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カンヌがリスペクトする日本映画

2008/07/04
カンヌが注目する日本映画とは? ウディ・アレンを筆頭に、ダルデンヌ兄弟やスティーヴン・ソダーバーグなど、カンヌ映画祭に出席した経験を持つ総勢9人の映画監督が、影響を受けた日本映画や監督について赤裸々に語った。世界の黒澤明や、小津安二郎、溝口健二などをはじめとした巨匠はもちろん、現役の女優である蒼井優に至るまで、日本映画はカンヌに影響を与えていた。

●INDEX
 ウディ・アレン  ダルデンヌ兄弟  スティーヴン・ソダーバーグ  ビクトル・エリセ
 ジェーン・カンピオン  レオス・カラックス  ポン・ジュノ  アンドレイ・コンチャロフスキー


黒澤明の骨太なドラマ作りに惹かれたウディ・アレン

ウディ・アレンの最新作は『Vicky Christina Barcelona』。主演をハビエル・バルデムが務めるほか、共演にペネロペ・クルスやスカーレット・ヨハンソンなどをそろえるなど、豪華キャストに期待が高まる
ウディ・アレンの最新作は『Vicky Christina Barcelona』。主演をハビエル・バルデムが務めるほか、共演にペネロペ・クルスやスカーレット・ヨハンソンなどをそろえるなど、豪華キャストに期待が高まる
 女性の気持が分かり、女性をちゃんと描けるという点では、大方の予想通りイングマール・ベルイマンを尊敬しているというウディ・アレン。他に影響を受けた監督として挙げる名前も、フェデリコ・フェリーニカール・テオドール・ドレイエルなどと意外なくらいにオーソドックスだが、「白黒映画からカラーへの移行をスムーズに行ったという点では、黒澤明とミケランジェロ・アントニオーニが双璧」と絶賛する。特に黒澤監督については、彼と組んでいた撮影監督といつかは絶対に仕事をしたいと切望。「言葉の壁は?」と訪ねると、「チェン・カイコー組のチャオ・フェンとも仕事をしたが、通訳さえいれば何の問題もなかった」とキッパリ。

 思えば、『さよなら、さよならハリウッド』は、耳が聴こえない自分をカリカチュアライズし、中国系の撮影監督とのやりとりも描いたかなり自虐的作品だった。「黒澤明はビジュアル面だけでなく、ドストエフスキーシェークスピアに題材をとった骨太のドラマ作りにも惹かれる」とのこと。日本未公開作“CASSANDRA'S DREAM”は、「そうした部分にも影響を受けている」とか。


吉田喜重の映像美を揃って称えたダルデンヌ兄弟
(兄:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、弟:リュック・ダルデンヌ

 小津安二郎溝口健二黒澤明はもちろん、「フランスで近年特集が組まれている吉田喜重を”発見”して、その独特の映像美にびっくりした」という。この感想も兄弟そろって一緒というのが彼ららしい。吉田はリヨンでオペラ演出を手がけたりするなど、確実に彼の地で浸透していると言えそうだ。
兄弟で監督をこなす、兄ジャン=ピエール・ダルデン(写真左)と、弟リュック・ダルデンヌ(写真右)。第61回カンヌ国際映画祭では、最新作『ロルナの沈黙(原題)』で脚本賞を受賞した
兄弟で監督をこなす、兄ジャン=ピエール・ダルデン(写真左)と、弟リュック・ダルデンヌ(写真右)。第61回カンヌ国際映画祭では、最新作『ロルナの沈黙(原題)』で脚本賞を受賞した


本多猪四郎の『マタンゴ』を観て恐怖に震えたスティーヴン・ソダーバーグ

革命家チェ・ゲバラの生涯を描いた『CHE(原題)』を監督したスティーヴン・ソダーバーグ。前後編合わせ4時間半ともなる大作は、2009年に日本での公開を予定している
革命家チェ・ゲバラの生涯を描いた『CHE(原題)』を監督したスティーヴン・ソダーバーグ。前後編合わせ4時間半ともなる大作は、2009年に日本での公開を予定している
 「少年時代に観た『アタック・オブ・マッシュルーム・ピープル』(邦名:マタンゴ)が、これまでで一番自分を震え上がらせてくれた。20歳までマッシュルームが食べられなかったくらい特別な怖さだ。やはり子どものころ観た『クリスマス・キャロル』のスクルージ役を演じたアルバート・フィニーが踊るところも相当怖かったが——そんな彼と『エリン・ブロコビッチ』で仕事できたときは、感慨深かったよ(笑)。当時はあの人間たちが水爆実験とかと関わってるなんて知る由もなかったが……」

 4時間28分の大作『CHE』で、チェ・ゲバラの後半生を描いたスティーヴン・ソダーバーグ。ゲバラが30歳のとき、わざわざ広島を訪れていることをどう思うか聞いてみたかった。


溝口健二の墓までも訪ねたビクトル・エリセ

 初来日時には、ノーベル賞作家、オクタビオ・パスの訳した『奥の細道』に自分で革のカバーをしたものを持参。比叡山で一人黙想もしている「スペインのテレンス・マリック」((c)アントニオ・バンデラス)ことビクトル・エリセ。当時存命中だった川喜多かしこ、和子さん母娘に案内されて、溝口健二監督の墓参りもしている。

