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中国の耽美派監督:フォ・ジェンチイ
「誰しも生まれ育つ環境を選べないことは、運命としか言いようがない」

2008/10/01



家族を描くことで、感動や共鳴する部分は大きくなる

 「人間とは誰しも、自分の生まれ育つ環境を選べないものですよね。確かにそれは運命としか言いようがないものです」

 『山の郵便配達』や『故郷の香り』など、これまでの映画にも必ず取り入れてきた “家族”というある種の宿命的なモチーフについて、フォ・ジェンチイ監督はそう語った。新作『初恋の想い出』で描かれるのは、親同士の因縁によって、主人公たちの恋の行方そして、人生が弄ばれてゆくという30年にもわたる悲劇だ。そして、フォ監督はこう続ける。

 「しかしどういう家に生まれても、どういう環境に育っても、それぞれに悩みはあるとも思います。お金持ちの家に生まれればそれなりの使命があるだろうし、普通の家に生まれてもそれなりの悩みはある。それこそが人生だろうし、そこから逃れられる人なんて誰もいないんじゃないかって。だからこそ家族とは、誰にとっても身近な、親近感を覚える関係性だと考えます。家族愛とか人と人との絆というふうに捉えると複雑な感じもしますけど、誰もが実感できる、手に取るようにわかることのできる感情であるという視点で見ると、(ほかの人間関係以上に)感動や共鳴する部分も大きいのではないかと思います。そういう意味で、私が映画を作る上でこだわっているテーマですね」

ハルピンの光と影に、世代の違いを映す

 大陸的な映像美で普遍的な人間愛を描き続けるフォ監督。本作は、監督がたまたま目にした、ある新聞のコラムが物語の核になっている。

 「8年ほど前に読んだ、新聞のコラムが本作のモデルになっています。いろんな人々の恋愛経験や結婚生活についてのルポ連載のひとつに、自分たちを『ロミオとジュリエット』に重ねて愛を貫いた、あるカップルの記事がありました。“ロミオとジュリエットの時代を生きた人たちでさえ、耐えられたのだから”と自分たちを励ましていたというエピソードは、私の心に深く残りました。映画も、美男美女が結ばれないこの悲劇に投影してこそ成り立つと考え、美男美女で演技のできるヴィッキー・チャオルー・イーに決めました」

 1980年代という時代背景も、記事に合わせたこだわりから。ロケはハルピンで行われた。

 「80年代を舞台にしたノスタルジックなストーリーなので、現代的なビルなどの一切ない、昔ながらの建築物が残る場所を選びました。かつてロシアの疎開地だったハルピンは、異国情緒のある、古い建物が残っている場所です。主人公たちが暮らす官舎などの、古く、重苦しい建物の暗闇には、親の世代の古めかしい、少し時代遅れの考えを象徴しています。一方でハルピンの陽光や緑の木々、咲き誇る草花には、主人公のふたりの若さや美しさを表現したいと考えていました。とはいえ絶対的な対比ではありません(笑)。あくまで場面、場面の情感をいちばんに考えて撮影しました」

自由と純愛は相反しない

 本作は特に、若い人たちに向けて作られたと聞く。その心は?

 「時代がどんなに変わっても、純粋な愛情は人に幸せをもたらすものだと私は思います。物質的に豊かになった今でも、若い人たちに愛を信じてもらいたいと思って、この映画を作りました。確かに80年代と比べると、現代はずいぶん自由になりました。恋愛や結婚に関しても、条件のような現実的なものを考慮してしまって、複雑になった印象もあります。でも、純粋な愛情というものは今でも存在すると思うし、それはいつの時代においても、何よりも大事なものです。私は自由と純愛が相反するものだとは思っていません」

 監督の信念は、観る人によって、ハッピー・エンドにも切ないラストにも映る、美しいラストシーンに象徴されている。

 「美というものは、条件によってまったく異なるものです。現代的な美しい建物でも映画の中で使うと美しくない場合もある。逆に、くたびれた建物が美しいこともある。だからこそ耽美的と言われることは、とても嬉しいことです。美とは心で感じ、また心で描くものだから。『美しい』と言われることはすなわち、私が心で描いていることを評価してくださっているのだと思うから」

 秋の夜長にゆるりと味わいたい、耽美的な余韻を残すラブ・ストーリーだ。

フォ・ジェンチイ
1958年中国・北京生まれ。1982年に北京電影学院美術学部を卒業後、北京映画制作所に配属され、田壮々(ティエン・チュアンチュアン)監督の『九月』、『盗馬賊』などの美術を担当する。監督第2作目となった『山の郵便配達』は、99年の金鶏賞最優秀作品賞、最優秀男優賞を受賞。同年のモントリオール映画祭や00年インド国際映画祭でも受賞した。香川照之が主演を努めた『故郷の香り』では、東京国際映画祭グランプリと主演男優賞のダブル受賞を達成した。

『初恋の想い出』
●原題:情人結/2005年/中国/アメリカンビスタ/ドルビーデジタル/112分/2008年10月4日(土)から、渋谷シアターTSUTAYAほか順次日本公開
●配給:ブロードメディア・スタジオ
●『初恋の想い出』公式HP http://www.hatsukoimovie.jp/



text by Kana Ishimura(variety japan)



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