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セックスが人類を救う“今村イズム”継承者のマジメな遊び心
天願大介・田口トモロヲが仕かける21世紀版『神々の深き欲望』

2008/05/21
 日本テレビの「24時間テレビ」は、「愛は地球を救う」をテーマに掲げている。だが、『世界で一番美しい夜』で人類を救い、平和を導くのはセックスだ。首謀者は天願大介監督。同世代の盟友・田口トモロヲを巻き込み、エロスとシニカルな笑いに満ちた一大アンサンブルを奏でた。共闘した2人のハーモニーの根底には、巨匠・今村昌平監督の面影が見え隠れしていた。

イメージは「ばかばかしい」きっかけは9・11

 「ばかばかしい映画をつくろうと思ったんです。なんか騒がしい映画というのかな……」。天願監督は、漠然としたイメージを持って脚本を書き始めた。その中核にあったのが、ヘビの登場だ。米中枢同時多発テロを題材に、世界各国の監督によるオムニバス『11‘9”01/セプテンバー11』。日本編『おとなしい日本人』は今村監督がメガホンをとり、天願監督が脚本、田口は主演でヘビになった男を演じた。執筆中に「また、ヘビをやってもらいますよ」と打診したという。

 田口「『セプテンバー11』で、ヘビづくりに相当苦労したんですが、自分のなかではひそかに当たり役だったので、またできるっていうのはもう喜んで出ましょうと。日本でヘビができるのは、へび役者の僕だけですから」

『世界で一番美しい夜』
『世界で一番美しい夜』
 二つ返事で引き受けたうえに、完成した脚本でさらに期待が膨らむ。出生率日本一となった村に住む少女が、秘められた14年前の真実を明かしていくスタイルで、田口はその真相に迫る左遷されてきた新聞記者・一八役。周囲にはロリコンで遺跡オタクの校長、サディスティックな宮司、ある爆弾づくりに専念する男ら、一筋縄ではいかない者ばかりが集う。

 田口「これは面白い。こんなオンリー・ワンの脚本はないと思いましたね。ヘビの話は、サイドストーリーくらいな感じでいたんですけど、メインに出ていたのでビックリ。ストーリーテラー的な役割なので、こりゃ大変だと。ただ、あまりに面白い脚本だったんで、ワクワクしましたね。周りの人があまりに奇妙奇天烈なので、ヘビになるっていう飛躍が非常に自然で、何の違和感もなかった」

 共演も、ヒロインに元宝塚月組で映画初出演の月船さららをはじめ、石橋凌三上寛佐野史郎柄本明松岡俊介ら個性的な面々が並ぶ。それぞれにキャラクターが際立っており、天願監督にとっても理想的なキャスティングとなった。

 天願「芝居なり存在なりが、作品のなかである役割を果たしてくれるというか、性格は別に悪くてもかまわない(笑)。見た感じがすごいほうがいい。そして、それぞれの組み合わせを考えてますから、ある程度、塊になったときのイメージは頭のなかにあった。皆さん、意欲的でしたしね」

 その中心にいた田口も、相当刺激を受けた様子。裏切りに遭い、絶望に打ちひしがれたためにヘビになるシーンから逆算するアプローチで、一八像を構築していった。

 田口「目立ちすぎず、沈みすぎずというスタンスですね。ある意味、見る人の目線なので、個性的な人たちに対抗しないで、本当に等身大の新聞記者で、ちょっとした野心を持っているということに気を使って。でも、皆が(撮影に)入ってくるときのテンションがやっぱり高い。共闘意識というのが最初からあって、脚本が面白い映画で一緒になれるのがうれしいという高揚感がありましたね」

 スタッフ、キャストが一体となって、同じ目標に向かって突き進む理想的な撮影現場。その団結力をもって生まれたシーンの数々は、それが不協和音であったとしても心地よく響いた。

日本唯一のヘビ役者がリアクション演技で新境地

巻き込まれ型の田口トモロヲも魅力的
巻き込まれ型の田口トモロヲも魅力的
 2人の出会いは、今村監督の『うなぎ』の脚本家と出演者として。その後、さまざまな現場をともにし、互いに気心の知れた間柄だ。だからこそ天願監督は、あえて「さまざまなバリエーションのリアクション演技」を要求した。『鉄男』や『弾丸ランナー』など、どちらかといえば、押し殺していた感情を爆発させる役どころの印象が強い田口にとっては、新境地ともいえる。

