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複雑に激しい、アメリカ映画の自国批判

2008/04/30

●原題:THERE WILL BE BLOOD/2007年/アメリカ/ドルビーSRD/シネマスコープ・サイズ/158分/4月26日より日本公開
●配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン



古風な石油産業を、生き生きと

©2007 BY MIRAMAX FILM CORP. AND PARAMOUNT VANTAGE,A DIVISION OF PICTURES.ALL RIGHTS RESERVED.
©2007 BY MIRAMAX FILM CORP. AND PARAMOUNT VANTAGE,A DIVISION OF PICTURES.ALL RIGHTS RESERVED.
 原作はアプトン・シンクレアの小説「石油」である。シンクレアはアメリカ文学史上に重要な作家だが、二十世紀のはじめの社会派で、いまのアメリカ文学の傾向からするとひどく古風に思えるのではないかという感じがして、そこからこんなに生き生きした映画が生まれたのにびっくりした。アメリカで石油の発掘がはじまった頃の石油産業の巨頭のろくでなしぶりを徹底的に暴いて叩いた内容である。そういう資本家打倒の文学作品は左翼運動の退潮と共におおかた忘れ去られたのだが、考えてみると今のアメリカは、イラク戦争も石油利権がらみだと言われたりするぐらい、政治も市民生活も石油産業に引っぱり回されている。いったい石油産業って、誰がどんなふうに始めたものなんだ、と改めて忘れられた大作家の「石油」という小説が再評価されたのも当然かもしれない。

荒涼たる風景につっ立つ主人公の凄み

 20世紀初頭のカリフォルニアが舞台である。石油掘りの山師であるダニエル・プレインヴューが、石油の出そうな土地をめぐっては油井を掘ってゆく。じつに危険な作業で、作業員たちが突発的な事故でつぎつぎに泥や油にまみれて材木の下積みになったりして無残に死んでゆく。そんなことは予め計算ずみとばかりに殆んど感情を動かすこともなく彼は事業をすすめる。荒涼たる風景の中にぬう—っとつっ立つこの男をダニエル・デイ=ルイスが演じていて、凄味さえ感じさせる。

 彼が感情を動かすのは幼い息子が突然の石油の爆発にともなう事故で聴覚を失ったときぐらい。彼はこの息子の教育に熱意をこめるが、自分の財産を守るために肉親の身内がほしいというだけのことで、とても人間的な愛情とは言えない。彼の腹違いの弟だと称して現れた人物に対する態度など、彼の疑心暗鬼ぶりが一種のブラック・ユーモアをかもし出す。

現代文明への重大な疑問と、そのバイタリティ

 油井を掘り当てることに成功した彼は、事業を拡大するために容易に土地を手離さないキリスト教原理主義的な牧師を丸め込むのに苦心惨憺する。これも愚かしくて滑稽なやりとりである。アメリカの資本主義はこういう徹底的に人間不信の無残な取り引きをつうじて確立されたということか。そういう土台の上に築かれた現代のアメリカ産業社会はどうなんだ、と言いたくなる。
 ポール・トーマス・アンダーソン監督はこうしてアメリカの近代産業の成り立ち、ひいては現代文明の成り立ちに重大な疑問を投げかけるのだが、見方を変えればそこにアメリカの産業のバイタリティが凄味を込めて表現されているとも言える。こいつらにはかなわない、という思いだ。だから見終った思いは凄いという感銘と、もうけっこうという気持で複雑だ。最近のアメリカ映画の自国批判の激しさには本当に驚くものがあり、これはその代表例である。

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