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『ニュースの狭間』
OTAKUが世界を動かす夏

 
2008/08/21

ニュースの狭間
取材現場でふと目についたこと。毎日ニュースを報道していて、見えてきたこと。バラエティ・ジャパン編集部員が流れていく「ニュースの狭間」にあるトピックを取り上げ掘り下げていくコラム。エンタテインメント・ニュースから、世界が見えてくる。

巨大なコミコン展示ホールも大混雑
巨大なコミコン展示ホールも大混雑
 オリンピック、バケーションと人それぞれに熱い夏だが、ここアメリカでは“OTAKU”たち(親愛の情を込めてこう呼ばせていただく)の熱気も最高潮に達する季節だ。毎年7月に西海岸で開催される「アニメ・エキスポ」や「コミコン」、8月に東海岸で開催される「オタコン」など、コミック、アニメ関連の大きなイベントが目白押しだからだ。

 中でも、世界最大級のコミック&キャラクターの祭典であるコミコン(Comic-Con International)は、今やハリウッドの映画やテレビ番組にとって極めて重要な宣伝プラットフォームとなり、ビッグスターが直接出席して新作をプレゼンしたり、初披露となる予告編やプレミア映像を上映する一大イベントに成長した。

ハリウッドが飛びついた口コミ宣伝効果

今年のコミコンに出席して主演作『地球が静止する日』を自ら一般客にプレゼンするキアヌ・リーヴス
今年のコミコンに出席して主演作『地球が静止する日』を自ら一般客にプレゼンするキアヌ・リーヴス
 コミコンが急激にその影響力を増したのはここ数年のことなので、日本ではエンタテインメント業界内でもまだ知らない人が多いかもしれない。米バラエティ紙のベテラン記者たちも「(大きなイベントとして取り上げるようになったのは)つい3、4年ぐらい前から」と口を揃える。

 コミコンがこれほど重要視されるようになったのはなぜか? 大きく分けて2つの理由がある。ひとつは『スパイダーマン』などの興行的成功を受けて、コミックを原作とする映像作品が大きなひとつの人気ジャンルとして確立されたこと。今年の全米夏興行ベスト10のうち、実に4作品がコミック原作。しかも1位『ダークナイト』、2位『アイアンマン』のワンツーフィニッシュときている(8月21日現在)。

 そしてもうひとつは、コミコンに集まるファンたちは見聞きした情報をすぐにブログなどネットを駆使して広める習慣があるため、莫大な宣伝費を投下するのと同じ、あるいはそれ以上の口コミ宣伝効果を得られることがあげられる。だが、逆に下手なコメントをしたり、不出来な映像を上映しようものなら即座にネット上でネガティヴな論評を展開されるという怖さもある。いま、OTAKUは世界を動かす力を持っているのだ。

アメリカで急増中、「大人のOTAKU」

今年のコミコン最大の話題作と言われた“Watchmen”は来年3月米公開予定
今年のコミコン最大の話題作と言われた“Watchmen”は来年3月米公開予定
 コミコンの来場者数は12万6000人を超え、今年は初めて開催前にチケットが売切れてしまうという事態が起きた。ひと口に12万6000人と言っても、どういうわけか“太っちょ率”が高いので、体積的にはざっと1.3倍ぐらいと言っていい。

 また、少なくとも10年ほど前までは、日本在住のアメリカ人が、「サラリーマンが通勤電車でマンガを読んでいるのは恥ずかしい」などと言うのを聞くと、「あー、キミたちの国には大人が読めるコミックという文化がないのね」と、少し高みから気の毒に思ったりできたものだが、コミコンでは、そんなこちらの認識もすでに時代遅れであることを実感する。会場内に「いい大人」が目立つようになったのだ。

 コミコンのマーケティング・ディレクター、デイヴィッド・グランザー氏は、「一般のコミコン参加者数が急増した背景には、コミックやコミックをベースにした映画、テレビ、ゲームやおもちゃが、以前よりもはるかに多くの人々に受け入れられるようになったことがあります。昔は子どもだけのものだったのが、大人も同じように楽しめるようになったのです」と、大人世代への広がりを強調する。

 さらに今年のコミコンで最大の話題作となったのが、米ワーナー・ブラザースがDCコミックスの原作を実写化し、来年3月の公開を予定している“Watchmen”。80年代に出版された同作は、アメリカン・コミックのその後の方向性を左右し、50年代以降に失われていた成人読者を再びこのジャンルに呼び戻した作品であると言われているのだ。

ディズニーランド内で武道館コンサート?

