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「自由の国」ではまさかこの程度が限界なのか

2008/04/30

●原題:LIONS FOR LAMBS/2007年/アメリカ/シネマスコープ/ドルビーSR・SRD/DTS/92分/2008年4月18日から日本公開
●配給:20世紀フォックス映画


オバマの発言は、失言か、真実か

(c)2007 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.
(c)2007 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.
 原題にこめられた「愚鈍な羊に率いられた勇猛なライオン」の意味も明快だし、物語の訴求するものにも特段異論はないのだが、『大いなる陰謀』を観た後には、なんとも困った違和感が残った。その気分をはてどう書いたものやらと思っていると、ちょうど本作の日本公開日と同じタイミングでこんなニュースが飛び込んできた。

 米大統領選のバラック・オバマ候補がフィラデルフィアでの討論会で、「ペンシルベニアの田舎町を典型とする中西部の人びとは四半世紀もの失業に苦しみ、そのいらだちと不満を解決する方法として銃と宗教に執着するようになった」という趣旨の発言をしたところ、労働者階級の大反発をくらったという。報道ではこれを「失言」と記し、私はなぜこれが「失言」なのかきょとんとしたが、オバマ自身も強い反発が予備選に与える影響を考えて即座に「失言」と認め、釈明したという。

 やや不可解に思って、ネットなどで中西部のことをよく知る、あるいは中西部に暮らすアメリカ人たちの冷静な反応を読んでいると、「なぜ本当のことを言われて怒るのか理解に苦しむ」または「本当のことを真っ向から言われたから怒ったのだろう」という見解が多く、論旨はどうあれオバマの発言は「失言」ではなく「本当のこと」ではないかという意見が目につく。私もこのニュースを聞いて、オバマはなぜこれしきの「本当のこと」を口にしただけで、中西部の労働者層から、奴は所詮国民感情を解さぬエリートでわれわれを蔑視しているとまで非難されるのか、首をひねらざるを得なかった。

自由の国・アメリカの重い現実との対峙

 だが、これが現実的には「自由の国」アメリカの本質にふれる反応なのかもしれない。つまり、自らの知的、経済的にプアな実態を率直に認め、こんな単刀直入な大統領候補を応援して雇用創出を期待するのではなく、自らの「銃と聖書」にすがってばかりの現状を直視されると自尊心が傷つけられるようで(あるいは脆弱なアイデンティティーがコケにされるようで)やにわにヒステリックになる。いかに彼らが怒れども、その反応自体がすでに「銃と聖書」に依存することの理由を示すかのようではないか。

 そんな、他者の自由に不可侵であることと、他者の貧弱なプライドを傷つけぬよう適当にその過ちを看過することとが取り違えられている「自由の国」にあって、『大いなる陰謀』はいったいどんな映画に映るのだろう。この作品は、アフガンへの作戦展開をめぐって、将来の大統領候補と目される共和党のホープの上院議員(トム・クルーズ)、テレビ局のベテラン政治ジャーナリスト(メリル・ストリープ)、カリフォルニア大学の政治学教授(ロバート・レッドフォード)の三者三様の立場の会話が描かれる。そして、この三者の思惑が対峙する重い現実として描き出されるのが、教授の優秀な教え子であるヒスパニックとアフリカンのアメリカ人学徒の最前線での不幸であり、彼らの運命の場面が本作の唯一最大の山場である。教授の授業では徴兵に対するシニカルな描写もあるのだが、この貧しい二人の学徒は、教授の思いとは裏腹に、志願して帰ってきたら学費免除だからと戦線へ赴く。これはアメリカの現状に批判的な彼らのはねっかえりな選択でもあるとはいえ、「銃と聖書」の現実を突きつけるものだ。

大スターづくしのメジャー作の意義とは?

 一方では上院議員ががっちりブッシュと笑顔で並ぶツーショットの写真が飾られていたり、ジャーナリストが局に帰ってもう上院議員のたくらみに乗せられることはしたくないと言えば、イラク開戦時にマスコミはこぞって味方したではないかと上役に突っ込まれてぐうの音もでないなど、直截かつ辛辣な場面も少なくない。こういうことを『華氏911』のようなレベルでやるのではなく、こんな大スターづくしのメジャー作でやることは、くだんのアメリカ人の反応などを聞くにつけ、大それたことなのだろうと推測する。

 ただ、まことに申し訳ないのだが、本作が90分にわたる内懐な会話をもって訴えた内容が(そのいちいちはもっともながら)結局ここどまりなのですか、というのが、私の正直な感想である。こんな程度の認識は自明のものだと思っていたが、もしも映画としてこのくらいの批評意識を持ったものですら、おそるおそる有難いものとして作られているのだとしたら、私はそんな「自由の国」なんかには絶対住みたくないという感じである。

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