
ニュースの狭間
取材現場でふと目についたこと。毎日ニュースを報道していて、見えてきたこと。バラエティ・ジャパン編集部員が流れていく「ニュースの狭間」にあるトピックを取り上げ掘り下げていくコラム。エンタテインメント・ニュースから、世界が見えてくる。
取材現場でふと目についたこと。毎日ニュースを報道していて、見えてきたこと。バラエティ・ジャパン編集部員が流れていく「ニュースの狭間」にあるトピックを取り上げ掘り下げていくコラム。エンタテインメント・ニュースから、世界が見えてくる。
トム・クルーズ主演『ザ・エージェント』の日本公開当時(1997年)、記者は日本のラジオ局で番組制作をしていたが、好きなタイプの映画でありながら、何か気持ちの悪い違和感があったのをよく覚えている。その理由は必ずしも、この話がスポーツ・エージェント——プロスポーツ選手のマネージメントを請け負う代理人——たちの会社の物語で、その当時日本では同様の業種があまりポピュラーでなかったから……というだけではなかった。映画の中に見る「マネージメント事務所と所属タレントの関係性」が、記者が日本の芸能界で慣れ親しんでいたものとは大きく違っていたのである。
やがてハリウッドに来て、いわゆる“アメリカの芸能界”における俳優やミュージシャンの置かれている状況を知るにつけ同じ違和感を抱き、その後その理由がはっきりした。つまり、日本と比べてタレントの立場がずっと強いのである。
やがてハリウッドに来て、いわゆる“アメリカの芸能界”における俳優やミュージシャンの置かれている状況を知るにつけ同じ違和感を抱き、その後その理由がはっきりした。つまり、日本と比べてタレントの立場がずっと強いのである。
ハリウッドでは所属タレント=クライアント

ICMが今年オスカーを受賞した“クライアント”に向けて米バラエティ紙に掲載した「おめでとう広告」
アメリカのエージェント(マネージャー)あるいはエージェンシー(タレント事務所)は、タレントのことを「クライアント」と呼ぶ。つまり“タレントがエージェントを雇用している”という認識なわけだ。日本との基本的な違いはここにある。
日本のタレント事務所は、よほどの大物タレントでない限り“事務所がタレントを雇っている”という、逆の感覚だ。現に給料制の事務所もあるし、事務所とタレントは“身内”という意識も強い。ハリウッドでは“ビジネスパートナー”といったところだろうか。
一例を上げると、アカデミー賞やグラミー賞、エミー賞など大きな賞レースの受賞発表があると(ノミネート発表でさえ)、受賞したスターが所属するエージェンシーはこぞって米バラエティ紙に「おめでとう広告」を打つ。“クライアント”であるタレントの栄誉を称える広告で、もちろん広告費がかかる。例えてみれば、M-1グランプリ2007で優勝したサンドウィッチマンの所属事務所フラットファイヴが、オリコンや日経エンタテインメント、そしてバラエティ・ジャパンに「おめでとう! M-1グランプリ2007王者サンドウィッチマン」という広告を出すようなもので、これはまずありえない。事務所としては“自分たちも含めて受賞した”つもりなのになぜ? みたいなことである。
日本のタレント事務所は、よほどの大物タレントでない限り“事務所がタレントを雇っている”という、逆の感覚だ。現に給料制の事務所もあるし、事務所とタレントは“身内”という意識も強い。ハリウッドでは“ビジネスパートナー”といったところだろうか。
一例を上げると、アカデミー賞やグラミー賞、エミー賞など大きな賞レースの受賞発表があると(ノミネート発表でさえ)、受賞したスターが所属するエージェンシーはこぞって米バラエティ紙に「おめでとう広告」を打つ。“クライアント”であるタレントの栄誉を称える広告で、もちろん広告費がかかる。例えてみれば、M-1グランプリ2007で優勝したサンドウィッチマンの所属事務所フラットファイヴが、オリコンや日経エンタテインメント、そしてバラエティ・ジャパンに「おめでとう! M-1グランプリ2007王者サンドウィッチマン」という広告を出すようなもので、これはまずありえない。事務所としては“自分たちも含めて受賞した”つもりなのになぜ? みたいなことである。
ハリウッドでブーム? 「エージェンシー・ホッピング」

『スピード・レーサー』のエミール・ハーシュ
© 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
© 2008 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
『スピード・レーサー』に主演した若手注目株のエミール・ハーシュは、同作の米公開最初の週末が終わるや否や、エージェントのShani Rosenzweig(UTA)をクビにした。ジョエル・シルヴァー製作、ウォシャウスキー兄弟監督という『マトリックス』チームが手がけた超話題作にもかかわらず、興行成績が予想をはるかに下回ったというのが理由だ。エージェントばかりがその原因でないにも関わらず、ハリウッドでこのような例は枚挙に暇がない。特に最近では、スターのネームバリューに頼らない作品づくりや、米俳優組合ストライキの可能性が高まるなどいくつかの理由から、出演者のギャランティーが大きく減少する傾向にあり、不満を抱えたビッグスターたちが所属事務所を移る「エージェンシー・ホッピング」と呼ばれる行動があちこちで目に付く。
ハリウッドにある主な大手タレントエージェンシーには、ウィリアム・モリス・エージェンシー(WMA)、インターナショナル・クリエイティヴ・マネージメント(ICM)、クリエイテイヴ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)、ユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)、エンデヴァー・エージェンシーなどがあり、それぞれ数多くの、目も眩むほど豪華なスターたちと契約している。
