
ドロドロの愛憎劇を、鮮やかに裏切る

キム・テシク●1959年ソウル生まれ。1980年ソウル芸術大学映画学科在学中に日本へ留学。日本映画学校で学んだ後、TVやCMディレクターとして日本、オーストラリア、香港でキャリアを積む。パク・チョルス監督作『家族シネマ』の助監督を務めたことから映画界へも進出。脚本、監督を務めた本作で長編デビューを果たす。
妻の愛人に“会う”。実に、興味深いタイトルだ。一見ギョッとするほどに直接的なのだが、そっと添えられた英題“DRIVING WITH MY WIFE’S LOVER”で、「おや?」と思う。そして、グチャグチャに割れた赤いスイカの中にいる、お世辞にも美男子とは言えない(失礼!)主演俳優=パク・クァンジョンの顔が切り抜かれたポスタービジュアルを見て、さらに「ん?」と思う。自分の妻の浮気相手に、怒り狂った夫が復讐するドロドロ愛憎劇を、どこかでうっすらでも思い描いていた大半の観客は、いい意味で裏切られるだろう。とても鮮やかに。
さえない中年男・テハンが、ある日、意を決して妻の愛人=ジュンシクに会いに行く。彼は美しい妻=ソオクのいるタクシー・ドライバー。ジュンシクのタクシーに乗り込み、浮気の現場を押さえようという魂胆のテハンだったが、そうとは知らないジュンシクは長距離の客を拾えて終始ご機嫌。こうして男2人の奇妙なドライブが始まって……。
あえて“反韓流”を謳っている本作には、号泣するようなドラマティックな出来事も起こらず、ありえない偶然も頻発せず、そして明確な結末もない。だがそこには、ちょっと笑ってしまうほどの“リアリティ”と、そんなリアルな日常を生きている私たちだからこそ、愛おしくなってしまうような“曖昧さ”にあふれている。
さえない中年男・テハンが、ある日、意を決して妻の愛人=ジュンシクに会いに行く。彼は美しい妻=ソオクのいるタクシー・ドライバー。ジュンシクのタクシーに乗り込み、浮気の現場を押さえようという魂胆のテハンだったが、そうとは知らないジュンシクは長距離の客を拾えて終始ご機嫌。こうして男2人の奇妙なドライブが始まって……。
あえて“反韓流”を謳っている本作には、号泣するようなドラマティックな出来事も起こらず、ありえない偶然も頻発せず、そして明確な結末もない。だがそこには、ちょっと笑ってしまうほどの“リアリティ”と、そんなリアルな日常を生きている私たちだからこそ、愛おしくなってしまうような“曖昧さ”にあふれている。
一見柔らかな、ツワモノの男が2人

パク・クァンジョン●1961年光州生まれ。漢陽大学演劇映画科卒業。1992年、イ・ジャンホ監督の『ミョンジャ・明子・ソーニャ』でデビュー。以後、TV、映画、演劇と幅広く活躍し、演出家兼名脇役として知られる。2005年には平田オリザと日韓合同公演「ソウルノート」を共同演出した。
「もともとは短編の企画だったんです。主人公は男のタクシー・ドライバーで、偶然昔の愛人を客として拾う。彼には同棲している女性がいる……という、男1人、女2人の話だったんですが、友達の脚本家と1週間ばかり酒を飲みながら話していくうちに、もう1人男を加えた方が面白いんじゃないか? ということになって」
1986年に来日し、1年半ほど留学していたというキム・テシク監督は、驚くほど流暢な日本語で語り始めた。会った瞬間に、どこか人を安心させてしまうような柔らかなオーラを放つ彼は、本作が記念すべき長編デビュー作となる。そんなテシク監督を、自身も数々の舞台演出などを手がけているパク・クァンジョン(主人公=テハン役)は「これが第一作目の新人監督だけど、彼はまるで中堅監督のようだった」と評す。
「僕は映画やドラマの現場に入る時は、演出家としての意識は捨てて、完全に役者に徹するんです。だから基本的には、監督の演出にすべて従うタイプ。これまでも新人監督のデビュー作に関わることは多かったけど、彼は実は僕より3つ年上だし、衝突するってことは一度もなかったね」
韓国のウディ・アレンとも言われる(!)クァンジョンだが、こちらもテシク監督同様、妙に人を安心させる柔和な雰囲気の持ち主。もしかして2人とも癒し系? と思いきや、穏やかな口調でなかなかに過激なことを口走るので要注意!?
