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『ピーター・バート、かく語りき』
重箱の隅をつつくハリウッド

 
2008/02/19

ピーター・バート
米バラエティ誌 編集長。ウォール・ストリート・ジャーナル紙とニューヨーク・タイムス紙のレポーターを経て、1967年にパラマウント・ピクチャーズへ。『ゴッドファーザー』『ペーパー・ムーン』『ローズマリーの赤ちゃん』など数々の名作のプロデュースに関わり、77年、独自の製作会社を設立。そこで『郵便配達は二度ベルを鳴らす』などの作品をプロデュースする。MGM/UAの上席副社長を経て、89年よりバラエティ誌の編集長兼副社長を務める。

スターたちへの注目はこれから

 先週は、ハリウッドにとって、つらい1週間となった。いよいよ仕事が再開されてしまったのである。

 脚本家たちは、筆を取っているより、ピケを張っているほうが楽しいという現実を乗り越えなくてはならない。製作責任者たちは、二度とおいしい契約にはこぎ着けられないかも知れない、という現実を潔く受け入れなくてはならない。主婦や主夫たちは、家という自分のテリトリーをようやく取り返し、配偶者たちをオフィスに追い立てる。

 米脚本家組合西支部のパトリック・ヴェローン支部長は、今回のストライキは、労働運動として間違いなく「今世紀始まって以来、最も重要なストライキ」だったと主張している(もちろん、そう言うだろう。自分が先導したのだから)。しかし、彼よりも冷静な傍観者たちは、果たしてこの犠牲の対価は十分得えられたのかをはかろうとしている。脚本家たちはインターネットからの利益の一部を得る足がかりを作ったが、それを得るにあたって、これまで持っていた仕事を失った。結束に溺れた脚本家たちが、今、抱えているのは、未払いの請求書や滞納した養育費だ。

 脚本家のマイケル・ウォルフは、これまでになく不機嫌な調子で、ヴァニティ・フェア誌にこう書いた。今回のストライキによって、ハリウッドがもはや「時代精神を司る、すばらしい場所などではない」ことが証明された。そして、「右肩下がりの業界で、小さなパイのかけらを巡って争う、怒りっぽい経営陣と、陰気な顔をした労働者の集まりだ」とも言う(もちろん、もう長い間ウォルフの脚本は売れていないのだから、いや、売ろうとしてもいないのかもしれないが、彼が不機嫌なのももっともなことだ)。

 経営者と脚本家の関係がしっくり行っていない兆候の一つは、組合同士がそれぞれを侮蔑の眼差しで見ているところに表れている。脚本家たちは監督たちを忌み嫌う。だからこそ、脚本家たちは、自分のマッチョな戦略を持って、業界を跪かせたと主張する。だが監督組合の事情通に聞けば、そうは言わないだろう。監督たちは、自分たちの契約こそが脚本家たちに道を作ったと思っているし、製作責任者たちがストライキのために失った賃金や利益分配のツケを払うことになったと信じている(一介の照明係やケータリング業者への影響は言うまでもなく、だ)。

ストライキの決行を決める投票権は現在働いている俳優のみが持つ、という条件を出した大物スターのひとり、ジョージ・クルーニー
ストライキの決行を決める投票権は現在働いている俳優のみが持つ、という条件を出した大物スターのひとり、ジョージ・クルーニー
 そして今度は俳優たちも、自分たちの機能不全を公表した。米俳優組合(SAG)のリーダーたちが注目の的になりつつある今、大きな反乱が起きようとしている。ジョージ・クルーニー、メリル・ストリープ、ロバート・デ・ニーロ、そしてトム・ハンクスといったビッグスターたちは、組合幹部に交渉を早めに開始することを要求。そして、極めて異例の条件を提示する嘆願書が回っている。つまり、ストライキを決行するかどうかという問題に直面した場合、現在働いている俳優のみが投票権を持つ、というのだ。

 ハリウッドがこれで気が散るという言うなら、消費者たちは すでに違うレベルで気が散っているだろう。脚本家たちが過去3カ月に渡ってプラカードを掲げていた間、視聴者たちは、さんざんネット・サーフィンを続け、DVDを購入し、ビデオゲームをして、オンラインで動画を鑑賞し、あるいは何かしら他のやり方で、勝手に楽しんでいた。

 まるで俳優たちの動きに反応するかのように、テレビ局の重役たちは新しい経費削減を検討し始めた。ギャラの高いタレントとの契約を切ったり、パイロット版への予算の見直しをしている。

 賢明な傍観者はこう思うことだろう。「こういった動きは、俳優にとって良い兆候なのか? マイケル・ウォルフが言うところの『怒りっぽい経営陣たち』が、ますます怒りっぽくなるのではないか?」

 先週、脚本家組合は新契約を結んだのだが、それにしてもハリウッドは、脚本家組合が目標達成に向かって見せた確固たる団結力に舌を巻いている。明らかに、彼らの奥の手は、労働階級のイデオロギーを前面に押し出した戦略をとることだった。

 ストライキは、脚本家をプロデューサーに対立させただけではなかった。これは、労働者が企業の貪欲さに立ち向かった闘いでもあったのだ(ストをしていた脚本家の中には、対立するスタジオ側の幹部より高額を得る者もいたが、そういう事は関係ない)。皮肉なことに、企業の幹部たちは主に中流階級出身で、両親が組合員だったという者が多かった。

 イデオロギーへの偏向という面で鑑みると、メディアは客観的な報道をするのにかなり苦戦した。多くの記者たちは、脚本家たちに共感していた(ある意味、彼らも“執筆家”だから)。

 時折、この偏りが認識できる一方で、主要メディアはおおむね、驚くほど自制の態度を示した。それに比べてブログ界では、辛辣な不協和音が発せられていた。このブロガーたちとは、自制の声をかき消そうとしている、脚本家組合の下っ端たちのようだった。

 だが、ようやく仕事に戻る時が来たのだ。請求書の支払いをしなければならないし、番組の撮影を終わらせなければならない。映画も製作を再開しなれければ。これこそが、マイケル・ウォルフが言うところの『陰気な顔をした労働者』のバナーを掲げるということだ。俳優組合までがストに入るという決断をしない限りは。

 とどのつまり、機能不全にもそれなりの魅力があったということだ。

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