物語、テーマ、時代背景、セックスの描写——、どの観点からもセンセーショナルな話題を提供してきた『ラスト、コーション』は、2月2日の封切以来、大ヒットを続けている。さあ、機は熟した。今こそ、この映画の扇情的ではない部分について、本質について静かに語るべき時だ。
正義を見いだそうとする学生たちと、権力側である傀儡政権の役人。どちらも時代の大きなうねりには乗れなかった、ちっぽけな人間として描かれる。社会はこうした小さな人間たちから成り、歴史はそのなかで起きる事件の集積——。そう考えると、アン・リー監督による『ラスト、コーション』は、人間が作り出したものすべてを、貪欲にもつぶさに描こうとしたというふうに見える。
アン・リー監督、ワン・リーホンに聞く。
正義を見いだそうとする学生たちと、権力側である傀儡政権の役人。どちらも時代の大きなうねりには乗れなかった、ちっぽけな人間として描かれる。社会はこうした小さな人間たちから成り、歴史はそのなかで起きる事件の集積——。そう考えると、アン・リー監督による『ラスト、コーション』は、人間が作り出したものすべてを、貪欲にもつぶさに描こうとしたというふうに見える。
アン・リー監督、ワン・リーホンに聞く。

僕たちの間にあった同志愛は本物でした
ワン・リーホン(以下、ワン)この映画は現代を如実に反映していると、僕もそう思います。ユイミン(ワンの役名)たちは真実を探している。でも、真実を見つけるのは容易ではない。一所懸命模索しても報われず、メディアに、あるいは歴史に飲み込まれてしまうこともある。それ故、悲劇は起こるんだと思います。ユイミンもまた、正しいと思うことを、倫理的なステップを踏んで行っているのに、最悪の結果を招いてしまう。でも真実を探す行為自体には意味はあるんです。
アン・リー監督は、ユイミンという個人を注視するのではなく、“学生たち”として描いていた。そこを「いつものアン・リーの描写の細やかさがない」などと評されるだろうことはわかっていただろう。なのになぜ——。
ワン 確かに、群像として描いていました。僕はアメリカ育ちなので、これまで中国人ばかりで過ごした経験があまりなく、今回、学生役の俳優たちと一緒に演技するのは本当に楽しい経験でした。監督は惹き合う人を選んだのか、学生を演じた俳優は皆すごくいい人たちで、会った瞬間から仲良くなり、今でもコンタクトを取り合っています。この関係はずっと続くでしょう。それは、スクリーンからも分かっていただけると思います。僕たちの間にあった同志愛は本物でした。
アン・リー監督は、ユイミンという個人を注視するのではなく、“学生たち”として描いていた。そこを「いつものアン・リーの描写の細やかさがない」などと評されるだろうことはわかっていただろう。なのになぜ——。
ワン 確かに、群像として描いていました。僕はアメリカ育ちなので、これまで中国人ばかりで過ごした経験があまりなく、今回、学生役の俳優たちと一緒に演技するのは本当に楽しい経験でした。監督は惹き合う人を選んだのか、学生を演じた俳優は皆すごくいい人たちで、会った瞬間から仲良くなり、今でもコンタクトを取り合っています。この関係はずっと続くでしょう。それは、スクリーンからも分かっていただけると思います。僕たちの間にあった同志愛は本物でした。
あれは、演技を超越したシーンだったと思います
経験を積み重ねていくことに、喜びを見いだす学生たち。自分たちは素晴らしいことに取り組んでいるという意識が、彼らを成長させ、表情を変えていった。リアルに。
アン・リー(以下、アン) 彼らは、この物語と自分の演じるキャラクターに没頭していました。確かにあのときの彼らは、稚拙にすら感じられるほど、ロマンチックな愛国心を持っていた。そう。我々はみな最初はイノセンスを持っている。でも、それは失われるのです。自分の国に失望感を覚えた瞬間に、どんな国の人でも。それを描いたのが、ユウミンがナイフで人を刺すシーンです。あれは、演技を超越したシーンだったと思います。
