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映画『奈緒子』 監督・古厩智之
今、青春映画じゃない映画なんてあるのかな?

2008/02/14

走るという衝動が好き

青春の痛みを体現した主人公・雄介
青春の痛みを体現した主人公・雄介
 渦中を過ぎたからこそ、その美しさがひときわ眩しく感じられる……大人になった分、より深く味わえる。そんな青春映画の作り手である。古厩智之監督の最新作は、1994〜2001年にわたり長期連載された、伝説の駅伝コミック「奈緒子」。若き主人公、奈緒子と雄介の宿命への葛藤を、駅伝で青春の汗をかきながら進んでいく壮大な物語から、監督が映画で伝えたいと思ったものは「走る喜び」だったのだとか。確かに、古厩作品の主人公たちはよく走る。

「たとえば町の中を誰かが走っていたら、みんな見ますよね? やっぱり走るって、異常な行為だし、だからこそ面白いんですよね。気持ちがわーっと溢れて、それがそのまま走るという行動になる。そのわかりやすさが好きで。今回も、走ることを撮れるから始めた企画がたまたま駅伝だった(笑)。実際に取りかかってみて興味深かったのは、奈緒子が気持ちの衝動から、雄介に向かって走るのはわかりやすいけど、雄介には走る理由がないということ。彼は何に向かって走るのか? そこを描くことにやりがいを感じました。駅伝をやっていくうちに、仲間と気持ちがつながって、結果、それが雄介に何かを与えることになればいいなって。そうなれば、現代的なストーリーとしても成立すると思いました。今という時代には、理由がある方が珍しい。殺人事件だって、動機がある方が少ないし。家が貧乏で、父ちゃんに巨人の星になれ! と言われた星飛雄馬のような動機を持っていない人の方が実際は多いと思う。僕自身も、映画を撮ることに理由なんてないしね(笑)。そういう“ない”ところを描けるというのは、非常にやりがいがあるなって思った」

まだ何者でもない若者を見つめる

過去の苦しみから解放されてゆく奈緒子
過去の苦しみから解放されてゆく奈緒子
 雄介を演じることで、新境地を拓いた三浦春馬は、本作でようやく俳優としての自分の居場所を見つけたと語る。監督自身は、若い俳優たちのどんなところに魅力を感じているのだろう。

「春馬と初めて会った時、彼の何かに驚いている姿を見て、これで大丈夫かもって思った。年を取っていろんなことを知っていけば、なかなか驚けなくなるものですが、彼は17歳なのに、心からきょとんとしていて。だから演出するというよりは、彼に教えてもらうことの方が多かったと思います。奈緒子役の(上野)樹里ちゃんは、気持ちが揺れるとそれがまんまお芝居に表れる子で。感情がこんなに素直に、大きく揺れる役者さんを僕は初めて見たし、そこを逃さずに捉えることができれば、十分映画になるだろうと思いました。これまでは『のだめカンタービレ』(CX 系)とか、主動的なお芝居が多かったけど、もしかしたら今回のような受けの芝居の方が彼女の魅力が出るのかも。そういえば、樹里ちゃんに『私が大人になって、すごくお芝居ができるようになったら、監督は私に興味がなくなるのかもね』って言われたんですが、そういうことかもしれません。僕は、『何にでもなれます!』という人を見ても、ちっとも面白くないんです(笑)。じゃあその反対側が何かと言えば、まだ何者でもない、あるいは何者かであっても、内側とズレていたりする。そういうところを見つめるのが映画監督の仕事だと思っていて。確かに大人より若い子の方が、言葉にならない分、もっとモヤモヤしていて見つめがいがあるのかもしれない」

大人だってモヤモヤしてる

 最後に“青春”というテーマへのこだわりについて聞いてみた。

「タイムマシンがあったら、僕はいちばん行きたくない時代が中学時代なんですけど、早く大きくなりたい、早く自分じゃなくなりたいと葛藤する時期って、人生の中でもそうそうないじゃないですか。見つめるとしたら、面白いに決まっている時代ですよね。辛いけど(笑)。“青春映画の俊英”みたいな接頭詞をつけられるのは、なんか大人になれないみたいでちょっとイヤですけどね(笑)。でも今、果たして青春映画じゃない映画なんてあるのかな? とも思ったりして。大人が出てくる映画でも、純愛だとかそんなことばかり言ってるじゃないですか。大人だってモヤモヤしてるし、ダメだったり、ズレたりしている。そう考えると、青春映画じゃない映画ってどうなんだろうって思います。大体“青春”という日本語にぴったりくる英語ってないですよね? たぶん、日本固有の言葉なんですよね。逆にみんなに聞きたいな、何が青春なんだろう? って(笑)」

(c)2008坂田信弘・中原裕/「奈緒子」製作委員会
(c)2008坂田信弘・中原裕/「奈緒子」製作委員会
『奈緒子』
●監督、脚本:古厩智之 脚本:林民夫、長尾洋平 原作:「奈緒子」(作/坂田信弘 画/中原裕 小学館刊)
●出演:上野樹里三浦春馬、笑福亭鶴瓶
●2007年/日本/ビスタサイズ/ドルビーSRD/カラー/120分
●配給/日活

古厩智之

1968年11月14日、長野県生まれ。日本大学芸術学部時代に監督した『灼熱のドッジボール』が1992年ぴあフィルムフェスティバルのPFFアワード・グランプリを受賞。94年『この窓は君のもの』で劇場長編デビューし、バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ賞を受賞。その後『まぶだち』(01)、『ロボコン』(03)、『さよならみどりちゃん』(04)などを発表。“青春映画の旗手”として注目を集める。

photographs by Munetaka Harada text by Kana Ishimura(Variety Japan Tokyo)



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