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視覚的には豪華、だが論調的には冷たい冒険物語

トッド・マッカーシー
2008/03/05

●製作:ボブ・シェイ、マイケル・リン、トビー・エメリッヒ、マーク・オーデスキー、アイリーン・メイセル、アンドリュー・ミアノ、ポール・ワイツ 共同製作:ニコラス・コルダ 監督:クレス・ウェイツ 脚色:ポール・ワイツ 原作:フィリップ・プルマン(「黄金の羅針盤」)
●出演:ニコール・キッドマンダコタ・ブルー・リチャーズ、ダニエル・クレイグ、サム・エリオット、エヴァ・グリーン、クリストファー・リー、トム・コートネイ
●2007年/アメリカ/112分/3月1日(土)日本公開
●配給:ギャガ・コミュニケーションズ

映画の問題点は、反宗教的テーマではなく、
スリリングな高揚感がないこと

 クリスマス・正月の映画シーズン、そしてまた新しい創造上の世界との戦いが始まる。今回はフィリップ・プルマンの「ライラの冒険」3部作の世界——もしくはその複数のパラレルワールドの世界というべきか。その第一弾となるのが、本作「黄金の羅針盤」(ちなみに1995年にイギリスで出版されたときの題名は “Northern Lights”(ノーザン・ライツ)というものだった)である。『ロード・オブ・ザ・リング』での大ヒット再びを狙うこの作品の幕開けは、脚本・監督をつとめたクリス・ワイツの手によって視覚的には印象深く表現されている。この世から自由な意志を消してしまおうとする悪の力を相手取り、果敢な戦いを挑む選ばれし少女の冒険物語となっているのだが、これが不思議と心惹かれない。視覚的な豪華さとシリーズものの匂いがすることから、特に海外では、そこそこの数の観客を動員するのであろう。ただ、『黄金の羅針盤』が、『ロード・オブ・ザ・リング』のような興行成績を上げることは望むべくもなく、『ナルニア国物語』程度までもっていけるかどうかも怪しいところである。

 アメリカ側ではそうでもなかったが、イギリスで物議を醸した原作者プルマンの壮大な物語は、イギリスそっくりな土地を舞台とし、北極圏ぎりぎりのノルウェーへの探検も描いている。しかし原作が広い意味で訴えていたのは、合理的で科学的な領域と権力に取り付かれた教会組織によって行使される、完全無欠な抑圧との戦いなのである。その階級論者による体制は、全ての子どもたちの心を掌握すべしとしている。数々の団体を動揺させたのは、無論このあからさまな反宗教的なテーマだったわけだが、映画となった今、観客にとってより大きな問題となるのは、本作品にスリリングな高揚感がないことだったり、進んで不快な人物になろうとしているとしか思えない大勢の大人たちが子どもたちに対して見せる、ほとんど救いのない底意地の悪い行為だったりするのだろう。

やんちゃな少女が世界で
唯一の "真理の解読者"に

 物語の看板であり中心にいるのは、威厳のあるジョーダン学寮で育てられるという特権を謳歌する12歳の孤児、ライラ・ベラクア(新人のダコタ・ブルー・リチャーズ)である。茶色の髪の毛とやんちゃな一面を持つリチャーズは、大人とも子供ともいえない年齢の主演女優として稀有な存在感を持っている。しかしここで、ある疑問がすぐに湧いてくる。それまでの生涯を高度に学問的な環境で過ごしてきたライラは、なぜ粗野で乱暴な友人たちや親友のロジャー(ベン・ウォーカー)と同じように、軽い労働者階級なまりで話をし、正しくない文法を使うのか? たしかにお転婆娘という扱いをされてはいるが、学校内での彼女の状況や周りの友人達との関係が、最初の部分でしっかりと調整されているとは言いがたい。

 ライラの著名な叔父、アスリエル卿(ダニエル・クレイグ)は、北極圏で、これまで想像の産物でしかなかった複数のパラレルワールドを結びつける鍵となるかもしれない黄金のダストを発見してしまう。それは、教会組織のエリートたちを脅かすものでもあった。そしてライラもまた、どんな質問にも真の答えをもたらす装置、真理計もしくは黄金の羅針盤として知られる、この世に現存する最後の装置の、 “秘密の解読者”となってしまう。

 ロジャーの行方が分からなくなり、ライラは誘拐された子どもたちが連れて行かれたという噂の北へ行くチャンスに飛びつく。彼女に同行するのは、全身きらきらのコールター夫人(ニコール・キッドマン)である。彼女のライラに対する必要以上に丁寧な態度の裏には、ある策謀が隠されている。奇抜な架空のロンドンを飛び立ち、彼らはツェッペリン型飛行船と「海底二万マイル」でネモ艦長が操縦するノーチラス号を足して二で割ったような、さらに奇抜な飛行船に乗り込むのである。

