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別所哲也「僕は映画館・銭湯理論者」
すべては感動を共有したいモチベーションから

2008/03/19
 映画、ミュージカル、テレビドラマなど幅広く俳優として活躍しながら、1999年にスタートしたショートフィルムの映画祭(現「ショートショート フィルムフェスティバル」)では代表を務め、実際に自ら企画、運営に携わる別所哲也。その映画祭が10年目を迎える節目の年に、ショートフィルム専門の映画館「ブリリア ショートショート シアター」を横浜にオープン。こちらの代表も務めることになった。俳優であり、映画祭プロデューサーであり、劇場主。そんな彼に、それぞれの仕事としての位置づけ、ショートフィルムを取り巻く環境について聞いた。

 彼のライフワークともいえる、この10年のショートフィルムに関わる活動には、映画、そしてショートフィルムへの熱い思いがある。そもそも、その魅力に引き込まれたのは、1997年のアメリカ・ロサンゼルス。メジャースタジオの試写室だった。

ブリリア ショートショート シアター、ホワイエの壁は、野口真里によるデザイン。新たなスタートを意味する「ゼロ」をコンセプトにした、稲妻をモチーフにするグラスアート
ブリリア ショートショート シアター、ホワイエの壁は、野口真里によるデザイン。新たなスタートを意味する「ゼロ」をコンセプトにした、稲妻をモチーフにするグラスアート
 「人生を変えたこの1本というのは絞りきれないんですけど、アメリカの試写室で見た数本が、ショートフィルムとの忘れられない出会いでした。頭をゴーンとたたかれたような、それこそ稲妻に打たれたような衝撃を受け、こんなに人を楽しませてくれる短い映画があるんだって気付かされました。
 その魅力は、新たなスタイルを探求する荒削りなおもしろさや、最後に小気味いいオチや裏切り、驚きがあるところです。長編映画と異なり、感情の起伏などが短い時間に濃縮されていますので、その先にある“のりしろ”を見た方それぞれが味わうことができます」

ショートフィルムを取り巻く環境の変化と関心の高まり

 その衝撃的な出会いから、一般のひとたちにショートフィルムのすばらしさを伝えるため、専門の映画祭をスタート。さらに、その10周年となる今年、念願のショートフィルムの常設シアターをオープンした。映画を愛し、俳優としても活躍する別所は、やはり映画館に対して特別な思いを抱く。

 「時代が変わり、映画の楽しみ方が多様になりましたが、僕は映画館・銭湯理論を唱えているんです(笑)。昔、家に風呂がないころは、銭湯に行って家族やコミュニティとつながるという楽しみがありましたよね。映画に関しては、映画館まで見に行ってその空間を共有するという楽しみがあると思うんです。
 今は、ひとり1台テレビがあって、DVDで好きなときに映画を見られるという環境が整っています。それはすばらしいことなんですが、人間には、自分が感じていることを、他のひとはどう感じるだろうっていう欲求が、深いところにあると思うんですよ。銭湯が、スパとかスーパー銭湯にかたちを変えて存在しているように、映画館での見知らぬひととの感動共有体験への欲求は、時代が変わっても決してなくなることはないと思います」

 そして、その映画館で、多くのひとにショートフィルムに出会ってほしいという。もともとショートフィルムは、ミュージックビデオやCMなどの映像業界関係者、アート系志望の若者の間などで注目されており、また、長編映画だけでは飽き足らないコアファンの熱烈な支持も集めているが、映画ファン全体のなかでみると、その数はまだまだ“伸びしろ”がある。そうしたなか最近では、動画共有サイトのYouTubeや携帯プレイヤーのiPodといった、映像を気軽に見るツールが爆発的に認知、普及してきた時代背景もあり、短編映像への関心は一気に高まりつつあるようだ。

 「家庭で子どもを育てている方や、団塊の世代でリタイアされた方などでも、自分たちで映像を撮りたい、映画を作ってみたいと思うひとが増えているようです。そういうひとたちがショートフィルムにも関心を寄せ、ファンのすそ野が広がっていっているのを感じます。ショートフィルムを取り巻く環境は、確実に変わってきているんです」

