ヘッダーの始まり

グローバルナビゲーションの始まり
ホームニュース特集インタビュー動画コラム(選択中)レビューランキングフォトギャラリーピックアップ
最新映画情報V ブログ教えて!エンタ業界転職情報フロムジャパンV プラスメールマガジンプレゼント映画データベース
パンくず式ナビゲーション

『ニュースの狭間』
“Watchmen”を「ウォッチ」せよ!
——超話題作の理由と宿命、そして訴訟——

 
2008/09/26

ニュースの狭間
取材現場でふと目についたこと。毎日ニュースを報道していて、見えてきたこと。バラエティ・ジャパン編集部員が流れていく「ニュースの狭間」にあるトピックを取り上げ掘り下げていくコラム。エンタテインメント・ニュースから、世界が見えてくる。

来年公開の超話題作“Watchmen”
来年公開の超話題作“Watchmen”
 ハリウッドは大作が出揃うサマーシーズンの興行を終え、秋からはアカデミー賞を狙うアート系作品に色を変えていく。振り返れば『ダークナイト』が牽引した夏興行だったが、コミック原作映画として今年最大の注目作と言われていた『アイアンマン』もやはり大ヒット、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』を抑えて2位につけている(注1)。

 『アイアンマン』がようやく日本で公開されるこのタイミングにも、ハリウッドは猛スピードで「次」に向かって動いている。来年公開のコミック原作映画で一番の話題作が“Watchmen”だ。

 注目が集まる背景には、傑作コミックといわれる原作とその映画化作品が長い間背負ってきた数奇な運命がある。今回はいち早く、超話題作“Watchmen”の世界を紹介したい。

注目作に共通する“育ちの苦しみ”
『アイアンマン』は高校3年生

公開まで18年かかった『アイアンマン』
公開まで18年かかった『アイアンマン』
 まずはすでに大成功を収めている『アイアンマン』との比較から話を始めよう。この2作品は、企画の発端から気が遠くなるほどの長い期間を経て公開に至ったという点でも共通しているのだ。

 『アイアンマン』は1990年4月にユニバーサルが初めて映画化権を獲得。その後権利は20世紀フォックス、さらにニューライン・シネマへとわたったのち、出版元のマーベルに戻っていく。

 この間、ニコラス・ケイジトム・クルーズクエンティン・タランティーノといった大物たちが同企画に意欲を見せたが、いずれも最終的な契約にいたっていない。監督にはスチュアート・ゴードンニック・カサヴェテスらの名前があがり、幾度もの脚本改訂がなされた。しかし繰り返された企画開発はどれも実を結ばず、結局、ジョン・ファヴロー監督作品としてゼロから開発しなおしたマーベルによって製作された。

 このように何度も思春期や挫折を経験、グレては更生しをくりかえした結果、人間で言うと高校3年生ほどの18歳にしてやっと今年、『アイアンマン』は公開にたどり着いたのである。

さらに上を行く公開までの23年
“Watchmen”はピッカピカの社会人

企画開発地獄を味わった“Watchmen”
企画開発地獄を味わった“Watchmen”
 “Watchmen”映画化までの道のりはさらに凄まじい。実に20年以上の、ハリウッドで言ういわゆる“デベロップメント・ヘル”(企画開発地獄)を味わってきたのだ。86年にプロデューサーのローレンス・ゴードンが映画化権を獲得し、フォックスで企画開発をスタート。その後ワーナー・ブラザース、ユニバーサル、パラマウントでの開発を経て、再度ワーナーに返っていく。

 その間、アーノルド・シュワルツェネッガーサイモン・ペッグダニエル・クレイグジュード・ロウシガニー・ウィーヴァーといった俳優が候補にあがり、テリー・ギリアムポール・グリーングラスダーレン・アロノフスキーがそれぞれ真剣に監督作として取り組んだ。しかしどれも開発は頓挫。大きな要因は、作品の長さと複雑なエンディングを2時間の脚本にまとめきれないことと、原作のテイストを損なわずに映像化するために膨れ上がってしまう予算にあった。

