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『呉清源 極みの棋譜』監督・田壮壮
「呉先生の精神世界を描くことが中日にプラスとなれば」

2007/10/31
 波乱万丈な呉清源の人生を、ことさらドラマティックに追わず、また囲碁の対局シーンを激しい闘いとして描くことなく、美しく静かな映画として作り上げた田壮壮監督。求道者としての呉清源の生き方に焦点を当てた、映画への真摯な取り組みを聞く。

改革開放政策後、興味が物質的なものに行き、
知識や文化、精神の探究が無視されがちな中国

 昭和最強の棋士、呉清源。

 昭和3年に14歳で中国から日本へとやって来たこの天才棋士の半生を描いた映画が、『呉清源 極みの棋譜』である。

 監督は、『青い凧』で93年東京国際映画祭グランプリ、『春の惑い』で2002年ヴェネチア国際映画祭コントロコレンテ部門グランプリに輝いた田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)。北京電影学院の学長として、中国映画界で今もっとも尊敬を集める彼が、4年ぶりにメガホンを取った。

 彼にとっては初めての伝記映画であるが、呉清源の波乱万丈の人生を、過剰にドラマティックに仕立てることもせず、また囲碁の対局シーンを激しい闘いとして描くこともせず、田壮壮らしい美しく静かな映画として作り上げた。呉清源の求道者として生き方に焦点を当てたのは、田壮壮の映画への真摯な姿勢をよく表している。

 「呉清源先生の生涯について書かれた本を読んで感動し、映画を撮ることを決めました。今の時代、自分の精神をきちんと持っている人は少ない。中国では、改革開放政策をとるようになってから、みな物質的なものにばかり興味が行ってしまい、知識や文化、精神の探究は無視されてしまっています。たとえ彼らが精神論に関する本を読んだとしても、それは厳しい競争社会を生き残るために読んでいるだけ。そこに私は違和感を持っているんです。呉先生の93年の半生を見てみると、物質的には決して豊かではありませんが、心は誰よりも豊かです。落ち着いていて、しっかりとした信仰を持っている呉先生のことを私はうらやましく思うんです」

私は5元しか持っていないのに
10元のものを買おうとする人間

 呉清源本人が14歳から93歳の今に至るまで日本で暮らしていることを重視し、撮影は日本で行われた。俳優も主演のチャン・チェン以外はほとんど日本人。スタッフも日本人の方が多かった。

 「東京では古い街並みが見つからず、近江八幡(滋賀県)の方で撮影しましたが、それでも30~40年代の日本を再現するのにはかなりお金がかかりました。一日の撮影時間に制限があるなど、中国とは映画の撮り方も違いますが、やはり資金繰りがいちばん大変でした。日本では能力や時間によってかかるお金の相場が決まっていますが、中国の場合は交渉の余地があるんです。知り合いだから半額とか(笑)。私は5元しか持っていないのに10元のものを買おうとする人間なので(笑)、いろいろと苦労しました。その都度ワダエミさんら日本のスタッフに協力してもらって、何とか乗り越えることができました。それと、日本の俳優たちはとてもプロ意識が高く、撮影前日から泊まり込んで準備する様子に感銘を受けました」

呉先生は中日関係に
非常に強い関心を持っていた

06年ローマ映画祭の『呉清源 極みの棋譜』プレミアでレッドカーペットを歩くチャン・チェンと田壮壮監督
06年ローマ映画祭の『呉清源 極みの棋譜』プレミアでレッドカーペットを歩くチャン・チェンと田壮壮監督
 呉清源は、田壮壮からこの映画の企画を聞いた時、「日中友好につながれば」と快諾したという。その思いは映画のそこかしこに引き継がれている。

 「私がこの映画を撮りたいと思った理由はごくシンプルで、呉先生の精神世界を描きたいということだけなんです。でも呉先生と話をしていくと、先生は中日関係に非常に強い関心を持っていた。彼は若い頃に日本の人たちにとても世話になり、棋士の人たちにも面倒を見てもらっていたわけですから当然です。しかも平和への思いも非常に強いものがあります。今回の映画に関しては、決して中日関係においてマイナスではない……、むしろプラスになってくれればいいなと願っています」

text by Takeshi Oka
photographs by Takeshi Oka

呉清源 極みの棋譜
●監督:田壮壮 脚本:アー・チョン 撮影:ウォン・ユー 衣装デザイン&プロダクション・デザイン:ワダエミ
●出演:チャン・チェン柄本明、シルビア・チャン、伊藤歩、南果歩、松坂慶子
●2006年/中国/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD/107分/11月17日よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館他にてロードショー
●配給:エスピーオー



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