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『ニュースの狭間』
『カンフー・パンダ』もう1人のヒーロー
キャラクター・デザイン ニコラ・マルレ

 
2008/07/25

ニュースの狭間
取材現場でふと目についたこと。毎日ニュースを報道していて、見えてきたこと。バラエティ・ジャパン編集部員が流れていく「ニュースの狭間」にあるトピックを取り上げ掘り下げていくコラム。エンタテインメント・ニュースから、世界が見えてくる。

© 2008 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.
© 2008 DreamWorks Animation L.L.C. All Rights Reserved.
 米ドリームワークスの『カンフー・パンダ』は、オープニング・シーンの社名ロゴからして従来の同社作品とは一線を画していることが一目瞭然だ(通常ならば、三日月に座った少年が釣りをしているのだが、本作では釣り糸を垂らしているのが中国人に見える)。が、ロゴだけでなく作品自体が独特であるその最たる理由は、プロデューサーのジェフリー・カッツェンバーグが、1人のデザイナーにすべてのキャラクター・デザインを一任したことによるだろう。

 通常アニメーションは、それぞれのキャラクターを分担する多くのアーティストたちのコラボレーションで成り立っている。しかし、今回は全てのキャラクター・デザインがフランス人アニメーターのニコラ・マルレに託された。ニコラについて、美術監督のレイモンド・ズィバックは「彼の解決法はとても独創的で、同じように対処できる人材は他になかなか見つからなかった」と絶賛する。ズィバックは、マルレが描くキャラクター・デザイン画を3次元に加工し、それをもとにドリームワークスの経営陣はCGになった時の映像をイメージした。

 ドリームワークスの直近の類似作品は『マダガスカル』だ。この作品ではCraig Kellmanがキャラクターの大部分を手がけ、それらは驚くほど様式化されたものになった。「この作品で1つの様式を全編で統一させるという手法が確立され、『カンフー・パンダ』へとつながるんだ」とズィバックは語る。「ニコラは1ページに20~30ものチャーミングなキャラクターを描いてきた。これで既に映画化する準備は整ったようなものだったよ」。



スケッチはペンで手書き

 マルレはグレンデールのドリームワークス本社にある自身のデスクで、初期の下書きを見せてくれた。多種多様な動物たちが、さまざまなポーズで描かれたスケッチの山をめくりながら、「これが僕のやり方です。僕の場合はコンピューターよりもペンを使って描いた方が早いのです」と語った。

 ドリームワークスの創立時から働いているマルレが13年前に手がけた最初の仕事は、作品として完成することのなかった、アンドリュー・ロイド・ウェバーのミュージカル「キャッツ」のアニメーション版。その後も『エル・ドラド/黄金の都』でアルマジロのデザインを手がけ、『シンドバッド 7つの海の伝説』では神話に出てくる巨大な鳥に命を吹き込んだ。

 「『カンフー・パンダ』を任されたときは、正直なところ少し怖かったです。カンフーのことについて、まったくの素人でしたから」とマルレは恥らいながら告白した。マルレは同プロジェクトが始動してから、初めてブルース・リーの映画を見たのだ。



パンダとの格闘はまゆ毛で解決

 マルレがデザインに取りかかったころ、監督たちは『カンフー~』のストーリーを組み立てている段階だった。その時点で、物語の核となるのが、ポーという太ったパンダの少年が秘められた才能を開花させ、トラ、ツル、サル、ヘビ、カマキリのカンフー・マスターたちの切り札となるまでに成長するところまでは決まっていた。

 主人公ポーを擬人化してデザインすることに多くのデザイナーが苦心したが、マルレは“動物がカンフーの動きを習得するためには人間のように見えるべき”という前提をさらりと覆してしまった。「ニコラの方法論は、本物の動物をよく観察したうえで映画としてうまく機能する要素を抽出するというものだ」とズィバックは説明する。

 「ニコラ独自の手法を参考に、僕たちのデザイン・ルールに取り入れたものがある。例えば、動物の頭を首の上に持ってこない。まるで人間が中に入った着ぐるみのように見えてしまうからね。まず首の部分があって、それに頭と胴体をあわせ、全体が一体に見えるようにしたんだ」。

 「パンダは存在そのものが大きな魅力を持っている」と話すマルレの初期のデザインは、丸みを帯びた体つきに大きく突き出た腹部など、パンダの基本的な体型をなぞっている。続いて、パンダの顔の特徴である黒と白の色づけに取りかかった。

 カッツェンバーグは黒い部分が多くなることを好まなかった。そこで思いついたのが、まゆ毛だった。これを書き加えることで、声優のジャック・ブラックの表現が、2次元の中でもフルに再現できるようになった(その段階で声優は決定していなかったが)。

魅力的なサブ・キャラクターの産出

 サブ・キャラクターについても試行錯誤が続いた。動物たちの自然な姿をとらえるのと同時に、それぞれの特徴ある動きをファイティング・スタイルとして表現する必要があった。また、それぞれのキャラクターを個性的に、他のキャラクターとだけでなく、これまでのアニメーション化された動物キャラクターとの差別化をはかってデザインする必要があった。

 そのなかでマルレが気に入ったのは、マスター・タイガーだという。「僕はネコが大好きなんだ。彼らの戦い方はとてもエレガントでありつつ力強い動きで、カンフーにぴったりだよ」と話す。彼はマスター・タイガーのプロポーションを、実際のネコを参考にして描いた。短い後ろ足を強調し、胴体を長くする。これは、擬人化されたキャラクターに慣れてきたモデラーや下絵担当者たちにとっては、新たなチャレンジだった。

 マスター・タイガーの外見は、伝統的な中国の舞台メイクを基にし、猫目のアイシャドウを引いている。しかし、強いインパクトを残すうえでかぎとなったのは体型だった。「ネコがどんなポーズでも上品に見えるのは、尻尾の先から首の付け根まで一直線だから。僕もそれに習って、尻尾から描き始め、そのラインに沿ってペンを走らせたんだ」。

 そして最大の挑戦となったのは、マスター・ヘビだった。「ヘビをどうすればいいのか? ヘビって、ただ筒の形をしているだけじゃないか」と自問自答した。しかし、ある本をめくっているときに解決策が見つかった。「ある写真に目が止まった。女の子の背中に入れ墨が彫ってあったから」。そこでマルレはひらめいた。「漢字がすごく好きだから、詩的なシンボルがヘビの背中にあってもいいんじゃないかと思ったんだ」と振り返った。

 ヘビというキャラクターに服を着せるのは難しかったが、最終的には背中に抽象的なシンボルを描くことで解決した。「デザインの段階で、たくさんの絵を描いたよ。中には、実際に詩として読めるものもあったんだ」とマルレは言う。漢字のアイデアはマスター・カマキリに活かされ、中国で親しまれている「幸運」を意味する文字が刻まれている。

 『カンフー・パンダ』日本公開は7月26日から。

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