 07年、ようやくワーナーのゴーサインが下り、『300 スリーハンドレッド』で脚光を浴びたザック・スナイダー監督のもとで撮影がスタートした。こうして、生まれてから23年、数々の大物との恋愛を経験し、出会いと別れ、価値観の違いなどを学んで育った“Watchmen”は来年3月、ついに公開という名の社会人デビューを飾るわけである。

映画化作品がこれほど注目される
アメコミの名作“Watchmen”とは?

 マーベルは自社製作映画として『アイアンマン』、『インクレディブル・ハルク』を立てつづけにヒットさせた。ライバルのDCコミックスは『ダークナイト』を大きなステップにワーナーとの関係を強化し、これに対抗しようとしている。原作がDCの出版である“Watchmen”は、DCとワーナーが放つ“大いなる刺客”でもある。では、ここまで映画化が期待される“Watchmen”とはどんな作品なのだろうか?

コミック“Watchmen”
コミック“Watchmen”
 “Watchmen”は、原作アラン・ムーア、作画デイヴ・ギボンズにより86年から87年にかけて出版された12章からなるコミック(注2)。フランク・ミラーの“Batman : The Darknight returns”(映画『ダークナイト』の原作ではない)、アート・スピーゲルマンの「マウス——アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語」と並び、80年代後半のアメリカン・コミックを先導し、それまで失われていた大人の読者を呼び戻したとされる代表的な作品だ。
 
 あくまで大人向けなそのテイストは暗く暴力的。日本の作品に例えるのは難しいが、強いて言うなら同時代に描かれた大友克洋の「AKIRA」、またはダークな作風のときの手塚治虫作品か。作中に使われるナレーションの描写は松本零士作品のそれと非常に似ている部分もある。

 舞台は85年、コスチュームを着たスーパーヒーローたちが実在し、ソ連との核戦争勃発寸前の状態にあるアメリカ。広島への原爆投下をきっかけに世界の歯車は狂ってしまった。滅亡の日に向かい、カウントダウンの針が刻まれていく——。

 「ウォッチメン」というヒーローが登場するわけではない。タイトルは、「見張り屋たち」という意味の“Watchmen”と、物語の象徴として登場する時計の“Watch”をかけたもの。ここに出てくるヒーローたちはあくまでパロディとして描かれており、この点が従来のヒーローものとは大きく違う。05年には米タイム誌が選んだ、23年以降に発表された長編“小説”ベスト100にランクイン、またコミックとしては初めてヒューゴー賞(優れたSF作品または活動に与えられる権威ある賞)を受賞しているほか、多くの賞に輝いている。 日本でも98年に日本語版が出版されたが現在は絶版だという。

3つのキーワードで紐解く
“Watchmen”をとりまく人とビジネス

『300 スリーハンドレッド』の日本プレミアで来日した際のザック・スナイダー監督
『300 スリーハンドレッド』の日本プレミアで来日した際のザック・スナイダー監督
 “Watchmen”の映画化がこれだけ話題となり、待望されているのは、原作の評価や製作までの月日だけが理由ではない。そのほか複雑な人間関係と大人のビジネスが絡み合って注目度をあげているのだ。3つのキーワードからその糸をほどいてみたい。

① アラン・ムーアという原作者と映画

 アラン・ムーアの原作を映画化した作品はいくつかあるが、06年のナタリー・ポートマン主演作『Vフォー・ヴェンデッタ』の出来に失望したムーアは、この作品を含めて、自分の名前が原作者としてクレジットされることを認めなくなった。

