ヘッダーの始まり

グローバルナビゲーションの始まり
ホームニュース特集インタビュー動画コラムレビュー(選択中)ランキングフォトギャラリーピックアップ
最新映画情報V ブログ教えて!エンタ業界転職情報フロムジャパンV プラスメールマガジンプレゼント映画データベース
パンくず式ナビゲーション

マフィア映画のいかれた遠心分離

2008/06/20

●原題: Eastern Promises/2007年/イギリス・カナダ・アメリカ/100分/6月14日から日本公開
●配給:日活

マフィア物としての本筋を遠心分離する、ミステリ仕立て

(C)2007 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
(C)2007 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
 いったいこのタイトルは何を意味するのかと思いきや、イギリスにはびこる東欧マフィアによる人身売買契約のことだという。そもそもイギリスにそんなロシア人の裏社会があるなんて知らなかったのだが、要はこれはロシア版の『ゴッドファーザー』にして『インファナル・アフェア』なのである。

 したがって、筋書きはシンプルな、よくあるといえばよくあるものである。床屋やレストランでの暗殺はイタリアン・マフィア物でも定番だが、この作品もクリスマスの散髪屋で抗争がらみの殺人が起こるところから始まる。この温和な床屋の主人を装う髭のおやじの、職人ふうの風貌の男が突如暴力に打って出るというのは、国籍こそ違ってもひとつのパターンだ。はてクローネンバーグはこういうマフィア映画の一変種を作ろうとしているのかと思いきや、今度は売春窟から逃れて出産する謎のロシア人少女の登場となり、彼女の日記を持ち出す助産師ナオミ・ワッツのかたぎの家庭に話は横滑りしてゆく。まずこのミステリ仕立てが、マフィア物としての本筋を遠心分離する。

抜群の好演を見せた、ヴァンサン・カッセル

 しかしまた、物語はロシア・レストランの老オーナーことマフィアのドン(アーミン・ミューラー=スタールがドスのきいた演技で見せる)と、その本来なら後継である息子・キリル(このヴァンサン・カッセルは本作中抜群の好演)、雇われ運転手にして行動隊でもあるニコライ(はまり役のヴィゴ・モーテンセン)にくだんの床屋の主人と息子などなど、いわゆるファミリーの仁義の話に舞い戻る。このわかりやすい物語にまた玄妙な不安定感を盛ってくれるのが、主人公ニコライを完全に食っているキリルの性格のきわどさの表現である。思えば某有名マフィア映画を筆頭に、紳士的なドンの実子は父に似ず粗暴だったり脆弱だったりするのに対し、養子は利発で弁護士になっていたりするのもファミリー確執を生む定番であるが、まさにこのキリルはその定番を踏まえつつも、その情緒不安定ぶりはやや度を越しており、ヴァンサン・カッセルが過剰さを狙う監督の意図に応えて、立ちすぎなくらいの挙動不審な存在感を出している。

本筋を過剰に逸脱してゆく狂気

 そして肝心のニコライも、設定上は想定内の人物設定なのだが、あきらかにクローネンバーグは描写の力によって彼を妖しく肥大させている。たとえばそれはニコライが組織で認められたイニシエーションとして全身数十箇所にわたるタトゥーを彫られる場面や、タトゥーを誇示する場としてロシアン・マフィアが好むというサウナで全裸のまま刺客に立ち向かう場面に明らかだろう。そのじっくりと黒いタトゥーを陶然と全身に彫る工程と、鋭利な刃物によりその彫り物が切り裂かれ、血にまみれてゆく過程の描写は、ニコライがいかなるミッションのもとに組織に入っているかということを考えるとあまりにもアンバランスで、キリル同様に本筋を過剰に逸脱してゆく狂気を感じさせる。このキリルとニコライの異様な人物造形は、本作を魅力的に遠心分離するための、今ひとつの監督のたくらみだろう。ニコライは「いつでも自分はゾーンの中に生きている」とのたまうが、実際はその言葉とは裏腹に、映画的には相当なはみ出し者である。

 終盤、少女の日記のミステリはドンの正体露見と失脚によって収束し、薄気味悪い遠心分離の数々を経たニコライは、何食わぬふぜいで某マフィア映画の新世代ドンにありがちな風情で首領の椅子に座っている。このどたばたと都合よく話をまとめてみせるクローネンバーグの手際がまたいい意味で胡散臭く、『イースタン・プロミス』は、ロシアからウラル山脈を越えて謎の裏街道の移民と化した作中の人物よろしく、マフィア映画のパターンを虚構化しつつ、素性不明のやさぐれた映画のゾーンへ越境しようと試みている。

BOOKMARK Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 Buzzurlにブックマーク はてなブックマークに登録   E-MAILメールで送る   PRINT印刷する


パンくず式ナビゲーション
広告エリアの始まり

フッターナビゲーションの始まり
フッターの始まり