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外側の動と内面の静がぶつかり合う、「魔」の映画

2008/02/20

●監督:アン・リー プロデューサー:ビル・コン、アン・リー、ジェイムズ・シェイマス 原作:アイリーン・チャン 脚色:ワン・フィリン 撮影:ロドリゴ・プリエト 編集:ティム・スキアーズ 美術・衣装:パン・ライ 音楽:アレクサンドラ・デスプラ
●出演:トニー・レオンタン・ウェイ、ワン・リーホン、ジョアン・チェン
●2007年/アメリカ=中国=台湾=香港合作/158分/2月2日(土)より日本公開
●配給:ワイズポリシー


清楚と妖艶を見事に演じ分けた、タン・ウェイ

 タン・ウェイという中国の新人女優が素晴しい。最初から最後まで彼女の美しさに釘付けになる。大抜擢した監督アン・リーも彼女に惚れ込んだのではないか。二時間半ほどの映画だが、いま思い出してみると、ほとんどの場面に彼女が出ていた印象がある。
 清楚な女学生と、チャイナドレスや紅い口紅が似合う妖艶な“人妻”を見事に演じ分ける。まるで女性は清純さと淫蕩さを合わせ持つとでもいうかのように。題名の「ラスト」(欲望)が“人妻”、「コーション」(警戒心)が女学生だろうか。
 抗日運動に加わった女学生が、日本の傀儡政権の要職にある男(トニー・レオン)に暗殺目的で近づく。平俗に言えば色仕掛け。
 まず一九三九年の香港で。これは学生のままごと遊びのようなものであえなく失敗。
 次いで一九四二年、日本占領下の上海で。ここで彼女は男に近づくことに成功し、たちどころに身体を重ねる関係になる。
 セックス・シーンが凄い。処女の女学生が“人妻”として男に接するのだから、処女を捨てなければならない。抗日運動の仲間である学生と寝る。驚くのは何回目かでもう彼女が女性上位の体位を取ること。女学生が抗日のためという大義のためとはいえ、大胆。

退廃の香りがする二人のセックス

 タン・ウェイが中国の女優としては珍しいほど全裸の性交シーンを見せる。ここでも「ラスト」(欲望)と「コーション」(大義)がぶつかり合う。
 そして上海で目的の男に接近した彼女は、まさに「ラスト」に身をまかせたように男とのセックス、愛欲の異様な世界に入り込んでゆく。
 タン・ウェイとトニー・レオンが隠れ家のような部屋でひそかに抱き合う。男はいきなりサディスティックに女をいたぶる。女は嫌がるどころかそれに応えてしまう。
 二人のセックスは退廃の香りがする。喜びに向う性交というより、闇へと堕ちてゆく淫靡な欲情である。まず何よりも、男には妻(ジョアン・チェン)がいるから、二人の関係は不倫である。当然、逢いびきは人目を忍ぶ秘密めいたものになる。逆にいえば、純粋な「ラスト」である。だから二人は、世間から隠れた暗い部屋で異常なまでに燃え上がる。禁忌の思いが逆に二人を性欲に向かわせる。禁じられた“愛”に身をまかす。
 しかも、二人のセックスの背後には暗殺という死がある。愛欲に溺れれば溺れるほど、暗殺の成功の可能性は強くなる。死が確実に近づいてくる。

セックスの根底にある、非日常の衝動とサスペンス

 この映画のセックス描写に迫力があるのは、単に女優の大胆な演技というレベルを超えて、まさにエロスとタナトス(自己破滅に向かう死への欲望)が溶け合う、非日常の衝動が根底にあるからに他ならない。
 さらに。
 激しく抱き合う二人だが、本当のところ、それぞれが何を考えているか観客には分からないというサスペンスが加わる。
 女はただ暗殺目的という大義のために男に抱かれているだけなのか。エクスタシーは単なる演技でしかないのか(彼女は女学生の時に演劇部で活躍していた)。それとも男に抱かれ本当に我を忘れた陶酔状態に陥ってしまったのか。
 一方、男は特務機関の大物である。女が”人妻”と偽っているのを知っているのではないか。正体を知っていて女を性欲の対象として利用しているのではないか。
 激しいセックスを繰返す男女の内面がなかなか観客にはわからない。セックスという外面の激しさと、心の動きという内面のあいまいさがぶつかり合う。外面の動と内面の静。こういうセックスを描く映画がこれまであっただろうか。
 上海はあの時代「魔都」と呼ばれたが、この映画の男女のセックスは「魔」としか呼びようがない。

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