこの地味な秀作を認めたことに、大きな意義があります。

 この作品は、コメディ・ライターでは飽き足りないマシュー・ワイナーが書いた傑作ドラマ。コメディからドラマへの転身は至難の業ですが、この脚本で「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」のデイヴィッド・チェイスの目にとまり、即採用が決まったという曰く付きの作品です。ワイナーは2004年から2007年まで「ザ・ソプラノズ~」のスタッフ・ライターとしてチェイスに鍛えられました。

 「ザ・ソプラノズ~」の最終シーズンに、クラシック映画を専門に放送するAMCから、局初のオリジナル番組として“Mad Men”をやりたいとラブコールがおくられて来ました。「HBOは(“Mad Men”の)脚本の存在は知っていたけど全く行動に移さなかったので、AMCから『何もかも任せるからやってくれ』と言われて断る理由はなかった」とワイナー自身が昨年のプレスツアーで語っていました。映像化まで、実に7年かかっています。

 ワイナーとは本作の実現以前から何度も会って、熱い想いを聞いていたので、最優秀作品賞に輝いたことは他人事とは思えません。単なる60年代へのノスタルジー作品ではなく、消費者文化を担う第一線で羽振りを利かせていた広告代理店の内幕と、「完璧な」外見とは裏腹に虚しい毎日をおくる広告マンたちの時代や文化を越えた、哀しく切ない生き様が描かれた奥の深いドラマです。受賞を機に、アメリカでより多くの人に観て欲しいし、是非日本でも放送して欲しい秀作です。

助演男優ジェリコ・イヴァネクと主演女優グレン・クロースでダブル受賞の「ダメージ」。
助演男優ジェリコ・イヴァネクと主演女優グレン・クロースでダブル受賞の「ダメージ」。
コメディ部門総なめの“30 Rock”で脚本・プロデュースもつとめるティナ・フェイは主演女優賞も受賞。十分きれいだと思いますが?
コメディ部門総なめの“30 Rock”で脚本・プロデュースもつとめるティナ・フェイは主演女優賞も受賞。十分きれいだと思いますが?
 受賞スピーチで印象深かったのは、「ダメージ」で主演女優賞を手にしたグレン・クロース。「複雑でパワフルな熟女だって、セクシーで見応えあるドラマの主人公をやれるって証明しているのよ!」と候補者4人に敬意を表したクロースは、きらきら輝いていました。「デキル女」を演じられる熟女の最高峰として、今後もテレビで活躍してくれることでしょう。何しろ、オスカーはまだ手にしていませんから……。

 コメディ部門総なめという感じの“30 Rock”のクリエイター/制作/主演までこなす才媛ティナ・フェイ。去年の受賞時より、実績を積んで自信がついたはずですが、相変わらず才色兼備ではないことを指摘する自虐ジョークで笑わせてくれます。低視聴率にも関わらず、NBCが後押ししてくれることや、税金控除などでニューヨーク市が便宜をはかってくれることに感謝した後、ネット、オンデマンドやダウンロード、航空機内などでぜひ観てほしいと宣伝し、「時々、テレビでもやってるのよ!」とぴりっと辛い落ちをつけて会場を沸かせました。


今年の特徴は新番組の健闘

 主演男優賞では、穴馬と目されていたブライアン・クランストン(“Breaking Bad”、AMC)が受賞しました。ガンと言い渡された元高校教師がなんと麻薬の売人になるという、型破りな役を演じています。医療ドラマ史上初、患者を嘘つき呼ばわりする偏屈親爺ハウス医師を演じるヒュー・ローリーも候補にあがっていましたが、ユニークさにおいては同レベルなので、“Breaking Bad”の目新しさに軍配があがったものと分析します。

 主要5部門(作品、主演男優/女優、助演男優/女優賞)が、全て新番組だったことは特筆に値するでしょう。

 次回は今秋から始まった新番組・新シーズンの今後をうらなっていきたいと思います。


※第60回エミー賞授賞式の模様は、AXNにて11月7日(金)に完全ノーカット版で放送予定。

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