 「日本の映画監督には有形無形で影響を受けているよ」といい、『10ミニッツ・オールダー』では、ロルカの収集したスペインの小村の子守唄を大事に大事にモチーフにした彼。その密やかなたたずまいこそ、溝口や小津の含蓄に通じると言えるだろう。
総勢15人の監督が参加した2本のオムニバス映画『10ミニッツ・オールダー』。ビクトル・エリセは『人生のメビウス』編で『ライフライン』を監督した
総勢15人の監督が参加した2本のオムニバス映画『10ミニッツ・オールダー』。ビクトル・エリセは『人生のメビウス』編で『ライフライン』を監督した


北野武の『HANA-BI』に特別な思いを抱くジェーン・カンピオン

『ピアノ・レッスン』などを代表作に持つジェーン・カンピオン。今年のカンヌ映画際にでは、実在した英国詩人ジョン・キーツにスポットを当てた最新作“Bright Star”を出品した
『ピアノ・レッスン』などを代表作に持つジェーン・カンピオン。今年のカンヌ映画際にでは、実在した英国詩人ジョン・キーツにスポットを当てた最新作“Bright Star”を出品した
 「映画を勉強していた学生時代も、日本映画はよく観たけど、ヴェネチア映画祭で初めて審査委員長をつとめた時、金獅子賞に推した『HANA-BI』の北野武はまた特別ね。あれでもう少し血が出ないとパーフェクトなんだけど(笑)。彼が今後、どんな映画を作っていくのか、同時代人としてとても興味があるわ」と話すジェーン・カンピオン。

 2007年のカンヌ映画祭。35人の映画監督が撮った短編アンソロジー『それぞれのシネマ』の記者会見では奇しくも隣り合わせだった北野武。今度は北野監督の意見も聞いてみたい。


自作のキャッチコピーに溝口健二の名を連ねたレオス・カラックス

東京を舞台に描いたオムニバス作品『TOKYO!<メルド>』でカンヌ映画際に参加したレオス・カラックス。長い隠遁生活を経ての復活に期待が集まる
東京を舞台に描いたオムニバス作品『TOKYO!<メルド>』でカンヌ映画際に参加したレオス・カラックス。長い隠遁生活を経ての復活に期待が集まる
 今年のカンヌ映画祭で披露された『TOKYO!<メルド>』では、「ミゾグチとゴジラの街で何か撮ってみないかという誘いを喜んで受けた。とても楽しみだ。」と映画ファンを喜ばせる惹句がついていたが、自身のアルターエゴであるドゥニ・ラバンが絞首刑にならんとするシーンは、まさに大島渚の『絞死刑』。

 再始動したかつての天才映画小僧(!)レオス・カラックスが、これからどんな隠し球を見せてくれるのか。撮影監督のチョイスも含めて楽しみだ。


行定勲黒沢清岩井俊二、彼らの映画を通じて知ったスタッフ&キャストを起用したポン・ジュノ

ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックスとともにオムニバス映画『TOKYO!<シェイキング東京>』を監督したポン・ジュノ
ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックスとともにオムニバス映画『TOKYO!<シェイキング東京>』を監督したポン・ジュノ
 レオス等と製作したオムニバス映画『TOKYO!<シェイキング東京>』で、また新たな一面を見せてくれたポン・ジュノ。「今回、直接的に刺激を受けたのは、中野正貴の写真集、『TOKYO NOBODY』です」との発言も面白かったが、起用したスタッフやキャストに関しては「撮影監督に大好きな行定勲組の福本淳、照明には黒沢清が監督した『』のライティングがすばらしかった市川徳充、そしてヒロインは岩井俊二監督の『花とアリス』で見初めた蒼井優」と語るストレートさがとってもいい。日本映画をここまで好きでいてくれるなんて、と元気になります。

 福本×市川コンビの起用には、行定監督の「ロックンロール・ミシン」も大きな意味をなしたようだ。同作品での二人の仕事がすばらしく、16ミリの小さいサイズでありながら、とても美しい作品だと思ったとか。


黒澤明のシナリオを基に『暴走機関車』を監督したアンドレイ・コンチャロフスキー

2007年、60回目を迎えたカンヌ映画祭を記念して製作されたオムニバス映画『それぞれのシネマ』の一遍『暗闇の中で』を監督したアンドレイ・コンチャロフスキー。同作品は2008年8月に東京・渋谷のユーロスペースで公開を予定している
2007年、60回目を迎えたカンヌ映画祭を記念して製作されたオムニバス映画『それぞれのシネマ』の一遍『暗闇の中で』を監督したアンドレイ・コンチャロフスキー。同作品は2008年8月に東京・渋谷のユーロスペースで公開を予定している
 「お互い、“アンドレイ””アンドレイ”と呼び合っていたよ(笑)」というアンドレイ・タルコフスキーとともに、「小津安二郎、溝口健二はもちろん、黒澤明のこともちゃんと評価していたよ」と話すアンドレイ・コンチャロフスキー。「ついでに言うと、僕ら2人からはお茶運び的扱いをされていた(笑)、弟のニキータ(ミハルコフ)もさ」とか。

 確かにコンチャロフスキーの代表作の一つは、黒澤明のシナリオを基にした『暴走機関車』だし、小澤征爾と組んだミラノ・スカラ座のオペラ『エフゲニー・オネーギン』の決闘シーンは、“極端に照明を落とし、黒澤の白黒映画を意識して演出した”見るからに映画的なものだった。「黒澤の映画自体がどこかオペラに通じるものがあるんだよ」と興味深い意見も。

text by Yuki Sato

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