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『ニュースの狭間』
日本ではありえない? 脚本家組合のストライキ
高須光聖氏ら放送作家に訊く

 
2008/02/08

ニュースの狭間
取材現場でふと目についたこと。毎日ニュースを報道していて、見えてきたこと。バラエティ・ジャパン編集部員が流れていく「ニュースの狭間」にあるトピックを取り上げ掘り下げていくコラム。エンタテインメント・ニュースから、世界が見えてくる。

 11月5日に始まった米脚本家組合(WGA)のストライキは、映画スタジオやテレビ局側との交渉が一時は泥沼化し、決着のつかないままいよいよ4カ月目に突入している。このストの影響で、1月13日(日)に予定されていたゴールデングローブ賞授賞式が中止という異例の事態も招き、ロサンゼルスの経済的損失も甚大だ。ストの動向は全米のニュースでも連日取り上げられ、大きな社会問題に発展している。

 日本でもWGAのように放送作家、脚本家たちのストライキは起こりうるのだろうか? この素朴な疑問を究明しようと、日本の脚本家たちがおかれている状況を調べた。

日本脚本家連盟が交渉する構成料の最低基準

 日本にもWGAのような組合はある。日本放送作家協会と日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会がそうで、これらの組合が果たす役割は、大きく分けて脚本家のための健康保険制度、再放送など2次使用の著作権管理、作品がもとで起きる訴訟の窓口としての機能などがある。
 シナリオ作家協会は主に映画のシナリオライターたちが所属する組合だが、今回は構成上、テレビのバラエティ番組の作家が所属する放送作家協会と脚本家連盟に焦点を絞った。

 放送作家協会は放送や放送作家の発展向上を目指す団体で、消えゆく放送台本を後世に残すために初の脚本アーカイブ設立などに尽力しており、文化的な団体という色合いが強い。
 放送作家の著作権管理や保護、脚本・構成料のランク交渉、リピート料の管理等は脚本家連盟が行っている。

 脚本家連盟の理事であり、同時に放送作家協会の常務理事でもある南川泰三氏によると、脚本家連盟は民放テレビ局・ラジオ局の団体である日本民間放送連盟(民放連)と、NHKとそれぞれ年一回交渉し、脚本料の最低基準を決めているという。

日本で脚本家たちのストはまず起こらない

 南川氏は語る。「あくまで個人的な意見ですが、WGAのようなストライキは日本ではまず起こりえない。無理です。局のディレクターやプロデューサーとの個人的なつながり、人間関係で仕事が成り立つ事が多いので、その後の仕事がやり辛くなったり、クビを恐れたりして、まずストには入らないでしょう。日本の放送作家の賃金に対する団結力は低いのです。たとえ、連盟がストを呼びかけたとしても足並みがそろわない。これをチャンスとばかりに仕事を得ようと抜け駆けする作家まで出てきますよ」

 「笑っていいとも!」「ポンキッキーズ」などを手がけてきた放送作家の内田英一氏も、「日本の場合は組合に加盟していない作家も多い。執筆料の交渉はディレクターやプロデューサーと個別にやりますが、予算も少ない場合が多いので、仕事が無くなるのは怖いからある程度のところでOKします。日本人にはどこか、“好きだからやってる仕事”と思ってあきらめるようなところがあると思います。局側が強いというよりも、作家側の気が弱い(笑)」と語る。

 また「ウルトラクイズ」「高校生クイズ」などを構成してきた山口克久氏は、「脚本家連盟と局側が決めた脚本料の最低基準が高いので、局は組合に所属しない作家を安く雇ったり、また実際には最低基準以下で組合メンバーの作家を使うというケースも多い。作家それぞれの立場が違うのでまとまりようがないですよね」と話す。

しっかり決まっていないDVD2次使用の脚本料契約

高須光聖氏
高須光聖氏
 さらに話を掘り下げて行こう。そもそも今回のWGAストライキの主な争点はDVDや、インターネットなどの新しいメディアでコンテンツが2次使用されたときの脚本料の分配である。

 ダウンタウンの出演番組の多くを手がけ、バラエティ番組を中心に活躍する放送作家の高須光聖氏に、このあたりの実情を訊いた。

Q. 日本では番組がDVDになった場合の構成料の分配はどう決まっているのですか?

「まあ、はっきり決まってないですね。日本のバラエティ番組の場合は、多くの作家が分業してひとつの番組に携わるので、DVDになった場合、ひとりひとりがどこまで権利を主張していいのかあいまいなんです。またディレクターも作家と同じようにアイデアを出すので、最終的に放送というかたちになったもののどこまでを作家が構成したのかもあいまい。だから主張するのが悪い気さえするんです。大体、ほとんどの場合は契約書自体がない。僕がやっているダウンタウンの番組のDVDは180億ぐらい売り上げがあるらしいですが、契約をしっかりやってないので、買い取りみたいなかたちでギャラをもらってますね。誰も最初はまさかこんなに売れると思ってなかったですからね」