 天願「うろたえたり困っているときのトモロヲさんって絶品。トホホ、とかいうときの感じがすごい魅力的なんです。攻撃じゃなく受けに回ったときの、微妙に人を侮辱しながら謝るなんて絶妙ですよ。そういうのが見たいなって、1ファンの気持ちで話していた」

 田口「さすが、人間観察の洞察が深いですねえ。最初に会ってすぐに、『こいつはボンクラだ』と思って。その通りなんですよ。世間的には逆ギレとかが役者の表現として評価されがちですけど、意外と巻き込まれ型だというのを見抜かれていて。困ったなあ(苦笑)」

 だが、こうした製作過程におけるやり取りが、“今村家の伝統芸”というヘビの演技に“進化”をもたらす。『セプテンバー11』のときは、上野動物園のは虫類館で研究し、「ヘビは何も考えていない」という思いに達した。今回、さらにステージを上げるためカギは「脱皮」だった。

 田口「今村監督が見てくれれば、『おお、ヘビ役者として成熟したなあ』と言ってくれるんじゃないかな」

 その成果はぜひ、スクリーンで確かめてほしい。

共闘意識の結晶「親父も喜んでいたと思う」

映画初出演、月船きらら(左)の熱演にも注目
映画初出演、月船きらら(左)の熱演にも注目
 田口がヘビになったことにより、世界で一番美しい夜が生まれ、映画は思わぬ大団円を迎える。『黒い雨』の「正義の戦争よりも不正義の平和のほうが、まだましじゃ」という北村和夫のセリフをアレンジしたナレーションも印象的だ。やはり、随所に今村監督のDNAが垣間見える。

 天願「親父が死んだ年(2006)に撮っていたので……。意識しながら撮っていたわけじゃないけれど、まあ、好きなんじゃないかな、これは。親父が生きていれば、きっと喜んでいたと思いますよ」

 後期の今村作品の常連だった田口も、人間の欲やエゴを浮き彫りにする作風に親子の系譜を見いだす。

 田口「知り合ってから、こんなに楽しそうな監督を見たのは初めて。友達としても、最高のものをプレゼントしているんだという気持ちになって。屈折したピースなのに、見ていて恥ずかしくない。それが今村家のセンス。世代的に近いし、皆に共闘意識があって、ちょっと大げさな言い方をすると、僕たちの『神々の深き欲望』ができたという自負は、それぞれの役者、スタッフにあると思う」

 「挑発的な言い方になるけれど、日本映画の苦手な部分って、話を大きく広げるスケールだと思う。映画ってロマンティックなものだし、イマジネーションが広がると自分の心がひとつふたつ大きくなったような気になる。そういう意味で、バカバカしいほら話なんで、かなり無理しているけれどスケール感みたいなものは出ている気がする」と天願監督も自負する『世界で一番美しい夜』。今村イズムは、確実に受け継がれている。

天願大介
 1959年12月14日、東京都生まれ。初めて監督・脚本を手がけた91年『妹と油揚』でPFF審査員特別賞を受賞。同年『アジアン・ビート(日本編)アイ・ラブ・ニッポン』で長編監督デビュー。93年には障害者プロレスをテーマにしたドキュメンタリー『無敵のハンディキャップ』を発表し、国内外で大きな反響を呼ぶ。父・今村監督の『うなぎ』、『カンゾー先生』、『11‘9”01/セプテンバー11』や『オーディション』などの脚本を担当。その他の監督作に『AIKI』(02)、『暗いところで待ち合わせ』(06)。昨年、「スペインの芝居」では舞台演出に初挑戦した。

田口トモロヲ
 1957年11月30日、東京都生まれ。大学中退後、漫画家、ライター、イラストレーターなどの仕事をしながら、78年「発見の会」で舞台デビューし、劇団健康の旗揚げにも参加。82年『俗物図鑑』で映画初出演。84年にはパンクバンド「ばちかぶり」を結成し、音楽活動も始める。89年『鉄男』に主演したことなどをきっかけに本格的に俳優の道に進む。97年に、毎日映画コンクール男優助演賞を受賞している。00年4月から3年間、NHK「プロジェクトX~挑戦者たち」のナレーションを担当。03年『アイデン&ティティ』で監督に初挑戦。その他の主な出演作に『うなぎ』、『AIKI』、『MASK DE 41』など。『クライマーズ・ハイ』、『俺たちに明日はないッス』などの公開が控える。

『世界で一番美しい夜』
●日本/160分/2008年5月24日から東京・渋谷シネ・アミューズほかで公開●配給/ファントム・フィルム


photographs by Kenta Aminaka,text by Gen Suzuki



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