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またも暴力と血の系譜——オスカーの傾向を分析
第80回アカデミー賞『ノーカントリー』4冠

2008/02/26
コーエン兄弟とプロデューサーのスコット・ルーディン(中央)
コーエン兄弟とプロデューサーのスコット・ルーディン(中央)
 ここ数年のアカデミー賞の「血が好きな傾向」は変わらないようだ。

 保安官が連続殺人犯を探す暗黒の追跡劇『ノーカントリー』は第80回アカデミー賞の授賞式で、作品賞、監督賞、脚色賞、助演男優賞と4つのオスカーを獲得した。これは昨年アカデミー賞を受賞したハードコア・バイオレンス『ディパーテッド』に向けられた賞賛と同じものだろう。

 今回イーサンとジョエルのコーエン兄弟はプロデューサー・監督・脚本家として3つのオスカーを同時に獲得したが、これはビリー・ワイルダーやフランシス・フォード・コッポラ、ジェームズ・L・ブルックス、ピーター・ジャクソンらと同じ“偉業”である。

 ちなみに、すでに『ファーゴ』で脚本賞のオスカーを獲得したことがあるコーエン兄弟だが、脚本賞を獲った後に監督賞を獲得したのは、『ウエスト・サイド物語』のジェローム・ロビンスとロバート・ワイズのコンビに次ぐ史上2組目の快挙である。

 今回のアカデミー賞は“初めての候補者”と“外国人”にとって、きわめて良い結果を残せた式典だった。主演女優賞、歌曲賞、音楽賞、助演男優賞、ドキュメンタリー&短編部門のトロフィーは、今までノミネートされたことがない候補者たちの手に渡った。『ノーカントリー』のプロデューサー、スコット・ルーディンも初めてのノミネートでオスカーを得た。イギリス人俳優のダニエル・デイ=ルイスは2度目のオスカーを勝ち取った。そして外国語映画賞の『ヒトラーの贋札』は、初めてのオスカーをオーストリアにもたらした。

 4つの俳優賞はすべてヨーロッパ出身の俳優が獲得。しかもそのうち3人は今年の主な賞レースをオスカー獲得で締めくくって“連勝”を飾った。

 アメリカのメディアに何度も登場し、話題となったことが、結果的に歌姫ピアフの演技への評判につながったフランス人女優のマリオン・コティヤールは、英語以外の言語の映画でオスカーを獲得した5番目の女優となった。また実在の人物を描いてオスカーを獲得した9つの映画の中で主演女優賞を獲得した7番目の役者、ということにもなる。コティヤールはこの役ですでにセザール賞とBAFTA賞を獲得している。

 デイ=ルイスとハビエル・バルデムも、ゴールデングローブ賞とBAFTA賞も獲っている。それらのトロフィーの横に、今回のオスカー像を飾ることだろう。

 ちなみに、『フィクサー』にからくもオスカーをひとつもたらしたティルダ・スウィントンも今年BAFTA賞を獲得している。

 受賞者たちは、授賞式の放映に国際的な風味を添えた。
 バルデムは受賞スピーチの一部をスペイン語で、“Le Mozart des Pickpockets”で短編実写賞を受賞したフィリップ・ポレ=ヴィラールはフランス語でスピーチし、『ONCE ダブリンの街角で』の歌曲賞を受賞した作曲家グレン・ハンサードはアイルランド訛りで「芸術を作ろう! 芸術を作ろう!」と観客に呼びかけた。

主演男優賞を獲得したダニエル・デイ=ルイス
主演男優賞を獲得したダニエル・デイ=ルイス
 批評家協会賞や数々の組合賞でも多くの候補作の中で幅広い作品に賞がわたったように、オスカーでも様々な作品に賞が与えられた。結果、『ノーカントリー』以外に複数のオスカー像を受け取った作品は、『ボーン・アルティメイタム』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』の3本しかなく、10作品が1部門での受賞にとどまった。

 『ボーン・アルティメイタム』は録音賞、音響効果賞、編集賞の3部門で受賞。『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』は主演女優賞とメイクアップ賞を受賞している。

 3つ以上のノミネートを受けた12作品のうち、『潜水服は蝶の夢を見る』と『トランスフォーマー』、『魔法にかけられて』の3作品は無冠に終わった。

 3曲が歌曲賞にノミネートされていたアラン・メンケンとスティーヴン・シュワルツの『魔法にかけられて』は、昨年3曲が候補になったヘンリー・クリーガーの『ドリームガールズ』と同様、初ノミネートのハンサードとパートナーのマルケタ・イルグロヴァに賞をさらわれた。

 ハンサードのあとにスピーチをしようとして、コマーシャルに遮られたイルグロヴァは、授賞式では非常にまれなことだが、もう一度舞台に戻って受賞スピーチをすることを許された。

 『ノーカントリー』は突然アメリカで最も話題の映画となったため、『ディパーテッド』のように興行収入を伸ばすことができるかもしれない。『ディパーテッド』は、昨年のオスカーの時期に1億3200万ドルの興収をあげている。

 2年前の『クラッシュ』から、作品賞は、無法や道徳の曖昧さと対峙するキャラクターを描いた作品が受賞している。パワフルな暴力描写を含む映画の受賞が続いたのは、80年のオスカーの歴史の中でも前例のないことだ。郊外の不安感を描いた1999年の『アメリカン・ビューティー』で、オスカーは暴力的な映画に作品賞を与えているが、それ以前の3年間は『恋におちたシェイクスピア』『タイタニック』『イングリッシュ・ペイシェント』といったロマンティックな作品が受賞している。

 『ミリオンダラー・ベイビー』から4年連続で、現代を舞台にした映画が作品賞を受賞していることもオスカー初の出来事だ。アカデミーは長いこと時代ものを好んできた。現代を舞台にした映画で作品賞を受賞したのは、90年代には2本、80年代には3本しかなかった。

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