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「自分の力を信じるんだ」
最近、何人の主人公が言われたことか?

トッド・マッカーシー
2008/07/24

●原題:Kung Fu Panda/2008年/アメリカ/91分/2008年7月26日より日本公開
●配給:アスミック・エース、角川エンタテインメント

Kung Fu Panda TM and (c) 2007 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
Kung Fu Panda TM and (c) 2007 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
「自分の力を信じるんだ」。ここ数年、いったい何人の負け犬的な、子ども向け映画の主人公が、このセリフを言われてきただろう。もう充分数は出そろっていると思うが、あと1本リストに加えてもらいたい作品が現れた。それが本作である。見た目は良いのだけれど、ひどく型にはまったドリームワークス製作のアニメーション作品で、自分の住む地方を守るために選ばれてしまったことで重大な責任を背負い込まされる、ドジでおなかの大きな“白黒熊”の物語である。声優にスターたちを起用した本作は、大がかりでおどけた、どたばたコメディが満載。子どもたちには、ぴったりの作品で、必要とされる興行成績は獲得するだろう。しかし、この作品の全体的な印象の弱さでは、商業的な成功を納めているトップクラスのアニメーションに仲間入りするのは難しい。

常に気を引く何かが画面の中に存在

 中国風の設定にこだわりながら、監督初体験のジョン・スティーヴンソンマーク・オズボーンは、背景となる美しい田舎の風景に、単純化した前景でのアクションを描くことに並々ならぬ力を注いだ。その結果、とても良くできているアジア風なドリームワークスのロゴに始まり、常に気を引く何かが画面の中に存在しているという風にはなっている。ただ、ジョナサン・エイベルグレン・バーガーの脚本にはコメディ的なひらめきはなく、そのためにドジな主人公がヒーローに変わる瞬間は、1時間も遅れてしまっている。その上、できる限りのアクションを盛り込もうとしているだけの構成であることは見え見えで、アクション自体の面白みも実際より水増しされてしまっているように見える。

 ずんぐりむっくりのポー(声はジャック・ブラック。やんちゃととるか不快ととるかは個人の好みだろう)は、年老いた“ヨーダ”のような亀の賢者オーグウェイ(ランダル・ダク・キム)に、「君こそが待ちに待った新しい龍の戦士である」と指名されてしまう。ただ、彼が選ばれた理由は、偶然にも、その時にその場所に居合わせたからというだけで、ほかには何もない。龍の戦士は、誰もが知っている驚異的なマスター・ファイブのひとりがなるものと信じられていたからだ。マスター・タイガー(アンジェリーナ・ジョリー)、マスター・モンキー(ジャッキー・チェン)、マスター・ヘビ(ルーシー・リュー)、マスター・ツル(デイヴィッド・クロス)、そしてマスター・カマキリ(セス・ローガン)という武術の達人たち、それがマスター・ファイブ。彼らはみな、小さな狼、シーフー老師(ダスティン・ホフマン)から訓練を受けてきた精鋭である。

ニュアンスに欠けた設定、理不尽に先延ばされたクライマックス

 ポーが選ばれたのは、オーグウェイがもうろくしていたから。それが本当かどうかは定かでないが、龍の巻物の秘密を知ったとき、ポーが恐ろしいタイ・ラン(イアン・マクシェーン)と戦わなければならないということだけは確かなことになってくる。タイ・ランは非常に有能なカンフー・マスターで、1000人もの看守に守られた山の監獄からも抜け出せるという。大昔、そんな彼が龍の戦士に選ばれるのが当然だと思われていたのだが、何を考えているのか分からないオーグウェイは、彼を候補からはずしてしまった。オーグウェイに拒絶された戦士、というわけで、彼もそこまでの悪役ではないように思えてしまう。

 子ども向けであるという基準を念頭に置いて考えてみても、状況や登場人物、動機などは極めて単純で、ニュアンスに欠けている。ポーと彼自身が運命付けられている変身のポイント以外、他の登場人物は、最初から最後まで、いまいちはっきりしない内面をさらけ出すようなことはしない。脚本家たちも、劇的な驚きを与えることに関して同じように不親切で、短い上映時間にも関わらず、避けることのできない物語のクライマックスは、理不尽に先延ばしにされたような気分になってしまう。

きめ細かいCG映像と劇的な色彩が救い

 この作品の中、少しだけはっとするような面白いシーンがあるとすれば、それはただ1つ。カンフーを会得したと思っているポーが、シーフー老師と箸で点心の取り合いをする場面だけである。より真面目なアクション・シーン、特に長い吊り橋の上でのマスター・ファイブの1人とタイ・ランによる一対一の対決などは、伝統的手法で描かれたことで成功しており、ハンス・ジマージョン・パウエルの鳴り響く音楽も、しっかりと支えになっている。

 製作者たちは、アジアの芸術とアニメーション・スタイル、桂林の渓谷にアイデアを得た山々の地形を利用し、素晴らしく、珍しくきめの細かいワイド・スクリーンのCG映像を作り上げている。色彩も、重要な場面で劇的に目立つように気を配られており、それ以外のところでは、まあまあの出来でしかない本作品の映像を最も洗練された要素にする助けとなっている。

 ブラックの高圧的なセリフ読みは別としても、声優陣の仕事は安定したものから魅力的なものまでが並んでいる。特に、ホフマン演じる老師の茶目っ気ある微妙な変化や、マクシェーンが王者になるはずが軽蔑されてしまった男に吹き込んだ予期せぬ感情、そしてキムが表現する全盛を過ぎた賢者の老いた雰囲気などが味わい深い。マスター・ファイブを演じたスター俳優たちは、相対的に声で輝く機会を与えられていない。

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