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心から祝福したい気分になる、傑作

2008/02/26

●製作:リー・シュイホー 監督:ハスチョロー 脚本:ラン・ピン 撮影:ハイ・タオ 美術:ジン・ヤン 録音:リ・ジュジョン 作曲:チャ・カン
●出演:チン・クイチャン・ヤオシン、ワン・ホンタオ、ワン・シャン、マ・ジンロン、トン・ジョンチ、ユウ・リピン、ソン・グァ、シュ・フェジー
●2006年/中国/105分/2008年2月9日(土)から岩波ホール他にて全国順次公開
●配給/アニープラネット

92才で元気で働いているおじいさんの生活

 北京の下町の路地裏で長年床屋さんをやってきて、いまも九十二才で元気で働いているおじいさんの生活を描いた映画である。実際にそうして暮しているチンさんというおじいさんを主役にして、現実のこの人の人生をモデルにしたようなストーリーになっている。それならなにも劇映画にしなくたって、ドキュメンタリーでいいんじゃないかという人もいる。じっさいこの人についてのドキュメンタリーはあり、ハスチョロー監督はそれを見て興味を持って本人に会いに行き、シナリオを書いて劇映画にしたのだという。ドキュメンタリーもいいけれど、それでは表現が難しいものもある。

 例えば老人の日常生活のなかにさりげなく現れる死の危険である。この映画の中で、チンさんは昔からのお得意さんのために自転車で出前の仕事にゆく。その帰り道、車の多い大通りで気分が悪くなったらしく、自転車を道路の端に寄せて自分は降り、そこにうずくまってしまう。しばらくそうしてジッとしている姿を見ていると、一観客としてはなんだか心配になってくる。通行人の誰かが声をかけて病院に連れて行ってくれればいいのに、とも思うのだ。しかし、しばらくしてチンさんは起き上がり、人ごみの中でまた自転車に乗って家に帰る。見ていて、良かった良かったと思わずニコニコしてしまう。この場面はたくさんの車や通行人もみんなエキストラで、うずくまっているチンさんを誰もふり向いたりしないよう、ちゃんと演出して撮ったのだそうである。そこからなんとも言えないホッとした気分がわいてくる。まわりの人たちからただ大切にしてもらえばいいってものではなくて、まるで危険と戯れているかのような境地。これはレベルの高いユーモアと言ってもいいものかもしれない。やらせなしのドキュメンタリーでこういう調子のユーモアをうかびあがらせるのはたいへんだ。

味のあるユーモアと格好よさ

 チンさんはいざというとき周囲の人たちに迷惑をかけないよう、自分のお葬式の準備をしなければならないと思って、葬儀屋に電話をして聞いてみる。そこでまず、ごく限られた字数で個人の略歴を書いておかなければならないと教わって早速テープレコーダーに自分の人生の歩みを吹き込んでみるが、どうしても簡略とはゆかない。そのうち、そのテープをかわいがっている猫がグチャグチャにしてしまって、ヤレヤレ。このギャグもなかなか味があっていい。そんなせつないユーモアだけでなく、定年退職している息子がお金に困って愚痴っぽくグズグズ言うのに、小遣いをあげて「ケチケチしないで健康のための薬を買え」と言ってやる。九十を過ぎても働いて稼いでいるとこういう恰好いいセリフが言える。いいなあと心から祝福したい気分になる。本当に気持のいい映画である。傑作だ。



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