ワン あのシーンはとても、とても、とても大変でした。心の傷になって残りそうなくらい(笑)。1週間かけてあのシーンを撮ったんですが、その間、何度も夜中に悪夢を見ました。あのまま演っていたら、心理的に本当に危ないところまで行っていたと思います。自分の愛する人たちが脅されている。特にワン・チアチー(タン・ウェイ)を守らなくちゃいけないと、本当にあのとおりの気持ちで本能的に動いていました。ある日、3テイク撮り終えた後で監督が、「今日は止めよう」と言ったんです。このまま続けたら、僕が本当におかしくなると思ったと監督はおっしゃってました。僕は大抵あまり腹をたてないし、キレることもないんですが、ナイフを持って、あれほどコントロールを失ってしまった! もう2度としたくない経験ですね。
“Sorry”と隣のワン・リーホンに謝るアン・リー監督。
ワン でもアン監督が一番すごい体験をしたと思います。俳優は自分の役だけを体験しますが、監督はすべてを受け止めなければならない。実は、撮影のあと、僕たちは肩を組んで泣いたんです。もうイノセントな心を失ってしまった。もうそれを知らない時点には戻れないって。
アン でもね、その経験が我々を引き出したんです。決して心地よい体験ではありませんが、真実は闇の中に隠れている。だから我々は恐怖を感じながらも、真実に触れるため、経験しないわけにはいかなかったのです。我々はそれをみんなで共有した。その感覚は観客にも伝わったと思います。
アン・リー(以下、アン) 彼らは、この物語と自分の演じるキャラクターに没頭していました。確かにあのときの彼らは、稚拙にすら感じられるほど、ロマンチックな愛国心を持っていた。そう。我々はみな最初はイノセンスを持っている。でも、それは失われるのです。自分の国に失望感を覚えた瞬間に、どんな国の人でも。それを描いたのが、ユウミンがナイフで人を刺すシーンです。あれは、演技を超越したシーンだったと思います。
ワン あのシーンはとても、とても、とても大変でした。心の傷になって残りそうなくらい(笑)。1週間かけてあのシーンを撮ったんですが、その間、何度も夜中に悪夢を見ました。あのまま演っていたら、心理的に本当に危ないところまで行っていたと思います。自分の愛する人たちが脅されている。特にワン・チアチー(タン・ウェイ)を守らなくちゃいけないと、本当にあのとおりの気持ちで本能的に動いていました。ある日、3テイク撮り終えた後で監督が、「今日は止めよう」と言ったんです。このまま続けたら、僕が本当におかしくなると思ったと監督はおっしゃってました。僕は大抵あまり腹をたてないし、キレることもないんですが、ナイフを持って、あれほどコントロールを失ってしまった! もう2度としたくない経験ですね。
“Sorry”と隣のワン・リーホンに謝るアン・リー監督。
ワン でもアン監督が一番すごい体験をしたと思います。俳優は自分の役だけを体験しますが、監督はすべてを受け止めなければならない。実は、撮影のあと、僕たちは肩を組んで泣いたんです。もうイノセントな心を失ってしまった。もうそれを知らない時点には戻れないって。
アン でもね、その経験が我々を引き出したんです。決して心地よい体験ではありませんが、真実は闇の中に隠れている。だから我々は恐怖を感じながらも、真実に触れるため、経験しないわけにはいかなかったのです。我々はそれをみんなで共有した。その感覚は観客にも伝わったと思います。
人間は“欲”と“戒”、両方の感情を併せ持っている
素晴らしいセット。凝縮された部屋のなかの世界と、広大さに危険をはらんだ上海の町並み。大小世界の中のコントラスト。その対比だけで映画の登場人物たちが置かれた構図が浮かび上がる。俳優を配置すると、それらがさらに強調された。
アン 私は物事をコントラストで描くのが好きなんです。この原作に惹かれたのもそこで、戦争という大きな情勢の中に、個々の人々の小さな感情を描いている。教育制度の中では、歴史が個々の人間の感情の集合体であることなど教わらないですから。
