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『仕事場訪問 名作はここで生まれる』
研ぎ澄まされた音に囲まれて
橋本文雄さんの宇宙を訪ねる

 
2007/10/19

仕事場訪問 名作はここで生まれる
さまざまなジャンルで活躍するトップ・クリエイターの仕事場を訪問し、そこから生み出された数々の名作のお話を聞く。

 クリエイターたちはどんなところで作品を生み出しているのか? 第1弾として、映画録音の第一線で活躍する録音技師の橋本文雄さんの仕事場にお邪魔した。
 東京郊外、多摩川の近く、日活撮影所内にある、ダビングスタジオ。そこが橋本さんの仕事場だ。
「映画の音っていうのは、セリフと音楽とそれから効果音、そういう3つの音から成っているよね。その3つを監督の意図するように効果的に表現し、全部の音を1つにするには、ここは一番大切な最後の仕上げをする職場なんだ」
 通常は年に2作品くらいのペースで仕事をされるというが、今年は、平山秀幸監督『やじきた道中 てれすこ』、蝶野博監督『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』、井坂聡監督『象の背中』とすでに3作品。日本映画が活性化していることもあるだろうが、巨匠は新人との仕事が大好き。今回の蝶野監督の仕事も「いい監督が一人でも増えると嬉しい。気をつけてあげるところを教えてあげられるから。そこで覚えてくれればいいし」と、急遽、引き受けたのだとか。
 大きなスクリーンを備えた今のスタジオは3、4年前に新しく建て替えられた。劇場に近い形で作業できるようになっている。
「昔はアフレコルームとか、ダビングルームとか分かれてなくて、全部が1つの大きなスタジオだったんだ。そこで全部音楽を録りながらやっていた。それが今は1つ1つ分かれてるからね。だから現在あるのは、僕がこの日活の撮影所へ来た1954年頃の建物とは全然違う」

 機材や録音システムといった技術は日々進化している。しかし、橋本さんは機材が変わっても仕事内容は変わらないと言う。
「映画の作り方は変わらない。基本がきちっとできていれば、どういう機材が発達しようが、それに対応できる。」
 機材の変化により、出来上がりも変わった。
「今まではアナログの音だったんだが、デジタルになって、よくなってる部分もあるし、冷たく感じる部分もある。われわれ人間の耳では、音そのものがよくなってるのかはわからんけど」
 助手時代から生意気だったという。「気に入らないものは気に入らないというところが、却って面白がられたり。叱られも、教えられもしたし、いまはその逆。でもすべての物事は善意が大切なんだよね」
 音を完璧に操れるファイナル・ダビングをやっているときが一番楽しいというが、撮影現場にも生ものの楽しさがあるという。根っからのアナログ人間。
「僕は、セリフは、昔のアナログの30年も40年も前から使ってるナグラ(※1)っていう録音機で録ってる。僕は、人間のセリフは、デジタルよりもアナログが好きだからね。それはこだわってる」

 長年お仕事されてきた中で、日活の撮影所での思い出は。
「(京都から)こっちへ来てもう53年経ってるんだよな。思い出なんていうのはそりゃ、数え切れないよ。初期のころは俳優さんも生え抜きのスタッフもいない、よそから引き抜かれて来た人たちの集団。やっとスターとして裕ちゃん(石原裕次郎)や旭ちゃん(小林旭)とか、女の子では、浅丘ルリちゃん(浅丘ルリ子)とか、吉永小百合ちゃんとか、そういう人たちが出てきて、日活の映画は隆盛していったわけでしょ」
 最後に、橋本さんにとって、理想の職場とは。
「そのときそのときで自分の能力を100%発揮できる、そういう職場になっていれば一番いいよね。自分で自分に自信があり、その能力があれば、遅れた機械であれ、古い機械であれ、それを使いこなせばいいわけだよ」

(※1)ナグラ:スイスのクデルスキー社が生産・販売しているプロ用の録音機。

●橋本文雄
1928年京都生まれ。1946年、大映京都撮影所録音部に入社し、伊藤大輔、衣笠貞之助、溝口健二らと仕事をする。1954年、日活に移籍し、1955年、西河克巳監督『生きとし生けるもの』で録音技師デビュー。川島雄三監督、今村昌平監督作品や石原裕次郎主演のアクションなどに携わり、日活の黄金時代の音を録り続ける。これまでに録音を担当した作品は、281本。その腕と人柄ゆえ、ベテランの監督からはもちろん、若手の監督からも慕われている。最近作は蝶野博監督『未来予想図 ~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』。公開待機作に井坂聡監督『象の背中』、平山秀幸監督『やじきた道中 てれすこ』がある。著書に「ええ音やないか~橋本文雄・録音技師一代~」。

『象の背中』
●プロデューサー:小滝祥平 監督:井坂聡 原作:秋元康 脚本:遠藤察男 撮影:上野彰吾(J.S.C.) 録音監督:橋本文雄
●役所広司、今井美樹、塩谷瞬、南沢奈央、井川遥、高橋克美、白井晃、小市慢太郎、久遠さやか、橋爪淳、益岡徹、手塚理美、笹野高史、伊武雅刀、岸辺一徳
2007年/日本/124分/10月27日公開
●配給/松竹

『やじきた道中 てれすこ』
●プロデューサー:渡辺敦、久保田傑、佐生哲雄 監督:平山秀幸 脚本:安倍照雄 撮影:柴崎幸三 録音:橋本文雄
●中村勘三郎、柄本明、小泉今日子、ラサール石井、笑福亭松之助、淡路恵子、間寛平、波乃久里子、麿赤兒、松重豊、山本浩司、吉川晃司、鈴木蘭々、ベンガル、六平直政
2007年/日本/108分/11月10日公開
●配給/松竹


photographs by Munetaka Harada

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