 高須氏によると、映画やドラマのDVDの場合は、売り上げの1.75%が脚本家の収入の基準になっているが、バラエティの場合はそこまで高くないという。

番組が海外で放送されても一銭も入らない

 高須氏はつづける。

 「契約は局によってもプロデューサーによっても違います。一例で言うと、僕がかつてやった『未来日記』はアメリカのABCに売れてリメイクされて、20数カ国で放映されたけど、そのお金は一切、僕ら作家はいただいていない。この場合は作家全員が判子を押した局との契約書にそうなってるんですよね。でも、ひとりだけそれに判子押さなければ、『なんだ、あいつだけ』みたいな空気にもなりがちなんですよね、日本は」

Q. インターネットなど新しいメディアでの2次使用のケースはどうなっていますか?
 
「そのへんの契約は僕ら一切してないので、ネットで流れても何も入ってきません」

Q. アメリカでは局のサイトが運営する自社番組のストリーミングやダウンロードのサービスが盛んになってきましたが、もし今日本で同じようになったら、作家には一銭も入らないと?

「まず、そうでしょう。そんな契約してませんから。すごく遅れてますよ、日本は。それに作家がお金にシビアになっても、『面白いもの考える人間がそんなこと言うなよ』みたいに言われがちだから(笑)、言われたら腹立つし、じゃあ、いいやって放っておいた状態が今までつづいてるんじゃないかな」

テレビと作家の“ゆるい関係性”が生む最大の娯楽

Q. アメリカではWGAがストに入って間もなく、ドラマだけでなく、トークショーと呼ばれるバラエティの放送も中断され、再放送になりました。出演者のジョークをほとんど作家が考えているので。

「えーーー、そうなんですか。日本だったら、作家がストに入っても、ディレクターや演者(出演者)は『いいよ、じゃあ俺らで勝手に考えてやるから』ってなっちゃうでしょうね。『べつにあんたたちいなくてもいつもどおりのコーナーやって、小ネタ考えればいいんでしょー、じゃあできちゃうよ』って。1カ月ぐらいはできちゃう、少なくとも。文句言わない若いやつ何人か入れたほうがいいんじゃない、みたいな。悲しいことですが、視聴者は誰も気づかないまましばらく番組は流れていくかも。確実に質は落ちますけどね。どんどん落ちていくと思いますけどね。

 まあ総じて、日本のテレビは伝統的に作家ときっちりした契約を結んでこなかったんですよね。だからこれまでの歴史上、放送作家の一揆みたいなことがなかったんじゃないでしょうか。これからはどうかわからないですけど。

 でも、まあ逆に、だからこそ僕はくだらない、面白いやつらが現れたという部分も大きいと思いますけど。この前、日テレの土屋敏男プロデューサーとも話していたんですけど、『銭、銭、銭、権利、権利、権利』って言ってるやつらばっかりだったら、日本のテレビはもっとガチガチでつまらないものになってただろうと。このへんのぐうたらさが、日本独自のくだらないテレビつくってんじゃないか? みたいなことがね。僕はやはりテレビは日本で最大の娯楽だとおもってます。映画はまだ勝てないだろうと。日本のテレビはやっぱり面白い。で、多分それは、権利だとかがたがた言わない土壌の上に成り立っているんじゃないかな」

WGAは労働組合、脚本家連盟は協同組合

WGAストライキのピケライン
WGAストライキのピケライン
 もうひとつ、組織としての違いも脚本家たちが団結しない要因のひとつのようだ。

 実際に民放連やNHKと交渉をする日本脚本家連盟に問い合わせたところ、アメリカのWGAと彼らは基本的には違う団体だという。

 「アメリカのWGAが“労働組合”である一方、日本の脚本家連盟は“協同組合”なので、『中小企業と協同組合法』に基づいて民法連やNHKと交渉し、脚本料の最低基準を決めます。局と、連盟に所属する作家はこれを守らなければいけない。
 でも2次使用に関しては、脚本家連盟は、WGAとは違って、例えばJASRACのように、著作権の管理を委託されている団体に過ぎないのです。だから、ほかのところ(文化庁の著作権等管理事業法)で定められた使用料規定が守られているかを管理するだけで、局側とその分配について交渉する立場にはないのです」

コンプライアンス世代が変える? 日本的な体質

 しかし、どちらかというと日本で脚本家たちのストライキが起こらないのは、今回インタビューした放送作家たちが語ってくれた「日本的な人間関係」によるところが大きいだろう。
 また、高須氏が言うように、少なくともバラエティ番組に関しては、その局と作家のある意味“なあなあ”なつながりが、アメリカとはまったく質の違う日本の“笑い”を育ててきたという事実も良くわかる。作家側にとっては皮肉な話であるとも思う。

 日本で企業コンプライアンスが叫ばれて久しいが、今後、契約を遵守することに比較的敏感な現在の若い世代が活躍し、放送作家、脚本家たちの世代交代が起こるとき、放送局と作家たちのこの日本的な体質に変化は訪れるのだろうか?
 また、果たしてその時には日本のテレビ番組の“質”や“笑い”も変わっているのだろうか? 今のところは、日本の作家達がWGAのように、テレビ局の前でピケを張り、声を合わせてシュプレヒコールを行う姿は——ちょっと想像できない。

text by Kiyoshi Suzuki (Variety Japan LA)

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