子ども向け映画の方法論に
迎合しないアイデア

 プルマンが描く世界の特筆すべき部分は、全ての登場人物がダイモンと呼ばれる動物と共に生活していることである。そのダイモンたちは飼い主の心の中の動きを、話やジェスチャーで外界に伝える。ライラを含め子どもたちのダイモンたちは若さゆえの不安定さを反映するように頻繁に種を変える一方、大人たちのダイモンは姿を変えることはない。この突飛なアイデアは、ある2人の人間が衝突しそれぞれのダイモンたちが、その気持ちを行動に表すときに、おもしろおかしい結果を生んでいる。これは表向き子ども向けの映画には珍しいのだが、ダイモンたちがまったくかわいらしく描かれていないのだ。

 これは評価していい部分なのだが、『黄金の羅針盤』は、よくある子ども向け映画のような方法論にまったく迎合していない。ライラが北の果てで見つける誘拐された子どもたちがさらされている状況は、拷問と言ってもいいようなものなのである。

 悪の力に立ち向かうため、ライラは様々な仲間たちに協力を求める。その中には、カウボーイ飛行士リー・スコーズビー(いつものようにすばらしい演技を見せるサム・エリオット)や、親しみやすい空飛ぶ魔女サラフィナ(エバ・グリーン)、数人のジプシャン族と呼ばれる放浪者たち、そして最も素晴らしい仲間、白熊のイオレクなどがいる。

ベテラン俳優の声の対決が
そのまま決死の対決シーンに

 本作、最初に繰り広げられるすばらしい仕掛けは、イオレクと北国の熊の王者で繰り広げられる決死の戦いである。この2人の声を担当するのは、それぞれイアン・マッケランとイアン・マクシェーンであるが、この本当にスリリングなシーンで、どちらか一方が生き残るまで武装したCGの獣同士が吠え、乱暴に掴みかかり、噛み付くといった戦いの中、2人どちらのバリトンボイスが優れているかを決するように声を張り上げ続けるのだ。

 その直後に続く大掛かりで混沌とした氷上の戦いは、『ロード・オブ・ザ・リング』ほどの規模感はないにせよ、それなりの爆発力がある。結末において、物語の差し迫った問題はいったん解決する。第一弾をはらはらするエンディングで終わらせないという意味なのだが、おそらくそれはニューライン・シネマが、『ロード・オブ・ザ・リング』とは違って、次回作の契約を結ぶ前に『ライラの冒険』に対する観客の反応を見ようという決断からきたものと思われる。

大規模の作品をうまく扱ったワイツ しかし、ドラマの世界に観客を招き入れることは拒む

 今までこのような製作規模の作品を撮ったことがないワイツ(『アバウト・ア・ボーイ』)は、多くの説明的な部分を背負い込みながら規模の大きなシーンを十分にうまく扱っていると言える。だが、前面に出てくる論調は冷たいもので、これは後半の凍りつくような設定とはまったく関係がないのだが、作品として観客を、この新しいドラマの世界に積極的に招き入れることを拒んでしまっている。

 1930年代の技術と服飾の世界を思い出させ、ほぼ絶え間ないCGIで装飾された映像は、見た目の面白さだけは提供している。生き物、特に熊たちの描写はしっかりとしたもので、本作の製作面の価値でいえば、不足しているところはほとんどない。

映画と同じく、満場を納得させる演技は見られず

 キッドマン演じるコールター夫人には、彼女の中で反目する意図がきちんと整理されていないという問題を抱えてしまっている。彼女は明らかに良からぬことを企んでいるのだが、ライラに近づいていたい本当の理由があり、それが彼女の明白な嘘をうっとうしいものにしてしまっている。ゆえにキッドマン本人も表面的な態度や優雅な衣服の下、必要以上に脆弱で落ち着きがないように見えてしまっている。

 クレイグは冒頭以降ほとんど出番がないのだが、おそらく次回作から彼のキャラクターが前面に出てくると予想できる。下劣な教会組織の長老たちの中でも、サイモン・マクバーニーが、飛びぬけておもしろいほど鼻持ちならない人物を見事に演じている。

 リチャーズについて言えば、彼女の演じた役が、他の者たちを彼女の命令に従わせることに長けている強情で、多少短気な少女以上のものになっていくかどうかは今後、時が経つとわかることになるだろう。この若い俳優は何か素晴らしいものを持っているようだが、この映画と同じように、まだ満場を納得させるような力を出し切っているとは言えそうもない。

 アレクサンドル・デスプラの動きの激しい音楽は、彼の代表作となるようなものではないが、この手の作品の基準値以上のものになっている。

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