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『仕事場訪問 名作はここで生まれる』
念願の青春映画を生み出した
奥田瑛二さんのホームグラウンド

 
2007/11/01

仕事場訪問 名作はここで生まれる
さまざまなジャンルで活躍するトップ・クリエイターの仕事場を訪問し、そこから生み出された数々の名作のお話を聞く。

 クリエイターたちはどんなところで作品を生み出しているのか? 第2弾は、俳優としてだけでなく映画監督としても活躍する奥田瑛二さんの仕事場にお邪魔した。

青春映画を作りたかった

 東京のど真ん中。閑静な住宅街の瀟洒なマンションの一室に、奥田瑛二監督が率いる製作プロダクション“ゼロ・ピクチュアズ”はある。まるで監督の書斎に招かれたような雰囲気。もちろん、監督として四本目になる最新作『風の外側』もここから発信されている。
 『風の外側』は、いずれもこれが映画デビューとなる佐々木崇雄と安藤サクラを主演に据えた、心地良い風が吹きぬける硬質な青春映画である。
 「ふたりとも新人だったのが良かったかもしれない。佐々木くんは最初デクノボウだったから厳しくしたし、片や娘だから、よりシビア(な演出)になる。どちらかがダメでも連帯責任、ということでシゴいていたところはあります。佐々木くんの役は、どこか自分のできなかった青春映画を彼に託している部分もあるからね。そこはおろそかにしたくなかった。夢を持っている女の子と、夢を持てない男。この対比がいいバランスを生んでいると良いのだけど」
 青春映画については、俳優として忸怩たる想いがあった。
 「29歳でデビュー。だけど以後、泣かず飛ばずだった。自分としては、ようやく初めて青春映画ができる! と思えたのが36歳のときの『海と毒薬』。(共演した)渡辺謙ともよく話していた。『これは俺たちにとっての青春映画だ』って。とにかくコマとして扱われるのがイヤだったからね。たとえコマとして扱われるにしても意地は張ろうと思って、演ってましたよ。結局、あれが唯一の青春映画になった」

家族でプロの仕事
支えたのは映画人としての誇り

 安藤サクラは監督の次女。予定されていた女優がクランクイン直前で降板するアクシデントに見舞われ、急遽「ピンチヒッター」として起用した。
 「娘を見る愛情と、女優を見る愛情はまったく別。甘えの構図が(撮影現場に)見えるとダメだから、対外的にもより厳しく接しようとする。三倍ぐらい厳しかったんじゃないかな(笑)。怒鳴りまくった。ただ娘だから、“落ち込み方”は何となくわかる。助監督についている長女(安藤桃子)も、そのときは姉としてケアする。実は、そこまで見越して怒鳴ってました(笑)」
 次女が主演し、長女が助監督として、妻、安藤和津がスーパーバイザー(出演も)として参加する家族総出の映画作りながら、馴れ合いを決然と拒んだ颯爽とした肌合い。それが奥田監督、すなわちゼロ・ピクチュアズが創造する映画世界に思える。
 「ときには、心の神経を丸裸にしなければいけないのが役者の仕事。真実って何だろう? リアルって何だろう? と追求してきた。(俳優)デビュー作の藤田敏八さんをはじめ、熊井啓さん、神代辰己さんといった監督たちがそれぞれに追求してきたリアリティの垢みたいなものが自分には染みついている。それを鎧兜のように身に纏いながら、奥田瑛二個人としての情緒感、喜びや悲しみ、ロマンティシズムが生まれてくれば、それは新しい日本映画になる。そう思っているんです」
 「無我夢中で作った」ゼロ・ピクチュアズの底辺に流れるのは、映画人としての誇りである。
 「日本映画には、独立プロが切磋琢磨してきた歴史があるけれど、いままた、小さなプロダクションがメジャーの中にきっちりと参画して、しっかり作品を発表できるような仕組みを作らなければいけない。そうでなければ、(映画の)職人がいなくなってしまう。もはや、アートとか芸術を叫んでる時代じゃなくてね。職人こそが本物として認識されるべき時代だと思うんですよ。もともと日本はそういう国だったはずで。まず、職人にならなければいけない。プロとは決して失敗しないこと、だと思う。芸術家は結局アマチュアなんですよ。僕も一時期“芸術至上主義”なんて叫んでた(笑)。でも、いま考えるとチャンチャラおかしいね。映画を撮るようになってから、プロって何だろう? と本当に考えるようになりましたよね」

いちばん大切でいちばん責任感が必要な場所

 俳優としては25歳で入ったエージェンシーに32年間、変わらず所属している。
 「僕を拾い上げた恩人−−つまりエージェントの社長と二人三脚でやってきましたからね。一緒に成長してきた実感があるんです。やっぱり、最後まで自分を育ててくれた人と共存共栄していきたい。もう親子みたいなものですからね。社長が死ぬまで一緒にいますよ(笑)。義理もあるけど、性格的に面倒くさがりなんだろうね(笑)」
 そうした昔気質の映画人であるからこそ、もう一方の“新たなホームグラウンド”であるはずのゼロ・ピクチュアズにも骨太な意志が貫かれているのだろう。
 「ここは、いちばん大切な場所であると同時に、いちばん責任感が必要な場所でもある。(映画製作は)リスキーな世界だから、いつも覚悟はしてますよね。いつこの場所から出ていかなければいけなくなるか……とか。かといって、ここにいることに執着していてもダメ。逆にさらなる上を求めて、いまここでできるかぎりのことをしているつもりです。だからスタッフは、ものすごく重要。スタッフのひとりでも気が抜けていたら、映画界は伸びない。たとえば僕についてくるエネルギーを持っているかどうか。それは常に確かめています。エネルギーがあるかないかは、他のスタッフにも波及することだからね。だから厳しいですよ(笑)。女の子であろうが、男であろうがね」

●奥田瑛二
1950年愛知県生まれ。79年、藤田敏八監督『もっとしなやかに、もっとしたたかに』で主演デビューを果たす。以後、映画、テレビ、舞台と幅広く活動。86年、熊井啓監督『海と毒薬』で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。94年、神代辰己監督『棒の哀しみ』では、キネマ旬報、ブルーリボン賞など9つの主演男優賞を受賞する。2001年、『少女~an adolescent』で監督デビュー。以来、『るにん』、『長い散歩』(06年モントリオール世界映画祭グランプリ3冠受賞)といった作品を手がけ、国際的に高い評価を受ける。画家としても絵画個展や絵本などで活躍中。

(C)2007 ゼロ・ピクチュアズ/K・S・F
(C)2007 ゼロ・ピクチュアズ/K・S・F
『風の外側』
●原作・脚本・監督:奥田瑛二 プロデューサー:橋口一成 撮影:石井浩一
●出演:佐々木崇雄、安藤サクラ、石井卓也、加納史敏、久保京子、島田雅彦、安藤和津、かたせ梨乃、江原啓之、綾戸智恵、大友康平、北村一輝、夏木マリ、奥田瑛二
●2007年/日本/123分/12月22日新宿K's cinema、大阪第七藝術劇場ほかにて全国順次ロードショー
●配給/ゼアリズエンタープライズ


text by Toji Aida
photographs by Munetaka Harada

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