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これだけのオバカ映画を観ない手はないだろう

2008/07/23

●2008年/日本/カラー/ヴィスタサイズ/ドルビーSR/98分/2008年7月26日から新宿ピカデリーほか順次日本公開
●配給:トルネード・フィルム

今をさかのぼること41年前の怪獣ブーム

(c)2008ギララ製作委員会
(c)2008ギララ製作委員会
 今をさかのぼること41年前、1967年の春、幼稚園の年中さんであった私は、松竹の映画館の前の大きな看板に釘づけになっていた。その『宇宙大怪獣ギララ』のポスターに載っているギララやアトミック・アストロ・ボートのデザインは、当時の気分ではなんとなく来るべきエキスポふう、今でいうレトロ・フューチャーな感覚で、私はけっこう「カッコイイ」と思ったのであった。東宝の『ゴジラ』に追随して大映が『大怪獣ガメラ』を製作した後、TBS「ウルトラマン」、フジテレビ「マグマ大使」などがヒットしたのを受けて、この「ギララ」とほぼ同時期に日活も『大巨獣ガッパ』を公開した。要は怪獣ブームに乗っかるべく、特撮に慣れてもおらず似合いもしない邦画各社までもが怪獣ものに手を出したというわけである。

 もっとも東宝のモダンでポップなトーンやバタ臭い俳優たちはこの種のSF特撮ものにはとても似合っていて、大映も頑張ってはいたがいかんせん画調も暗く重たく、子どもたちのメジャーはなんといっても円谷英二特技監督率いる東宝特撮であった。そこへ持って来ていつも庶民的な喜劇やメロドラマばかりの松竹が怪獣ものなんて出来るのかしらと、恐ろしいことに当時5歳の子どもさえ危惧したのだが(案外子どもはそういうことに敏感である)、全くこの種の映画を作ったためしもない松竹にしては、かなり頑張っているように思った。ただし、怪獣やメカのデザインはかなりポップで冴えているのに、クールな岡田英次はともかく和崎俊哉原田糸子柳沢愼一といった俳優陣がどうにも和風で、東宝のように宝田明高島忠夫水野久美といったオシャレなフェイスが出てこないところが子どもごころにも辛かった。

忽然とリメイクされた、大怪作『~ギララ』

 監督の二本松嘉瑞という人は、かつてなんと黒澤明白痴』の助監督などをつとめた後、ほんのわずかのメロドラマやコメディを撮り、ハリウッドで合成技術を勉強して帰還後に『宇宙大怪獣ギララ』と翌68年の『昆虫大戦争』(奇篇!)というSFパニック物を撮ったきり、ぷっつり表舞台から消えたという変り種である。私は二本松を日本のウイリアム・ガードラー(知ってる?)と勝手に呼んでいる。彼の64年の処女作『恋人よ』でいずみたくが音楽を担当、倍賞千恵子が主演しているつながりであろうか、『宇宙大怪獣ギララ』にはいずみたく=作曲、倍賞千恵子とボニージャックス=歌の「ギララのロック」(全くロックではない)という主題歌がついており、東宝特撮の荘重なる伊福部昭のマーチにコーフンしていた私は開巻早々ズッコケた記憶がある(もっとも今聴くと、この曲も含めて作品全体が『オースティン・パワーズ』みたいでイケているのだが……)。


 そんななんともいえない映画『~ギララ』は大して話題にもならず忘れ去られ、84年の山田洋次監督『男はつらいよ 寅次郎真実一路』冒頭の恒例寅さんの夢に突如出現した(松竹大船で眠りについていた着ぐるみを再利用したわけだ)以外は全く音沙汰を聞かなくなった。しかし、世の中には摩訶不思議なこともあるもので、2008年の今、忽然と『~ギララ』はリメイクされ、なんと話題の洞爺湖サミットを襲撃するのであった。しかもマスコミ試写状には堂々「ワールド・プレミア」と刷られていて、思わず冗談のきつさに吹き出した。そして、ザ・ニュースペーパー扮する小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫のそっくりさん(政治家本人たちにもこの「ワールド・プレミア」の招待状を送ったというからケッ作)とギララの着ぐるみが登壇する舞台挨拶で、小泉もどきの松下アキラが「この映画にはドンデン返しがあるが、もし宣伝文句の“日本映画史上空前のスケールで描く本格的特撮怪獣パニック・スペクタクル巨篇!!”を真に受けてこの映画を観たら、最初からドンデン返しだねえ」と語ったのが大爆笑であった。そして実際、本作はその通りの大怪作なのであった。

新旧特撮シリーズのヒーローが集結!

 ギララの登場場面はそれなりに迫力もあるが、なにぶん限られた製作費ゆえ、そんなに派手に登場しまくるわけにもいかない。そのかわり、オタク風味のオバカ映画をまかせたら人後に落ちない河崎実は、信じがたいある種の豪華キャストに通常あり得ないバカ演技を連発させて観る者をボーゼンと釘づけにする。『ウルトラマン』本人にしてハヤタ隊員の黒部進、『ウルトラマン』のスーツアクターを経て『ウルトラセブン』のアマギ隊員となった古谷敏、『三大怪獣 地球最大の決戦』の進藤記者に扮した夏木陽介、『キャプテンウルトラ』本人である中田博久、『帰ってきたウルトラマン』のスーツアクターであるきくち英一……そのほか60年代以降のあこがれの特撮シリーズのヒーローたちを、『仮面ライダー THE NEXT』の仮面ライダーV3を演じた加藤和樹、『エコエコアザラク』の黒井ミサを演じた加藤夏希という若手コンビに絡ませて、洞爺湖サミットに集った各国首脳がお国自慢(?)の殺戮兵器でギララに立ち向かうというトンデモないお話(このへんは「ウルトラマン」の快作「空の贈り物」を髣髴とさせる愉快な作戦づくし)を悪ノリ三昧で撮りおおせている。その白眉は、小泉ふう日本首相に化けた北の将軍様ふう怪人が同時通訳を装っていた喜び組ふう工作員を従えてG8を占拠、ギララめがけてテポドンふう核ミサイルを発射するという大詰めで、とにかくアホらしいことこのうえない。

一見に値する、稀代のバカさ加減

 その大ピンチを救済すべく、加藤夏希がアイヌふうの村人たちとコマネチ踊りを始めて(加藤夏希はキレイなルックスなのにたいした度量)ビートたけし演ずる洞爺湖の守護神・タケ魔人を降臨させるに及んでは、もう河崎実は「やりきった感」あるに違いない。ただし、惜しむらくは、演出のテンポが全体にもたもたしているので、こうした想像を絶する快哉のブラックコメディが勢いや歯切れを欠き、今ひとつ笑えないのであった。

 これだけのオマージュ配役を実現して、そこだけがいささかもったいない感じの残る本作だが、この稀代のバカさ加減は善し悪しを超えて一見に値しよう。ちなみに舞台挨拶で河崎実は、「AERA」別冊「ニッポンの映画監督」に載っている約70人に自分が選ばれなかったことにショックを受けたというブラックジョークを飛ばしていたのだが、そういえば私は当初朝日新聞社からこの「約70人の監督」選定への協力を委嘱されつつ、あまりの尺度の難しさに辞退したという経緯があった。ではもし私が最後まで「約70人」を選んでいたなら、河崎実を入れていただろうか?いや、それはあり得ないだろう。もちろん、河崎実への私なりの深い敬意を表してのことではあるが。

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