前出のハーシュ(UTAからCAAに移ると噂されている)のほか、ロバート・デ・ニーロ(CAAからエンデヴァーへ移籍した)、ベン・スティラーとジャック・ブラック(UTAからエンデヴァーへ移籍)、ジャッキー・チェン(CAAからWMAへ移籍)、ヴィンス・ヴォーン(UTAからCAAへ移籍)、アシュトン・カッチャー(エンデヴァーからCAAへ移籍)、バーブラ・ストライサンド(ICMからエンデヴァーへ移籍)と、その他多くの俳優、監督、脚本家らがごく最近エージェンシーを替えている。これらは最近特に顕著な現象ではあるが、エージェンシーの移籍自体はハリウッドではめずらしいことではない。
ハリウッドにある主な大手タレントエージェンシーには、ウィリアム・モリス・エージェンシー(WMA)、インターナショナル・クリエイティヴ・マネージメント(ICM)、クリエイテイヴ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)、ユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)、エンデヴァー・エージェンシーなどがあり、それぞれ数多くの、目も眩むほど豪華なスターたちと契約している。
前出のハーシュ(UTAからCAAに移ると噂されている)のほか、ロバート・デ・ニーロ(CAAからエンデヴァーへ移籍した)、ベン・スティラーとジャック・ブラック(UTAからエンデヴァーへ移籍)、ジャッキー・チェン(CAAからWMAへ移籍)、ヴィンス・ヴォーン(UTAからCAAへ移籍)、アシュトン・カッチャー(エンデヴァーからCAAへ移籍)、バーブラ・ストライサンド(ICMからエンデヴァーへ移籍)と、その他多くの俳優、監督、脚本家らがごく最近エージェンシーを替えている。これらは最近特に顕著な現象ではあるが、エージェンシーの移籍自体はハリウッドではめずらしいことではない。
日米タレント事務所それぞれの特徴
日本でもタレントが事務所を替える例はあるが、大手から大手となるとよほどの事情が絡んでいないと普通には起こりえない。下手すると事務所間の抗争に発展しかねないし、タレントがしばらくメディアから干される可能性もある。
また日本は、お笑いタレントが主に所属する吉本興業や、男性アイドル事務所の代表格ジャニーズ事務所など、多かれ少なかれ事務所の“色”があるが、アメリカの大手エージェンシーはそこまでの特化性がない。だからこそ移籍しやすいということは言えるかもしれない。
もうひとつの特徴として、アメリカではエージェンシーというよりも、エージェント個人と契約している、という感覚が強い。そのエージェントはもちろんエージェンシーで働く会社員だが、個人として“顧客”=タレントを抱えているわけだ。日本だと、組織変更などの事務所の都合でコロコロと担当マネージャーが変わるケースも多いが、アメリカでその理屈は通らない。
また日本は、お笑いタレントが主に所属する吉本興業や、男性アイドル事務所の代表格ジャニーズ事務所など、多かれ少なかれ事務所の“色”があるが、アメリカの大手エージェンシーはそこまでの特化性がない。だからこそ移籍しやすいということは言えるかもしれない。
もうひとつの特徴として、アメリカではエージェンシーというよりも、エージェント個人と契約している、という感覚が強い。そのエージェントはもちろんエージェンシーで働く会社員だが、個人として“顧客”=タレントを抱えているわけだ。日本だと、組織変更などの事務所の都合でコロコロと担当マネージャーが変わるケースも多いが、アメリカでその理屈は通らない。
日本の芸能界よりある意味怖いハリウッド
日本の芸能界が“仁義”の部分で怖いのに対し、ハリウッドは“お金”がすべての世界。ギャラが減少する傾向にあるとはいえ、ハリウッドスターひとりひとりが稼ぎ出す金額は一般人の想像を超えている。この高価な商品をどれだけうまく扱い、高く売るかがダイナミックかつ厳しいマネージメント・ビジネスとなる。お金にからむシビアさはハリウッドの方がずっと怖いのである。
冒頭の『ザ・エージェント』では、トム・クルーズ演ずる若くてやり手のエージェントが、拝金主義的でビジネスライクな仕事のやり方に疑問を感じ、キューバ・グッディング・ジュニア扮するわがままなNFL選手(彼はこの役で見事アカデミー賞助演男優賞を獲得した)と心を通わせていく経緯や葛藤を感動的に描く。大ヒットとなったこの映画に一般のアメリカ国民が涙したのに対し、映画の舞台裏で活躍する本物のエージェントたち——日夜、食うか食われるか、ライバルたちとの競争に生きている彼ら——がこのストーリーに共感していたのかどうかは極めて怪しい。どちらかというと思いを重ねたのは、お人好しの主人公から顧客たちを奪う同僚エージェントを演じたジェイ・モーアの方ではなかっただろうか……。
冒頭の『ザ・エージェント』では、トム・クルーズ演ずる若くてやり手のエージェントが、拝金主義的でビジネスライクな仕事のやり方に疑問を感じ、キューバ・グッディング・ジュニア扮するわがままなNFL選手(彼はこの役で見事アカデミー賞助演男優賞を獲得した)と心を通わせていく経緯や葛藤を感動的に描く。大ヒットとなったこの映画に一般のアメリカ国民が涙したのに対し、映画の舞台裏で活躍する本物のエージェントたち——日夜、食うか食われるか、ライバルたちとの競争に生きている彼ら——がこのストーリーに共感していたのかどうかは極めて怪しい。どちらかというと思いを重ねたのは、お人好しの主人公から顧客たちを奪う同僚エージェントを演じたジェイ・モーアの方ではなかっただろうか……。
text by Kiyoshi Suzuki (Variety Japan LA)






