「最初にシナリオを韓国のスタッフに見せたら、これは違うんじゃない?と多くの人に言われましたね。妻の愛人を、普通は殺しに行くだろうとね」と監督。
「うん。普通はそうだね。男はみんなそうじゃないの?」とクァンジョン。
「でも僕は自分がもしそういう立場になったら、まず会いに行くと思った。どんな相手か興味があるからね。それに実際、世の中の男がみんな妻の愛人を殺していたら、地球の男たちの半分は死んでるよ!」
「それに、もしすぐに殺してしまったら映画はあっという間に終わっちゃうしね」
そう言ってクスクスと笑い合う2人……。ツワモノである。
1986年に来日し、1年半ほど留学していたというキム・テシク監督は、驚くほど流暢な日本語で語り始めた。会った瞬間に、どこか人を安心させてしまうような柔らかなオーラを放つ彼は、本作が記念すべき長編デビュー作となる。そんなテシク監督を、自身も数々の舞台演出などを手がけているパク・クァンジョン(主人公=テハン役)は「これが第一作目の新人監督だけど、彼はまるで中堅監督のようだった」と評す。
「僕は映画やドラマの現場に入る時は、演出家としての意識は捨てて、完全に役者に徹するんです。だから基本的には、監督の演出にすべて従うタイプ。これまでも新人監督のデビュー作に関わることは多かったけど、彼は実は僕より3つ年上だし、衝突するってことは一度もなかったね」
韓国のウディ・アレンとも言われる(!)クァンジョンだが、こちらもテシク監督同様、妙に人を安心させる柔和な雰囲気の持ち主。もしかして2人とも癒し系? と思いきや、穏やかな口調でなかなかに過激なことを口走るので要注意!?
「最初にシナリオを韓国のスタッフに見せたら、これは違うんじゃない?と多くの人に言われましたね。妻の愛人を、普通は殺しに行くだろうとね」と監督。
「うん。普通はそうだね。男はみんなそうじゃないの?」とクァンジョン。
「でも僕は自分がもしそういう立場になったら、まず会いに行くと思った。どんな相手か興味があるからね。それに実際、世の中の男がみんな妻の愛人を殺していたら、地球の男たちの半分は死んでるよ!」
「それに、もしすぐに殺してしまったら映画はあっという間に終わっちゃうしね」
そう言ってクスクスと笑い合う2人……。ツワモノである。
夫と愛人、2人でひとりの男だと思っていい
そして一見、正反対にも見えるテハンとジュンシクだが「この2人のキャラクターは、同じ1人の男だと思っていい」と繰り返すテハン監督。「男にはみんなこの2人の要素がありますよね?(と、周囲の男性スタッフに問いかける)」。激しく同意を示す男性スタッフたち……。だが、女性の目から見てもこの2人はどこか憎めない。そしてラストで「テハンは意図していないけど、2人の立場が入れ替わってしまう。めぐりめぐるんだよね」(クァンジョン)。その見事な逆転劇(決してテハンが勝ったわけではないのがポイント)、そして「不倫なんて存在しない。すべては愛だ!」と高らかに公言していたジュンシクの“器の小ささ”が露呈する様もまた、滑稽で愛らしい。
当のテハンを演じたクァンジョンは「僕はテハンのような人間じゃないよ。たぶんね」と前置きしたうえで「2人とも悪いヤツ(笑)。でも割れたスイカや、形の違う2種類のスイカで表現されているように、やっぱり2人で1人の男なのかなと思う。自分がテハンの立場になったらどうするのか、今も正直分からない。でも去年はこの作品のおかげで、僕は韓国ではかなりの小心者というレッテルを貼られたよ!」。そう言いながら、どこか楽しげでさえある彼。いかにも実直で真面目そうな風貌だが、かなりのジョーク好きでもある。横並びで仲良く放尿や、滝で全裸で遊泳……など男同士ならではのシーンに話が及ぶと、にわかに饒舌になった。
「韓国の男は、よくトイレでおしっこを飛ばしあったりするんだよね! 自分の飛距離が相手に勝っているか、調べるんだよ」(←このコメントに、監督は穏やかに「私はしませんけどね(笑)」と一言)。
「日本でも裸の付き合いって言葉があるんですか? 韓国も同じで、一緒に銭湯やサウナに行ったら仲良くなる。この映画の中でも、2人が裸で泳いでから彼らの距離が縮まるんだよね」。しかし「僕が水泳が苦手だったから、監督の望む画が撮れなかったんだ……」とポツリ。テシク監督によると「男2人が全裸で人魚のように、クルクル回りながら泳いでる画を撮ろうと思って。CG用に、道端でブルーシートを引いてそこで撮影もしたんですが、結局不自然だったので使わなかった」のだとか。これには「シートの上に裸で寝たのにな」と、若干悔しそうなクァンジョンが印象的だった(笑)。
