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粋で楽しく、悲しくも皮肉的な
大人向けエンタテインメント

トッド・マッカーシー
2008/05/20

●原題:CHARLIE WILSON'S WAR/2007年/アメリカ/カラー/ビスタサイズ/101分/2008年5月17日から日本公開
●配給:東宝東和

 賢明で、洗練された大人向けのエンタテインメントというものは、最近のハリウッド作品では珍しくなってしまった。だが、本作は、見事にその一翼を担っている。今は亡きジョージ・クライルのセンセーショナルなベストセラーをもとに、接点がまるでなさそうな、華やかで影響力のある登場人物たちが、1980年代、ロシアを打ち負かすために、どのようにして非公式の経済支援や武器をアフガニスタンのゲリラ部隊に供給したかを描く作品である。そのプロセスの果てにはアメリカの将来の敵に武器を供給してしまったというオチもついているのだが……。マイク・ニコルズ監督による作品は、粋で楽しく、そして悲しくも皮肉的である。同時に、きら星のごとき才能をカメラの両側に迎えながらも、40歳をずっと下回る若者や一般観客にその魅力を理解してもらうことは容易ではないかもしれない。 

“事実は小説より奇なり”をはるかに上回る
“事実は小説よりこの上なく突飛なもの”を証明

 クライルによる2003年出版の原作には、当事ほとんど知られることがなかった英雄的な行為が余すことなく描かれており、“事実は小説より奇なり”ということが改めて示されている。さらに本作の場合、“事実は小説よりこの上なく突飛なものだ”というところまで行き着いている。東テキサス出身の進歩的な民主党下院議員であるチャーリー・ウィルソンは、自由な独身生活を満喫していることから「お気楽チャーリー」というあだ名までつけられてしまっている。あちらこちらで女性と関係を持つ上に(原作には監督の現在の妻ダイアン・ソーヤーの名も挙げられている)、大酒呑み。だがそれと同時に、歴史に関する深い知識を備え、国際関係問題に対する鋭い意見も持っていた。

 映画は、チャーリー(トム・ハンクス)が、3人の裸の女性ともう1人の男性と、ラスヴェガスでジャグジーに浸かっている姿を捉える冒頭から始まり、すぐに彼らはリムジンの中でコカインを吸い始めたりする。ニコルズ監督と脚本家のアーロン・ソーキンはワシントンD.C.の情勢にかなり詳しく、チャーリーの好色で簡単に誇張されてしまうような側面を、聡明で探究心が強く、機知に富んだ面を強調することで全体的に押さえ込んでいる。間違ったことは誰よりも早く認める。これもチャーリーの才能のひとつだが、彼の最も突出した才能は、誰とでも簡単に話をし始め、誰とでも仲良くなることの達人だということだろう。ハンクスは、実際のチャーリーの傲慢な性格や見かけとは、理想的にいえばマッチしないところもあるが、彼を演じる上で大事である口先滑らかなところ、そして、とにかく愛嬌があるところを、説得力のある演技で表現しきっている。

見目麗しく、政界の陰の実力者であるジョアンと
難民キャンプを見て怒りの炎を燃やすチャーリー

 1979年、ソヴィエト連邦のアフガン侵攻が始まったとき、チャーリーのアフガニスタン人支援活動に対する情熱に火をつけたのは、ヒューストンの大富豪ジョアン・へリング(ジュリア・ロバーツ)だった。見目麗しく、政界とつながりが深い陰の実力者である彼女は、チャーリーとの関係を利用して、アメリカ連邦議会が渋っていることを彼に実行してほしいと説得する。それは、寄せ集めのアフガニスタン抵抗勢力を助け、ロシア人を打ち破り、冷戦を終結させるということを意味していた。

 ジョアンは、チャーリーをパキスタンのズィヤー大統領(どっしりとした、しかめっ面のオーム・プリー)にイスラマバードで紹介する手引きをする。そこで彼は、イスラム原理主義指導者と謁見の最中、なんとお酒を注文するというヘマをやってしまう。にもかかわらず、物事は動き始め、アフガン難民キャンプを訪れたチャーリーが目にした悲惨な光景に、彼の怒りの炎はめらめらと燃え上がる。

 この人のいい男が、反ソヴィエトの聖戦のために年間500万ドルぽっちだった政府の非公開資金拠出を10億ドルにまで引き上げるには、様々なステップを必要とした。ともかく一番の目的は、アフガニスタンのゲリラ部隊に武器を渡し、恐ろしいロシア軍の戦闘ヘリコプターを爆撃すること。そして、この取り組みにおいて、チャーリーはCIA工作員の中でも異端者の異名をとるガスト・アブラコトス(フィリップ・シーモア・ホフマン)から重要な力添えを受けることになる。

