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『ニュースの狭間』
柳明菜24歳、素人女性が自力で初監督
『今日という日が最後なら、』をサンプラザ中野くんも応援

 
2008/05/10

ニュースの狭間
取材現場でふと目についたこと。毎日ニュースを報道していて、見えてきたこと。バラエティ・ジャパン編集部員が流れていく「ニュースの狭間」にあるトピックを取り上げ掘り下げていくコラム。エンタテインメント・ニュースから、世界が見えてくる。

 日本の映画をアメリカに紹介するジャパン・フィルム・フェスティバルが4月11日から20日までロサンゼルスで開催された。

 様々な映画が上映されるそのなかに、『今日という日が最後なら、』という作品があった。八丈島の自然を舞台にした双子の姉妹の物語。映画をつくるのはまったく初めてという新人の24歳の女性監督の作品だ。つたない部分も多分にある。しかし、そこかしこに熱いものを強く感じさせる内容で、最後には私も、二人の姉妹の愛情と家族愛に思い切り涙してしまった。

 今回、その新人の柳明菜監督と、エンディング・テーマを歌ったサンプラザ中野くんにインタビューした。

この映画をつくったきっかけ

 長い黒髪と、色白で古風な日本女性。しかし、柳監督がしゃべり始めると、周りの空気ががらっと変わる。それだけエネルギッシュなムードメイカーなのだ。

 「そもそもこの映画を作ったきっかけはなんだったんですか?」。そう、この若い監督に聞いてみた。

 「大学の社会起業科の研究会で、年間一万人ずつ減り続けている八丈島の改善策をみつけようと八丈島に合宿に行ったんです」と柳監督が答える。「そしてはっとしたんです。こんな美しい場所と、こんな伝統が日本にはあるんだと」。

 もともと映画をつくりたい、女優もやってみたいと思っていた柳さんは、八丈島の映画をつくって、この島がどんなに素敵なところかをみんなに伝えたいと思ったそうだ。そうと決めたら、即行動。「研究会の最終発表会で“私、映画撮ります、この島で!”と発表しちゃったんです」と、目を輝かせてそのときのことを語る。

 「そこからは脚本やあらすじを書いて、いろいろな人のところをまわり、“こういう映画を撮りたい”ではなくて、もう、“撮るんです! 撮るんです!”と言ってまわったんです。サンプラザ中野くんさんのところにも行って、“こういう映画を撮るんです! エンディング・テーマ是非歌ってください!”と、どんどん話していったんです」。

 そんな柳さんのしゃべりの迫力に思わず笑ってしまった。気のせいか、隣でサンプラザ中野くんが、サングラス越しにニヤッと笑っているように見える。

 「でも、有名人であるサンプラザさんにいきなりそんなことを頼むことに、ちゅうちょしなかったんですか?」と柳監督に聞いてみると、サンプラザ中野さんがぼそっとつぶやく。「ちゅうちょなんかしないですね、この監督は」。彼の答えに再び笑ってしまった。

サンプラザ中野くんとの出会い

 サンプラザ中野くんとの出会いは、彼が友人と開いていた3-D写真展なのだという。
 
 「写真展の会場の裏でお茶を飲んでいたら、すごく大騒ぎをしながらおっきい声を出している人がいる。なんだろうこの声は、と思って出て行ったら、彼女がいて、一生懸命ぼくにしゃべりはじめたんですよ」

 そんな彼女の熱意と映画のプレゼンに感動し、サンプラザ中野くんはエンディングテーマを歌うことにする。もちろんボランティアとして。

 「ぼく離島が好きで、八丈島にも結構行ったことがあるんです。そこがテーマというところにも惹かれたんですね。あと、社会起業科ということにもかなり興味があるんで」

 そしていよいよ映画作り。周りの学生を総動員して、台風の目のように活動し始める。

 「ロケ地の大道具が必要だとなると、“じゃあ、建築学部の子たち集まれー!”と建築学部の子たちを集め、衣装が必要となると、“服飾学部の子たち集まれー!”と。そしてお金を集めるときは、“ファンドレイジングを勉強している専門の学生たち集まれっ!”て感じで、かなり面白い団体でした」

 しかし、素人の彼女が映画を作るのには、思った以上に大変だったという。

 「大きな失敗をしたり、大きな迷惑をかけました。何をしたらわからなかったので、行き当たりばったり声を掛け、夢を語りました。その夢に賛同した若い学生たちが30人も集まってくれたのに、あっちだ、こっちだ、と全員を振り回してしまって。みんな疲れてしまったんですね」

 そう言いながら、柳監督の声が小さくなる。プロジェクトが始まってから半年後。ついにチームが崩壊しまったのだ。

 「そのときはさすがに精神的にこたえました。このチーム以外には考えられなかったんです。すごくいい子たちばっかりだったのに」

 そして、もう一度なんとかスタートした新たなチームもこれまた崩壊。そんな大きい崩壊を2回も体験し、もうだめだ、あきらめようと思ったそうだ。しかし、その時、ふと『今日という日が最後なら』という気持ちになり、新たにやる気が出てきたという。

 「登場人物を減らして、脚本を大幅に書きかえたらやれるかもしれない、と思ったんです」と書き換えたのが、現在の双子の姉妹の話。彼女の話を聞いているだけで、なんとガッツのある女性だろうと感心してしまう。

 そんな彼女を、サンプラザ中野くんはどう思っているのだろう?

