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奥田瑛二

2007/12/21

アジア映画がぶっちぎり


先達の様式を踏まえた新しい日本映画作り

 前作『長い散歩』がモントリオール世界映画祭でグランプリをはじめ三冠を獲得した奥田瑛二監督。デビュー作『少女〜an adolescent』からヴェネツイア国際映画祭批評家連盟週間に出品、パリ映画祭、AFI映画祭では最高賞に輝くなど、世界の映画祭に積極的に関わってきた。そもそも、俳優として主演した熊井啓監督の『海と毒薬』がベルリン国際映画祭で銀熊賞を、『千利休 本覺坊遺文』がヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞するなど、国際的な視野を育んできた映画人である。

「僕は、黒澤明監督の作品が大好きなんですよ。だからなのかな。映画はリアルでなければいけないけれど、同時にエンタテインメントでなければいけないと考えている。日本映画の先達の様式を踏まえつつ、自分の心にあるロマンティシズムを表現すると、僕なりの新しい日本映画ができるんじゃないか。それは『少女〜』の頃から思ってましたね」

日本・中国・韓国が一緒に映画を作る時代へ

 では、世界の中の日本映画の状況については、どう捉えているのだろう。

「アジアの映画が、ぶっちぎってますね。その中で、日本と中国が(一歩前に)出たり抜かれたりしつつ、韓国が迫っているという状態。韓国自体、ハリウッド的な映像作りに飽きてきて、本来の韓国的なのものに回帰し、それらが混ざり合うと、今度は逆に(日本と中国も)抜かれそうになる。そうなると−−もう既にいくつかは実現しているけれども−−今度は日本と中国と韓国が、言葉の壁を乗り越えて、一緒に作っていくという時代になる。実際、台湾も含めて、アジアの国が協力し合う製作システムが生まれつつある。上海にも北京にも素晴らしい(撮影)スタジオがありますから。僕も上海のスタジオで撮ってみたいなと思いますよ。西洋の映画に関しては、たとえばスペインあたりがこれまで以上に前に出てくる気がします。それにヨーロッパはこれからどんどん壁がなくなっていくでしょう。逆にヨーロッパの監督が、日本で映画を撮る。フランスなり、ドイツなり、イギリスなりのディレクターが日本に赴く。そういったことが増えてくるとも思いますね。そうなると、こちらもフランスに行って撮りたいな、と思いますよね。観光映画じゃなくてね。向こうの俳優を使って、しっかりと」

 そして、アジアの映画が刺激的である理由を次のように述べる。

「アジアの病巣だね。子供のこと、環境汚染のこと……。題材的にはドキュメンタリーの要素だけれど、その空の下で暮らしている人間たちの中には、極悪人もいれば貧乏な人もいれば正義感を持って生きようとしている人もいる。そこに目線を置くと、すごいエンタテインメントが出来る。社会現象を掴まえて告発するとかではなく、そこにはアクションもあれば、心の汚れや愛の重要性など、いろいろなものが混ざり合っている世界。裕福と貧困の格差社会の中に、ものすごく薄汚れた別の社会がある。拳銃がなくても、ハリウッドのガンアクションに勝てるエンタテインメントが作れるんだよ。これは映画としてメチャクチャ魅力的ですよね。日本人も中国人も韓国人もそうだよね。たとえば、この土壌で国際的ディテクティブ・ストーリーなんかを作ったら、アメリカ映画を超えてしまうかもしれない。僕の頭の中にも、何本か企画がありますよ」

善と悪のバランスが必要

 つまり、私たちが生きている場所には、映画を活気づかせるファクターが幾つも転がっている、ということだろう。しかし、おそらく奥田監督は社会的な主題を扱い、世界規模のエンタテインメントを撮り上げることがあっても、彼ならではのロマンティシズムを手ばなすことはないはずだ。

「(映画は)愛の歓びと、愛の哀しみだよね。やっぱり、人が傷ついたり喜んだりするというのは、いつも何かの不条理さと背中合わせだし、天国と地獄は紙一重。全世界的に、このあたりのバランスが崩れかけている。でも、そこにこそ本当の愛はあるのだと思う。でも、同時に悪魔もいる。愛ばかりになってしまったら、映画を撮る意味もない(笑)。愛ばかりだと、すべてのものに対して価値観がゼロになる。だから、善と悪のバランスは必要なんだ。世の中には、悪人もいなければいけないし、善人もいなくてはいけない。善人ばかりになってしまったら、ご飯も食べたくなくなっちゃうよ(笑)。逆に生きる意味を見出せなくなる」

text by Toji Aida
photographs by Munetaka Harada



Eiji Okuda 1950年愛知県生まれ。79年、藤田敏八監督『もっとしなやかに、もっとしたたかに』で主演デビューを果たす。以後、映画、テレビ、舞台と幅広く活動。86年、熊井啓監督『海と毒薬』で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。94年、神代辰己監督『棒の哀しみ』では、キネマ旬報、ブルーリボン賞など9つの主演男優賞を受賞する。2001年、『少女~an adolescent』で監督デビュー。以来、『るにん』、『長い散歩』(06年モントリオール世界映画祭グランプリ3冠受賞)といった作品を手がけ、国際的に高い評価を受ける。画家としても絵画個展や絵本などで活躍中。

『風の外側』
●プロデューサー:橋口一成 原作・脚本・監督:奥田瑛二 撮影:石井浩一
●佐々木崇雄 安藤サクラ 石井卓也 加納史敏 久保京子 島田雅彦 安藤和津 かたせ梨乃 江原啓之 綾戸智恵 大友康平 北村一輝 夏木マリ 奥田瑛二
●2007年/日本/123分/12月22日公開 新宿K's cinema、大阪第七藝術劇場ほかにて全国順次ロードショー
●配給/ゼアリズエンタープライズ

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