ホフマンが登場するたびに電流が走る
拭い去れないような素晴らしい演技

 映画の滑り出しは陽気で流れるように進み、お決まりの説明を省きながら、ホフマンが登場する段になると、エンジン全開で展開し始める。80年代の特徴であった、ふんわりとした髪型とひげ、突き出た腹、そしてくわえっぱなしのタバコから立ち上る煙。ホフマン演じるガストは、会議室に入ってくるなり、押しても動かぬオークの木のようどっしりとした存在感で、とんでもなくうまい言い回しの質問を矢継ぎ早に連発する。それは、並外れた専門知識であると同時に、聞いた人の気持ちをがっくりと萎えさせるような破壊力を持っている。ここでもまた、ホフマンは拭い去ろうとしても拭い去れないような素晴らしい演技を見せていて、驚嘆に値する。彼が登場するたびに、映画にいわくありげな電流が走り、びりびりと震えだすのだ。

 イスラエルが無限にソヴィエト製の武器を蓄えていること(そして、CIAがアフガニスタンにアメリカ製の武器を供給していないかもしれないこと)を知りながら、ガストはユダヤ国家とイスラム教国家であるパキスタンの間に、信じられないような契約を持ちかける。チャーリーが、テキサスからカイロまで連れてきたベリー・ダンサーを政府高官の前で踊らせたことも、契約締結を後押ししている。

 地元で薬物所持容疑による投獄の危機と戦いながらも(ルドルフ・ジュリアーニによって当て付けに引き起こされた連邦裁判事件である)、チャーリーは国防経費調査員としての立場を利用し、彼の大義への資金調達と支援要請を取りつける。そしてついに、スティンガー・ミサイルがアフガニスタン抵抗勢力の手に渡るに至り、1989年のソビエト軍撤退に向けて、流れは大きく変わっていったのだ。

500ページを超える濃厚&難解な原作を
94分のテンポ&バランスのいい作品に濃縮

 濃密なストーリーと、とてつもなく多くの登場人物、そして政治的な難解さを扱った物語。クライルは、その全てを事細かに並べたてるのに、500ページを超える紙面を要した。それを考慮に入れれば、ニコルズとソーキンが、その必要不可欠な要素を94分(エンドロールは除く)というバランスの取れた作品に濃縮したことは見事であるとしか言いようがない。この作品のように、大きなテーマで、スター俳優を多数起用したハリウッド大作である場合、2時間20分程の長さになってしまうことを予想するのが普通である。ニコルズの前作である政治コメディ『パーフェクト・カップル』がまさにその長さになってしまったのだが、おそらく彼は今回のような簡潔さがあれば、もっといいものになっていたであろうことを、そのときに学んだのであろう。

 本作のテンポは非常に優れている。考えさせられたり、観終わった後に議論する要素が多く含まれているにもかかわらず、ニコルズ監督はぐずぐず考えるための間を置いたりせず、スクリーン上で全てが解き明かされていくように進めていく。監督と編集のジョン・ブルームアントニア・ヴァン・ドリムレンによって作り上げられたテンポとバランスの良さは、事実上の完成形を見たといっても過言ではない。

 ニコルズの映画版『キャッチ22』から37年。本作が、公職にある人々の違法行為や不条理の連続、想像することもままならない不測の事態、そして非公式な歴史などの要素を含んだ作品であるという点に、興味深い歴史の繰り返し、残響が見られる。同時に、彼の原点が喜劇だということもあり、この映画の中で最高に面白いシーンが、別件の危機的状況で忙しいから、とチャーリーがガストを何度も事務所から追い出そうとする、まるでフランス(もしくはブロードウェイ)の喜劇からそのまま出てきたかのような場面であることもうなずける。

美しい台詞の流れ、嬉々とした演技
光沢のある映像……全てが一流と呼ぶにふさわしい

 もっと、この物語が持つ現代的な暗いアイロニーを強調することを望む人もいるかもしれないが、実際、その点はとても軽快に処理されている。自分が弾みをつけてしまったボールが、興味を失ってしまった後もずっと弾み続けてしまう、そういったことを台詞の美しい流れで表現しているのだ。この作品にはエピローグといったものはなく、そこにあるのはチャーリーの功績を驚くほど真摯に称えているような仕掛けだけである。

 それにしても、この映画は個性を愛してやまない作品だ。どんなかたちであれ、登場人物が持っている個性をしっかりと映し出す。原作では、ジョアン・へリングがとても愛らしく性的なことを巧みに操る女性として描かれているのだが、本作のジュリア・ロバーツは、ひたすらに狡猾で目的のためには手段を選ばないマキャベリストな女性を効果的に演じている。また、最近、『魔法にかけられて』で一躍スターとなったエイミー・アダムスがチャーリーを崇拝するアシスタントを演じ、嬉々としたエネルギーを発している。ネッド・ビーティは、チャーリーの大きな目的の重要な協力者である熟年のプロ政治家を完璧に演じきり、ケン・ストットは、重要なイスラエルの武器関係者として、すばらしい台詞と鋭い演技を残している。

 技術面の貢献で特筆すべきは、撮影監督スティーヴン・ゴールドブラットの作り出す光沢のある映像と、ヴィクター・ケンプスターの多彩なプロダクション・デザイン、そして、アルバート・ウォルスキーの時代を投影した衣装。これらは全て、一流と呼ぶにふさわしい。

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