 “Watchmen”については、映画化企画の初期段階から反対の姿勢を貫いており、当時の米バラエティ紙によるインタビューでは、「皆、“Watchmen”を映画的だと言うが、それは違う。正反対の作品なんだ」と話した。また、テリー・ギリアム監督がどうしたらうまく映画にできるかをムーアに訊ねたときに「率直に言って無理だ。これは映画にも小説にもできない、コミックだけができることを表現した作品だからだ」と答えたとも語っている。

 今回も断固クレジット拒否の姿勢を崩さず、自分の収入となるべき印税は作画のギボンズに入ることになっているという。ザック・スナイダーという監督の人選にも不満があり、完成した映画も「見ない」と断言している。

② 映像の新旗手、ザック・スナイダーという監督

 最近のコミックやアニメを原作とした映画には2つの流れがあると思う。ひとつはコミックの中のヒーローをリアルに実写で再現して現実世界に溶け込ませる、つまり非現実を現実にする手法。『スパイダーマン』や『バットマン』など多くの作品がこのカテゴリーに入る。

 もうひとつは映画全体の世界観や映像そのものをコミックやアニメの世界に近づける、すなわち現実を非現実にする手法だ。このベン図に入るのは、『300 スリーハンドレッド』や『シン・シティ』、『スピードレーサー』などである。

 ザック・スナイダー監督による『300 スリーハンドレッド』は、“低予算で製作するための映像技術の工夫”が結果として革新的な効果を呼び、興行的にも大成功した。これによって“Watchmen”の監督に抜擢されたスナイダーは今回、1億ドルという大作予算でどちらに挑んだのか? 

 すでに公開されている予告編を見る限りでは前者のようでもあり、ちょうど中間の世界を狙ったようにも見える。あくまでもクールなこの予告編は今年の「コミコン」(注3)で上映、原作のファンたちからの喝采を受け、さらに作品の期待値を上げた。
予告編の映像はこちらから

無事公開となるか? “Watchmen”
無事公開となるか? “Watchmen”
③完成しても公開できない? フォックスとの訴訟問題

 さらにこの因縁だらけの作品への注目度をあおっているのが、ワーナーとフォックスの間で勃発した法廷闘争だ。フォックスは今年2月、“Watchmen”の映画化権は自社が保有していると主張して提訴。ワーナーはこの訴えを棄却するように求めていたが、8月に連邦裁判所が正式に受理してしまった。(8月20日関連記事)。フォックスは金銭的な賠償よりも“Watchmen”の公開中止を求めていくという。審理が下るのは来年1月6日と決まった。

 これら幾重にもなった運命のレイヤーによって形づくられ、トリミングされた映画“Watchmen”。今後の展開はファンならずとも目が離せない。特にコミックやコミック映画を愛するあなたには、バラエティ・ジャパンのニュースで訴訟や公開の行方を“見張り”つづけることをおすすめしたい。

(LA編集部 鈴木淨)


注1)2008年全米夏季興行収入ランキング ※社名は配給会社、( )内単位は百万ドル

1 『ダークナイト』 ワーナー ($517.8)
2 『アイアンマン』 パラマウント ($318.1)
3 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』 パラマウント ($316.5)
4 『ハンコック』 ソニー ($227.9) 
5 『WALL・E/ウォーリー』 ブエナ・ビスタ ($220.1)
6 『カンフー・パンダ』 パラマウント ($214.6)
7 『セックス・アンド・ザ・シティ』 ニューライン ($152.6)
8 『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』 ブエナ・ビスタ ($141.6)
9 『マンマ・ミーア!』 ユニバーサル ($139.4)
10 『インクレディブル・ハルク』 ユニバーサル ($134.5)

注2)文中ではアラン・ムーア氏の発言を尊重し、コミックとグラフィック・ノベルを区別せず、すべてコミックと表記しています。

注3)米国におけるコミックとポップカルチャーを扱う業界最大と言われるコンベンション、Comic-Con International。

パンくず式ナビゲーション
広告エリアの始まり

フッターナビゲーションの始まり
フッターの始まり