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『ピーター・バート、かく語りき』
大統領選挙で割れるスター票

 
2008/02/07

ピーター・バート
米バラエティ誌 編集長。ウォール・ストリート・ジャーナル紙とニューヨーク・タイムス紙のレポーターを経て、1967年にパラマウント・ピクチャーズへ。『ゴッドファーザー』『ペーパー・ムーン』『ローズマリーの赤ちゃん』など数々の名作のプロデュースに関わり、77年、独自の製作会社を設立。そこで『郵便配達は二度ベルを鳴らす』などの作品をプロデュースする。MGM/UAの上席副社長を経て、89年よりバラエティ誌の編集長兼副社長を務める。

スターの政治的見解は常に論議の的

 大統領選挙が盛り上がってくると、ハリウッド・スターたちは候補者やこの国の抱える問題について、口々に論じ始める。そしてスタジオのトップたちを縮み上がらせる。政治は議論を生む。だから、スターたちは見られるべき存在であって、意見を口にするべきではないと考える者は多い。彼ら曰く、選挙運動は、有名人が関わらずとも、十分賑わうということだ。

 こういった意見には、少なからず偽善が伴う。企業の経営者たちは、富や権力を振りかざし、自分のお気に入りの候補者たちを支持する。それならば、スターたちが自分たちの信念の基に、有名人としての力を使うことがなぜいけない? と反論する者もいるだろう。

 悲しいかな、少しは黙っているようにと最も強烈な非難を浴びている俳優は、この人——そう、トム・クルーズである。彼自身はそんなふうになるとは思ってもいなかったはずだが、俳優は政治や宗教についての意見を自分の胸に秘めておくべきだと思っている輩にとって、彼は絶好の槍玉となっているのである。

 2年前がクルーズにとっての転機となったようだ。(パラマウントの経営者)サムナー・レッドストーンがクルーズを追い出した時、彼はユナイテッド・アーティスツに居を構えた。そしてスタジオを所有する俳優として、自らメディアにアピールした。新しいステータスへの責任と制約の両方を請け負うため、必死だったように見受けられた。

 そして先週、クルーズは本領を発揮した。SAG賞授賞式の最後にプレゼンターとして登場するという名誉を与えられた彼は、冷静沈着かつ自信たっぷりに表れた。だが、他のプレゼンターたちと違って、クルーズは受賞作品とは一切関わりがなかった。まるで、SAG(米俳優組合)がハリウッド星団(constellation)の一角に、彼のユニークな居場所をあてがったかのようだった(注:constellationはユナイテッド・アーティスツの所在地でもある)。

 いや、本当はそういうことではない。たとえオプラ・ウィンフリー(テレビ番組の人気司会者)の番組に出て、ソファーの上でジャンプするのを止めても、クルーズはサイエントロジーの広告塔で、より執拗に、論議の的となっているようだ。彼の行動はかつてないほど、彼こそが、人生や科学、映画の究極の真実に通ずる唯一、独特の存在、トム・テリフィック(とびっきりのトム)である、という自信に満ち溢れている。

 あえて言っておくと、スタジオの経営者として彼が達成したものは、彼の独特のステータスを上手く反映できていない。最初に製作した作品『大いなる陰謀』は失敗に終わり、宣伝活動もむなしい努力に終わった。メディアに出るたび、彼はこの映画がロバート・レッドフォードへの尊敬の念から発生したものだと繰り返し主張していた。「反戦」といった言葉や、この映画が探求していた本当のテーマについては一度も触れられたことはない。

 クルーズがいかに頑なにこのメッセージにこだわっていたか、ということについては、アンドリュー・モートンの新刊 “Tom Cruise: An Unauthorized Biography”(トム・クルーズ:未承認の伝記)に詳細が記されている。この本の表紙には、あの有名なクルーズの言葉が書かれている——「事故に遭った人を見捨てることはできない。何故なら、サイエントロジーの信者のみが、その人を助けることができるからだ」。すでに数年経っていながら、このクルーズのサイエントロジーへの奇妙な敬意が、ウェブ上で大量のアクセスを引き起こしたことは、不思議ではない。

 クルーズの敬意表明を見て、そういえば業界のトップの俳優たちが、クルーズが自分の信念を貫くために公的地位を利用したというさまざまな逸話を話していたことに興味が湧いて来た。この情熱によって、エンタテインメント業界の中での彼の地位が歪み、人々は尊敬というより疑惑の念で彼を見るようになった。

 誰もが自分の信念を提唱する権利を持っていることは言うまでもない。だが、サイエントロジーの信仰と慣習——そして数多くの訴訟にまつわる歴史は——クルーズを疎外させた。サイエントロジーの信者であることは、ルター派教会の信者であることとは違う。クルーズがマット・ロウアーに精神病や多動症の子どもの治療について唱えるところや、ブルック・シールズへ大演説をふるうところを、皆が見てしまった。

 私自身は、クルーズがサイエントロジーの “オペレーティング・セタン7”のレベル(注:サイエントロジー内で定められたランク)を達成したことを嬉しく思う。それに、彼がL. ロン・ハッバード(注:サイエントロジーの創立者の一人)の地球への帰還を心から信じていることや、サイエントロジーが “スクーター” リビー(ジョージ・W・ブッシュ大統領の元アシスタント)や元国務副長官のリチャード・アーミテージとヨーロッパで会えるようにお膳立てしていたことなども、よかったと思う。

 撮影の間、クルーズは、大臣たちはボランティアで俳優たちの助けをするためにテントで待機していると思っていたかのようだ。俳優たちはサイエントロジーの考え方に興味を持っているか、そうでなければ苦しい日々を送っているのだから。

 クルーズの熱意には、称賛すべきところと心をかき乱すところと両方ある。明らかに、彼は自分の信じるものに救われたのであろうし、本人は、それが他者をも助けると思っているのだろう。しかし、たとえ自由社会であっても布教活動を受け入れるには限界があるのだが、トム・テリフィックは “クルーズ” するための舵取りを誤ってしまったようだ。

 このような彼の言動のすべてが与えるインパクトは、ユナイテッド・アーティスツやMGMの関係者たち、そして彼らの映画への出資者にとっても心配の種である。アンドリュー・モートンの本によると、ドイツでの『ワルキューレ』の製作部隊は、サイエントロジーがヨーロッパで活動を広げるための新主導体制をも兼ねていた、と、本当とも嘘ともつかないような話なのである。

 実際、ドイツではクルーズにいくつかの場所での撮影を許可しないという問題があった(結果的にそれは許可された)。サイエントロジーはドイツで常に論議を醸しており、それが、クルーズがテレビのインタビューに答えた際、ナチに関する失言をしたことで状況を悪化させてしまっていた。

 何はともあれ、クルーズはクルーズである、ということは、はっきりした。彼も、かつては礼儀正しく、目上を立てることを知っていた。クルーズに直接会ったら、彼を好かないでいることは不可能だ。と同時に、彼は論争の避雷針でもある。その論争は、自分が巻いた種なのだが。

 それがまた、ハリウッドの権力者たちをして、映画スターは社会問題についての言及に気をつけるべきだ、と言わしめる原因にもなっている。クルーズのようなスターたちはブランドそのものなのだ。ブランドは、不可知論的でなければならない。ブランドは無味乾燥を意味する。もちろん政治に関しても、だ。

 これから大統領選挙までの数カ月間、政治に無関心でいることなど、できるはずもないのだが。

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