自分の原点を確認し、新たな活力をもらう場所

 そうしたなかで、俳優業に加えて、映画祭とシアターの代表を兼任。多忙を極めるなか、映画祭に向けてますます精力的に活動する。それぞれの立場、仕事としての自身のなかでの位置づけ……。異なるもののようにみえるこれらは、別所の根本の部分であって境目のないものになる。

 「もともとは演じることも、ひとと映画を分かち合うことも、感動を共有したいという思いからのスタートで、僕自身のど真ん中で起きていること。動機付けやモチベーションは変わらないんです。役柄を通して、作品やひとの人生、社会などを描くことはとても有意義ですし、俳優は一生の仕事だと思っています。これからも、一番大切な仕事のひとつになるでしょう。
 それと同時に、シアターや映画祭は、自分の最初の一歩を確認するような場所になります。ショートフィルムは、これから自分を表現していく若い映像作家や、映画を通して何かを発見したいと思っているひとが、一般の方を含めて多く集まる場所なんです。ですから、すごくいいエネルギーに満ちあふれています。そこにいると、俳優の仕事をどういう気持ちでスタートしたかという原点を確認でき、また、そこで出会うひとたちに刺激を受けて、新たな活力をもらえます」

まだショートフィルムとの出会いがないひとへ、伝えたい言葉は。

「エンタテインメントとしての映画のひとつの表現のあり方がショートフィルムです。僕がそうだったように、もともと皆さんその体験がなかったわけで、一度体験してみると、選択肢としてちゃんと入ってきます。ブリリア ショートショート シアターは、そういうすばらしい出会いの場にしたいと思っています」

別所哲也http://www.t-voice.com/
慶應義塾大学法学部卒。90年、日米合作映画「クライシス2050」でハリウッドデビュー。米国映画俳優組合(SAG)会員となる。92年、日本アカデミー賞新人賞授賞。以降、映画・テレビ・舞台等で幅広く活躍中。近年では、「レ・ミゼラブル」「ナイン・ザ・ミュージカル」「ウーマン・イン・ホワイト」などの話題作に多数出演。08年7月より、ミュージカル「ミス・サイゴン」に主演。99年より、日本発の短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル」(www.shortshorts.org)を主宰。04年には、米国アカデミー賞公認映画祭に認定される。同年、ショートショート フィルムフェスティバル アジアもスタートし本年ショートショート フィルムフェスティバルの10周年とともに5周年を迎える。

ショートショート フィルムフェスティバル&アジアhttp://www.shortshorts.org/
■「Short Shorts Film Festival 2008」「Short Shorts Film Festival Asia 2008」
会場:ラフォーレミュージアム原宿(渋谷・神宮前)
  :ブリリア ショートショート シアター(横浜・みなとみらい)
日時:6月6日(金)~6月14日(土)

アメリカを筆頭に、世界各国で若きクリエイター達の夢への第一歩として確立されている“ショートフィルム”。その魅力的な映像の世界を日本に紹介するため、99年に「アメリカン・ショートショート フィルムフェスティバル」として東京・原宿で産声を上げ、過去7年間にわたり全国7都市、12会場で14万人以上の観客を動員。さらに、ナショナルツアーの他にも、ロサンゼルス、シンガポール、ミャンマーなどでも開催され、「日本生まれ」の映画祭が海外に展開される「ユニークな映画祭」として注目を集める。02年の開催で、グローバルなショートフィルムの祭典として、「ショートショート フィルムフェスティバル」に改名。04年にはショートショート フィルムフェスティバル アジアがスタートし、今年で5周年。ショートショートフィルムフェスティバルとしては10周年を迎える今年、新たな取り組みとして、映像の力で地球温暖化防止のメッセージを発信することを目的に、環境省の協力のもと「ストップ!温暖化部門」やオンラインアワードを設置する。

ブリリア ショートショート シアターhttp://www.brillia-sst.jp/
場所:横浜市西区みなとみらい5-3-1 Filmee2F
将来の映画界を担う新しい才能の発掘手段の出発点となることを目指すショートフィルム専門の常設シアター(代表:別所哲也)。世界中の作品を上映するほか、「ショートショート フィルムフェスティバル」と連動し、上映作品を紹介していく。08年2月14日オープン。

photographs by Kenta Yoshizawa
text by Yasuyuki Takei(Variety Japan Tokyo)


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