『母べえ』
●監督:山田洋次 原作:野上照代 プロデューサー:深澤宏 脚本:平松恵美子 撮影:長沼六男 美術:出川三男 音楽:冨田勲 ソプラノ:佐藤しのぶ 照明:中須岳士 編集:石井巖 録音:岸田和美
●出演:吉永小百合、浅野忠信、檀れい、志田未来、佐藤未来、戸田恵子、笑福亭鶴瓶、中村梅之助、坂東三津五郎
●2007年/日本/132分/1月26日(土)全国にて日本公開
●配給:松竹
●出演:吉永小百合、浅野忠信、檀れい、志田未来、佐藤未来、戸田恵子、笑福亭鶴瓶、中村梅之助、坂東三津五郎
●2007年/日本/132分/1月26日(土)全国にて日本公開
●配給:松竹
治安維持法の犠牲となる一家を描いた秀作
戦前の日本には、治安維持法(一九二五年公布)という悪名高い思想弾圧の法律があった。国家の政策を批判したりすると逮捕される。最高刑はなんと死刑。
昭和十二年(一九三七)の日中戦争の勃発と共に日本の国が軍事体制を強めていった一因はこの法律にあった。戦争を批判したりしたらたちどころに逮捕されるのだから、誰も本当のことをいわなくなってしまう。
山田洋次監督の『母べえ』(=かあべえ)は、この治安維持法の犠牲になった一家が、戦時中、さまざまなつらい思いをしながら、吉永小百合演じる母親を中心に、懸命に生きる姿を優しく、温かくとらえた秀作。
戦前の日本を美化する意見が目立つようになった現在、“あの時代、治安維持法があったことを忘れてもらっては困る”という山田監督の思いが込められている。
といっても、決して大上段に振りかぶった社会派映画ではなく、あくまでもホームドラマ、小市民映画の温かさを持っていて、成瀬巳喜男監督の名作『おかあさん』(52年)を重ねたくなる。
昭和十二年(一九三七)の日中戦争の勃発と共に日本の国が軍事体制を強めていった一因はこの法律にあった。戦争を批判したりしたらたちどころに逮捕されるのだから、誰も本当のことをいわなくなってしまう。
山田洋次監督の『母べえ』(=かあべえ)は、この治安維持法の犠牲になった一家が、戦時中、さまざまなつらい思いをしながら、吉永小百合演じる母親を中心に、懸命に生きる姿を優しく、温かくとらえた秀作。
戦前の日本を美化する意見が目立つようになった現在、“あの時代、治安維持法があったことを忘れてもらっては困る”という山田監督の思いが込められている。
といっても、決して大上段に振りかぶった社会派映画ではなく、あくまでもホームドラマ、小市民映画の温かさを持っていて、成瀬巳喜男監督の名作『おかあさん』(52年)を重ねたくなる。
浅野忠信の演技が素晴しい
日中戦争後、日本が軍国主義化してゆく昭和十五年(一九四〇)。東京の杉並区あたりに住む野上家では、父(坂東三津五郎)と“母べえ”こと母(吉永小百合)と、小学生の二人の娘(子役の志田未来と佐藤未来)がささやかながら幸せに暮している。
しかし、ある夜、突然、父親が治安維持法で逮捕されてしまう。リベラルなドイツ文学者の父親は、日本の軍国主義、戦争を批判していた。そのために強権によって逮捕された。
一家の生活は一変する。大黒柱の父親がいなくなる。当然、経済的に困る。母親がなんとか小学校の代用教員の職を得るが、父親のいなくなった家庭は物心両面でつらい。
そんな時に現われたのが、父親の教え子でやはりリベラルな若者。苦境に陥った恩師の一家のために献身的に尽す。演じている浅野忠信が素晴しい。
夫が逮捕されたため、ある意味、未亡人になった妻に尽し続ける姿は、いうまでもなく『無法松の一生』を思わせる。山田洋次監督の初期の作品、ハナ肇主演の『馬鹿まるだし』(64年)が『無法松の一生』を下敷にしていたのをリフレインさせている。
鶴瓶演じるフーテンの寅さんのような自由人の叔父さんも笑わせてくれる。いい加減で調子のいい脳天気な叔父でありながら、実は、世間からつまはじきにされてしまった一家のことを思いやっている。
物語全体は、小学生の次女の目で語られているので、「社会」より「家庭」が重視されている。その結果、懐しき、良き小市民ドラマになっている。
原作は、黒澤明作品の名スクリプターとして知られる野上照代。フィクションの部分もあるが、おおむね自伝的作品という。次女が野上照代にあたる。
戦時中の食糧難の時代、この女の子がいつもお腹を空かしていて、訪問先で出されたカステラやすき焼を食べたがっているのが、可愛く切ない。
治安維持法は、敗戦後、占領軍(実質はアメリカ)によって廃止された。戦後の日本がアメリカに事実上、占領されたことの良否はいまも議論が多いが、少なくともこの思想弾圧法が廃止されたのはよかった。
しかし、ある夜、突然、父親が治安維持法で逮捕されてしまう。リベラルなドイツ文学者の父親は、日本の軍国主義、戦争を批判していた。そのために強権によって逮捕された。
一家の生活は一変する。大黒柱の父親がいなくなる。当然、経済的に困る。母親がなんとか小学校の代用教員の職を得るが、父親のいなくなった家庭は物心両面でつらい。
そんな時に現われたのが、父親の教え子でやはりリベラルな若者。苦境に陥った恩師の一家のために献身的に尽す。演じている浅野忠信が素晴しい。
夫が逮捕されたため、ある意味、未亡人になった妻に尽し続ける姿は、いうまでもなく『無法松の一生』を思わせる。山田洋次監督の初期の作品、ハナ肇主演の『馬鹿まるだし』(64年)が『無法松の一生』を下敷にしていたのをリフレインさせている。
鶴瓶演じるフーテンの寅さんのような自由人の叔父さんも笑わせてくれる。いい加減で調子のいい脳天気な叔父でありながら、実は、世間からつまはじきにされてしまった一家のことを思いやっている。
物語全体は、小学生の次女の目で語られているので、「社会」より「家庭」が重視されている。その結果、懐しき、良き小市民ドラマになっている。
原作は、黒澤明作品の名スクリプターとして知られる野上照代。フィクションの部分もあるが、おおむね自伝的作品という。次女が野上照代にあたる。
戦時中の食糧難の時代、この女の子がいつもお腹を空かしていて、訪問先で出されたカステラやすき焼を食べたがっているのが、可愛く切ない。
治安維持法は、敗戦後、占領軍(実質はアメリカ)によって廃止された。戦後の日本がアメリカに事実上、占領されたことの良否はいまも議論が多いが、少なくともこの思想弾圧法が廃止されたのはよかった。
































