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映画『ペルセポリス』監督マルジャン・サトラピ
老若男女誰が見ても自分の物語として
共感できるのがアニメーションの強み

2008/01/04

革命の中で大人になるということ

「知らないということは恐れを生むのよ。イランの外、ヨーロッパへひとりぽつんと出てみたら、テヘランで何が起きていたか、革命ってどういうことだったか、そこで大人になるってどういうことなのか、理解出来る人はほとんどいなかったわ。情報は政府がコントロールし報道されていなかった。そういう背景を知らなければ、私は単なるちょっとエキセントリックでおかしな女の子にすぎないわけ。それがこの作品を創ろうと思った理由のひとつね」
 わたしたちと変わらない大人の女性であるマルジャン・サトラピは弾丸のように早口の英語で話しながら左手に持った煙草を持ったまま、肩をすくめた。その仕草も、たたずまいも、パリジェンヌらしくエレガントだ。

 今年度アカデミー賞長編アニメーション部門最有力候補という声も高い『ペルセポリス』。監督であるマルジャン・サトラピ自身をモデルとした少女マルジが大人になるまでを描いた作品である。
 1979年のイラン革命で親欧米派だったパフラヴィー朝がホメイニ師によって倒され、内戦が起こり、共産主義者や自由主義者が“粛正”されていく中、多感な少女は毎日何を感じていたのか。イラン-イラク戦争でテヘランが爆撃される中、どう日々を過ごしたのか……というと、この美しくユーモラスな作品に対して、いささか大仰なもの言いとなる。というもの、人間生きるか死ぬかの大変な危機に遭っても、恋もすればメシも喰う、夕飯のおかずのウマいマズいが気になるもの(『007』や「イワン・デニーソヴィチの一日」がいい例だ)。
 マルジャンが『ペルセポリス』の中で描いているのは、「大人になること」そのもの。だから、政治的社会的な背景を描きつつも、ストーリーそのものの大枠に日本⇔イランの違いはない。観客はちょっとおしゃまなマルジの言動に共感し、はらはらしながら、いつの間にか作品の世界へと引き込まれていく。

アニメーションならではの“強み”

「絵というのはアルファベットが発明される前からあった、人類最古のコミュニケーション手段。それはユニバーサルなもの。この物語を映画にするにあたって、アニメーションという形態を選んだのには、そういう理由もあるの。それともう一つ。もしこれが実写の映画で、どこかでロケし誰か有名な俳優がマルジの役を演じた場合、その場所が意味を持ち、その俳優以外に想像の余地はなくなってしまう。このストーリーを完成させるのに、一番心がけた“ユニバーサルであること”から遠ざかってしまう」
「キャラクターは白黒で、背景はグレイトーンで描く、ということを決めるまでに、ヴィンセントと私は1年間リサーチをした。この映画が15分ほどの短編なら完全に白黒でも、まあなんとか持っただろうけれど、1時間を越えるアニメーション作品だと、観客はつらく感じるだろう、とか。結局このプロジェクトに3年を費やし、関わった人たちの人数は100人以上。それも、いろんな国籍、いろんなバックグラウンドの人たちだったから、ある意味この映画の“バランス”を取るのにとてもよかったわ」
 バランス。それは映画をチャーミングで忘れがたきものにしている一番の理由かもしれない。なかなかうかがい知ることができないテヘランのリアルな事情—-学校に行っている間に街が爆撃に遭い、近所の人の死体を見つけるシーンなどをしっかり描きつつも、こっそりワイン・パーティを開いたり、恋が醒めるや否や白馬の王子様(だったはずの)恋人が、ニキビ面の醜男に見えたり、今の20代〜40代が「あるあるある!」と思わず膝を打つユーモラスなエピソードも満載なのだ。
「人生には、よくある話でしょう?(笑)この物語で最後まで一番難しかったのは、創り上げている最中に『ドラマティックに盛り上げたい』という怪物が出てこようとするのを袋の中に押し戻すことだったのよ。というのも、戦争だのなんだの、ストーリーはジェットコースターのようにアップ&ダウンしているから。だからナレーションも意識して平静な感じにしてもらった。その結果、老若男女国籍を問わず、皆に観てもらえるものが出来たと思う。実際、ヴィンセントの80歳になろうというパリジェンヌのおばあさまも、この話を気に入ってくれたのが、嬉しかったわ」 

(C) 2007/247 Films. France 3 Cinema.
(C) 2007/247 Films. France 3 Cinema.
マルジャン・サトラピ●『ペルセポリス』原作、脚本、監督。1969年、イラン・ラシュト生まれ。現在、パリ在住。テヘランで成長し、政府によって閉鎖されるまで、リセに通う。14歳でウィーンに留学、94年に渡仏。ストラスブールでイラストレーションを学ぶ。4巻からなるグラフィックノベル『ペルセポルス』は2000年初版。16カ国語に翻訳され、世界的なベストセラーに。

映画『ペルセポリス』はシネマライズ他で上映中。


photographs by Kazuhiro Koide
text by Shoko Yamamoto(Variety Japan Tokyo)




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