 「彼女のプロジェクトが何回も崩壊しているのをはたで見ていて、いや、これは大変だなあ。あ! でも、また立ち上がったよ。あ、また倒れた。あ、また立ち上がってるよという感じで(笑)。それが見ていて面白くって」と苦笑する。「でも、すっごく勇気をもらったんですよ。こんなに若いなんにも知らない女の子が、こんなにがんばって自分の世界を開いていって、映画を撮り始めちゃったぞと。それを見ていたら、俺は40代だけど、まだまだ扉を開いていいんじゃないかと思いましたね」

 それがきっかけでサンプラザ中野くんは「小説を書いてみよう」とか、実際にアニメーションを自分で作ることになる。それがテレビ東京で放映された「本マグロトロ太郎」だそうだ。

 「自分の扉を閉じてちゃいけない。どんな場面でも開いていればいいじゃないかと思い、彼女に触発されてアニメ・クリエイターにまでなったんです」

プロを入れた新チームで再度スタート

 いろいろな失敗を繰り返したあげく、柳監督は「やっぱりプロの力が必要」と思ったそうだ。

 そのため、国や団体からお金を集めたり、プロジェクトでお金を設けることに成功し、撮影、録音、照明のポジションにきちんと報酬を払ってプロの人たちを雇うことにする。そのおかげで映画が引き締まったという。

 とくに録音の辻井一郎氏にはかなり助けられたそうだ。エンドロールにはプロデューサーの肩書きもついている。
 「辻井さんは、こんな小さな規模の自主制作映画に関わるのは生まれて初めてだ、といいながら、みんながんばっているんで引くに引けなくなった、と手伝ってくださいました(笑)」。

「本当に思い出深い映画です……」

 しかし、プロ数人を抜かして、みな素人だ。
 専門学校の生徒やフリーターの子たちが、「みんなわかんなくて、泣きながら、徹夜でがんばった」そうだ。

 ときには、監督自身が驚くことも。

 「現場に行ったら、美術をやっていた子が徹夜をして“庭に木を植えたいんです”と地元の人たちと一緒にみんなでシャベル持って庭に木を植えているんですよ。びっくりしましたねー」

 「舞台となる家のなかに、ヤギがいて、アヒルがいるのは、私が無理難題を言ってしまったからなんです。でもスタッフは素人なのでそれを集めるのはすごく大変だったそうです。アヒル小屋を作るところからはじめて、わざわざアヒルを飼ったんです。アヒルってなに食べるんだっけ? とみんな心配したりして(笑)」

主演の舞子役に実の妹を抜擢

 双子の姉妹の元気なほうの舞子役には、まったく素人の自分の妹を起用したという。

 「素人なんですが、ぱっと見てこの子いいんじゃないかなと思って。私は妹ととっても仲がいいんですよ。だからこの映画の世界観を一番理解してくれる。でもかなり無茶をさせてしまいました。7キロやせさせたり、“舞子は海焼けしているんだから。シャンプーしないで”とナチュラルにドレッドを作らせたり(笑)」

 そんな紆余曲折があり、ようやく念願の映画が完成した。今回の映画作りで彼女が学んだことはなんだろう?

 「踏み出せば、そのまま形になるんだということを学びました。踏み出さなければなにも変わらないと」

 映画作りの経験が何もないド素人の彼女が、踏み出したおかげで今ロスに来て、アメリカの人たちに初めて作った自分の作品を見てもらっている。アメリカの人たちにはどんなふうに見てもらいたいのだろう?

 「日本の文化をわかってもらいたいですね。日本をもっと広げていきたいですね」

 そんな柳監督の今は大学を卒業したばかり。さあ、これからの目標は?

 「正直言うと、どうしていいかわからない部分がちょっとあります。でも、映画っていう枠にこだわらず、なにか発信したり、物語を作っていきたいと思っています。いま京都に場所を作っています。世界に発信できる日本という意味で京都なんですけど、そこにお店を作っています。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、10年ぐらい続く物語にしたいので」

 いったいどんなプロジェクトになるのか。柳監督のことだから、また大勢の人たちを巻き込んでいろいろつくり上げていくことだろう。
 最後にサンプラザ中野くんがボソッとつぶやく。
「すごいですよ、この人のパワーは」。

 そうかもしれない。インタビューを終えたあと、私ももっといろいろな扉を開いてみようという気になり、なんだかワクワクしてきたのだから。

 24歳の新人監督は私にものすごい手ごたえを与えてくれた。

『今日という日が最後なら、』
●監督・脚本・編集/柳明菜 撮影/岩松茂 主題歌/サンプラザ中野くん 出演/森口彩乃、柳裕美、清水増子、本田章一、岡田真由子、藤谷文子 ●配給/アルゴ・ピクチャーズ ●6月28日からシネマート六本木にて日本公開
http://www.livefree.jp/

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