ホールH前の長蛇の列。全員が入場できる保証はない
ホールH前の長蛇の列。全員が入場できる保証はない
 コミコンの会場であるサンディエゴ・コンベンションセンターのいたるところで大小おびただしい数のイベントが行われ、ファンの行列ができる。人気のイベントは2時間、3時間待ちがあたりまえ、入場すればそこはお気に入りのキャラクターに会える「夢の国」。まるでディズニーランドのようだ。各アトラクションにファストパスこそ用意されていないが。

 前出の“Watchmen”など、メジャースタジオの大作映画や超人気テレビドラマのプレゼン・イベントは「ホールH」という大ホールで行われる。“運良く”入場できるのは6500人。日本武道館のコンサートがおよそ満席になる人数だ。これが1日にいくつもあるのだから、昔のSMAPの正月コンサート、「武道館1日5回まわし公演」に匹敵する。

 来場客だけでなく、ブースの出展やイベントの開催を希望する関連各社、また取材に訪れるマスコミの数も膨れ上がり、もはや現会場内には収容しきれないという問題まである。実に300以上の出展希望者がウェイティング状態だという。

まだまだある、「アメリカ・夏のOTAKU祭り」

今年のアニメ・エキスポに参加したスピード・レーサー
今年のアニメ・エキスポに参加したスピード・レーサー
 コミコンと前後してアメリカの西端と東端で開催されるのが、日本製アニメファンの2大祭典であるロサンゼルスのアニメ・エキスポ(ANIME EXPO)とボルチモアのオタコン(OTAKON)。それぞれ会場中に溢れる「コスプレイヤー」たちを見ているだけで華やかだ。この中にいると日本人がヒーローになったような気さえする。

 さらに「アメリカ・夏のOTAKU祭り」を締めくくるように、8月中旬にロサンゼルスで開催されるのが「シーグラフ」(SIGGRAPH)。OTAKUはOTAKUでも英語ではGEEK(ギーク)と呼ばれ、IT関係者が多く収入もいいために最近は女性人気さえ高い“機械オタク” たちの祭典、世界最大と言われるコンピュータ・グラフィックスのコンベンションだ。 

 それまでのイベントと打って変わって、こちらの参加者は痩せている(そして眼鏡をかけている)人が多い。心なしか会場内も歩きやすい気がする。

「ポストプロダクション」が「プロダクション」となった時代

シーグラフでの、体に光るセンサーを付けたモーション・キャプチャーの実演
シーグラフでの、体に光るセンサーを付けたモーション・キャプチャーの実演
 ここでも様々なイベントが行われるが、記者が参加した中で印象深かったのは、『アイアンマン』のCGクリエイターによるトークイベント。どんな過程を経て最終的な映像が出来上がるのかを大モニターに映し出しながらレクチャーしてくれるのだが、ごく普通に見えるショットでもほとんどがデジタル処理されいることに驚く。まったくCGが使われていないのは全体でわずか40ショット以下だというのだ。

 記者がハリウッドのフィルムスクールにいた時分、多くの講師が同じことを言った。「映画はいい脚本といいキャストを揃えた時点で7割がた完成している」と。だが今は、「いいCGクリエイター」がいないとヒット作をつくるのは難しい時代になったようだ。かつての「ポストプロダクション」が「プロダクション」の中心になっているのを強く実感する。ここでも主役はOTAKUたちなのだ。

 シーグラフでは日本人をよく見かける。実際にハリウッドで活躍している関係者もいれば、この地でCGクリエイターになることを夢見て仕事探しにやって来た若い人も多い。彼らの中から次の『アイアンマン』や『ダークナイト』を手がけるクリエイターが生まれることを想像するのは、とても楽しい。

(LA編集部 鈴木淨)

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