当のテハンを演じたクァンジョンは「僕はテハンのような人間じゃないよ。たぶんね」と前置きしたうえで「2人とも悪いヤツ(笑)。でも割れたスイカや、形の違う2種類のスイカで表現されているように、やっぱり2人で1人の男なのかなと思う。自分がテハンの立場になったらどうするのか、今も正直分からない。でも去年はこの作品のおかげで、僕は韓国ではかなりの小心者というレッテルを貼られたよ!」。そう言いながら、どこか楽しげでさえある彼。いかにも実直で真面目そうな風貌だが、かなりのジョーク好きでもある。横並びで仲良く放尿や、滝で全裸で遊泳……など男同士ならではのシーンに話が及ぶと、にわかに饒舌になった。
「韓国の男は、よくトイレでおしっこを飛ばしあったりするんだよね! 自分の飛距離が相手に勝っているか、調べるんだよ」(←このコメントに、監督は穏やかに「私はしませんけどね(笑)」と一言)。
「日本でも裸の付き合いって言葉があるんですか? 韓国も同じで、一緒に銭湯やサウナに行ったら仲良くなる。この映画の中でも、2人が裸で泳いでから彼らの距離が縮まるんだよね」。しかし「僕が水泳が苦手だったから、監督の望む画が撮れなかったんだ……」とポツリ。テシク監督によると「男2人が全裸で人魚のように、クルクル回りながら泳いでる画を撮ろうと思って。CG用に、道端でブルーシートを引いてそこで撮影もしたんですが、結局不自然だったので使わなかった」のだとか。これには「シートの上に裸で寝たのにな」と、若干悔しそうなクァンジョンが印象的だった(笑)。
映画は映画として、国籍に関係なく観てほしい
すでに韓国での公開は終了。いまだに姦通罪が成立する韓国だが、評論家たちは一様に作品に好意的だった。
「最近は韓国でも、朝から不倫のドラマをやってるからね」(クァンジョン)
「逆に韓国よりも日本は、性や倫理に対して自由なイメージがあったんだけど、実際はどうなんだろう? 僕が日本にいた時は、ビデオ屋さんにHなビデオがたくさん置いてあってびっくりしたけど(笑)。でもこの映画はいわゆる商業映画ではないし、ある人たちにとっては理解するのが困難かもしれない。そういう意味では、僕が本当に好きなものを撮ったし、僕のワガママを通した作品だと思っています。だけど韓国映画だから、日本映画だからという見方ではなく、映画は映画として国籍は関係なく観てもらいたい」(テシク監督)
最後に、日本の観客にそれぞれの個性あふれるメッセージをもらった。
「シリアスに見てもらう作品ではないから、軽い気持ちでクスクス笑いながら楽しんでもらいたい」(クァンジョン)
「やっぱり愛を壊すのは、愛しかない。愛して結婚したつもりでも、実はジェラシーゆえに結婚している人も結構いると思う。僕も世の中に不倫はないと思うし、すべては愛だと思ってますよ。みなさん、いっぱい愛しましょう! 嫉妬だけはやめてね(笑)」(テシク監督)
「最近は韓国でも、朝から不倫のドラマをやってるからね」(クァンジョン)
「逆に韓国よりも日本は、性や倫理に対して自由なイメージがあったんだけど、実際はどうなんだろう? 僕が日本にいた時は、ビデオ屋さんにHなビデオがたくさん置いてあってびっくりしたけど(笑)。でもこの映画はいわゆる商業映画ではないし、ある人たちにとっては理解するのが困難かもしれない。そういう意味では、僕が本当に好きなものを撮ったし、僕のワガママを通した作品だと思っています。だけど韓国映画だから、日本映画だからという見方ではなく、映画は映画として国籍は関係なく観てもらいたい」(テシク監督)
最後に、日本の観客にそれぞれの個性あふれるメッセージをもらった。
「シリアスに見てもらう作品ではないから、軽い気持ちでクスクス笑いながら楽しんでもらいたい」(クァンジョン)
「やっぱり愛を壊すのは、愛しかない。愛して結婚したつもりでも、実はジェラシーゆえに結婚している人も結構いると思う。僕も世の中に不倫はないと思うし、すべては愛だと思ってますよ。みなさん、いっぱい愛しましょう! 嫉妬だけはやめてね(笑)」(テシク監督)

(c)韓国映画振興委員会KOFIC
『妻の愛人に会う』
●2006年/韓国/カラー/ヴィスタ/ドルビーSRD/92分/2008年4月19日(土)から5月2日(金)までシアター・イメージフォーラムにて日本公開
●配給 ミロビジョン
●2006年/韓国/カラー/ヴィスタ/ドルビーSRD/92分/2008年4月19日(土)から5月2日(金)までシアター・イメージフォーラムにて日本公開
●配給 ミロビジョン
photographs by Kenta Aminaka
text by Kaoru Endo


