スタッフにも話したのですが、私にとってこのアイリーン・チャンの原作は、ゴールではなく出発点なんです。彼女は、中国で最も尊敬される人気作家で、そう言う意味で、映画化が難しい作家と言われていますが、私にとって、この小説が短編であったことは、私なりの解釈を挟み込むことにプラスに作用しました。また、彼女が真実を語ることを本当に恐れていて、そのために何かを隠すような書き方をしていたこともそうです。彼女が隠すなら、私はそこを掘り下げてみようと、こういう長い映画を作りました。私の中にある欲望や悪の部分をすべてさらけだして。人間は“欲” と “戒”、両方の感情を併せ持っている。私は、人間の持つ、そういうジレンマを描きたかったのです。彼女の罠に引っかからないよう、細心の注意を払いながら(笑)。
photographs by Munetaka Harada
アン 私は物事をコントラストで描くのが好きなんです。この原作に惹かれたのもそこで、戦争という大きな情勢の中に、個々の人々の小さな感情を描いている。教育制度の中では、歴史が個々の人間の感情の集合体であることなど教わらないですから。
スタッフにも話したのですが、私にとってこのアイリーン・チャンの原作は、ゴールではなく出発点なんです。彼女は、中国で最も尊敬される人気作家で、そう言う意味で、映画化が難しい作家と言われていますが、私にとって、この小説が短編であったことは、私なりの解釈を挟み込むことにプラスに作用しました。また、彼女が真実を語ることを本当に恐れていて、そのために何かを隠すような書き方をしていたこともそうです。彼女が隠すなら、私はそこを掘り下げてみようと、こういう長い映画を作りました。私の中にある欲望や悪の部分をすべてさらけだして。人間は“欲” と “戒”、両方の感情を併せ持っている。私は、人間の持つ、そういうジレンマを描きたかったのです。彼女の罠に引っかからないよう、細心の注意を払いながら(笑)。
photographs by Munetaka Harada
『ラスト、コーション』
●製作:ビル・コン、アン・リー、ジェームス・シェイマス 製作総指揮:レン・ゾングラン、ダレン・ショー 共同製作:ドリス・ツェー、デイヴィッド・リー 監督:アン・リー 脚色:ワン・フイ・リン、ジェームス・シェイマス 原作:アイリーン・チャン(「ラスト、コーション 色・戒」)
●出演:トニー・レオン、タン・ウェイ、ジョアン・チェン、ワン・リーホン、トゥオ・ツォンファ、チュウ・チーイン
●2007年/アメリカ=中国=台湾=香港合作/158分/2月2日(土)より日本公開
●配給:ワイズポリシー
●製作:ビル・コン、アン・リー、ジェームス・シェイマス 製作総指揮:レン・ゾングラン、ダレン・ショー 共同製作:ドリス・ツェー、デイヴィッド・リー 監督:アン・リー 脚色:ワン・フイ・リン、ジェームス・シェイマス 原作:アイリーン・チャン(「ラスト、コーション 色・戒」)
●出演:トニー・レオン、タン・ウェイ、ジョアン・チェン、ワン・リーホン、トゥオ・ツォンファ、チュウ・チーイン
●2007年/アメリカ=中国=台湾=香港合作/158分/2月2日(土)より日本公開
●配給:ワイズポリシー
| 【ムーブオーバー一覧】 3月15日(土)より 東京:新宿武蔵野館/神奈川:横浜ムービル/大阪:シネリーブル梅田/北海道:苫小牧シネマトーラス/愛知:半田コロナシネマワールド/香川:高松ホールソレイユ/愛媛:アイシネマ今治 3月22日(土)より 東京:シネスイッチ銀座/埼玉:東武松原シネマ/愛知:トヨタグランド/福井:メトロ劇場/広島:福山シネマモード/山口:下関スカラ座シアター・ゼロ 3月29日(土)より 千葉:シネリーブル千葉ニュータウン/大阪:布施ラインシネマ/北海道:札幌シアターキノ/福島:福島フォーラム/佐賀:シアターシエマ 4月5日(土)より 東京:ワーナー・マイカル・シネマズ板橋/東京:ワーナー・マイカル・シネマズ多摩センター/東京:ワーナー・マイカル・シネマズむさし野ミュー/神奈川:ワーナー・マイカル・シネマズ港北ニュータウン/神奈川:ワーナー・マイカル・シネマズ新百合ケ丘/千葉:ワーナー・マイカル・シネマズ ユーカリが丘/北海道:函館シネマアイリス/青森:八戸フォーラム 4月12日(土)より 静岡:MOVIX清水/三重:伊勢進富座 4月以降 長野:ロキシー/静岡:ジョイランド沼津/三重:津大門シネマ/京都:京都シネマ/滋賀:滋賀会館シネマホール/沖縄:桜坂劇場 |



























