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久しくいなかった「娯楽映画の職人監督」の丁寧なメスさばき

2008/03/05

(c)2008「チーム・バチスタの栄光」製作委員会
(c)2008「チーム・バチスタの栄光」製作委員会
●監督:中村義洋 プロデューサー:佐倉寛二郎、山内章弘 エグゼクティヴプロデューサー:間瀬康宏 企画:市川南 原作:海堂尊 脚本:斉藤ひろし、蒔田光治 音楽:佐藤直紀
●出演:竹内結子阿部寛、吉川晃司、佐野史郎、池内博之、田中直樹、玉山鉄二、田口浩正、井川遥、野際陽子、平泉成、國村隼
●2008年/日本/SRD/ビスタサイズ/120分/2月9日(土)全国東宝系にて日本公開
●配給:東宝

理性的に作り出された、並々ならぬサスペンス

 『七人の侍』が私たちを興奮させるのは、戦場となる村の地形を詳細に見せておくせいで、最後の戦闘で何が起こっているかが、観客に明瞭に伝わるからである。心臓手術の最中に患者が相次いで死亡するというプロットの本作においても、手術がどんな手順で行われるかが繰り返し丁寧に記述される。これが画面全体に並々ならぬサスペンスを生んだ。

 舞台は大学病院の手術室。桐生助教授(吉川晃司)をリーダーとする7人のチームが、「バチスタ」と呼ばれる心臓手術で、世間の耳目を集めていた。ところが、ある時から連続して手術が失敗し、患者たちを次々と死に至らしめる。田口医師(竹内結子)が調査に入るも、ラチがあかない。そこへ厚労省から白鳥技官(阿部寛)が乗り込んできて、強引な捜査を始める……。

 バチスタは一旦心臓を止めて術を施し、終了後に再び心臓を動かすという危険な手術。麻酔医が患者を昏睡させ、大動脈を遮断して心臓を止め、病理医が切除部を決定し、外科医が切除、縫合する。その間、臨床工学士が人工心肺を操作して生命を維持する。

 中村義洋監督は、この手術の過程を4度見せる。冒頭、30分後、60分後、90分後。120分の作品が手術シーンによって美しく4等分されている。しかも失敗例と成功例をバランス良く配してある。回を重ねるごとに観客の理解は深まり、それに比例してサスペンスはいやがうえにも高まっていく。

 ダイナミックな緊張感は、短いカットを畳みかけてこけおどしの音楽をつければ生まれる、というような単純なものではない。丁寧なメスさばきで理性的にサスペンスを作り出す中村監督は、久しくいなかった「娯楽映画の職人監督」と呼ぶにふさわしい。

人間の多面性を主題に

 この丁寧さは、登場人物の特徴を観客に印象づける際にも遺憾なく発揮される。チーム・バチスタの7人の「容疑者」たちは、3つの位相で紹介される。

 最初は、彼らの偉業を称えるドキュメンタリー番組を田口医師が見るという形で。ここでは彼らの優れた面だけが強調される。次いで田口医師の聞き取り調査の形で。今度は彼らの性格が分かる。ただし田口の詰めが甘く、多分に表層的だ。最後に白鳥技官の強引な捜査によって、隠蔽していた彼らの本性がひっぺがされる。こうして手順を踏むことで、観客は、スムーズに彼ら一人ひとりを知ることが出来るのだ。

 さらに、三つの位相によって人物を描写する手法は、人間の顔は一つではないという、この作品の真の主題をも浮かび上がらせる。多面的なのはチーム・バチスタの7人だけではない。少々ネジのはずれた不定愁訴外来の患者たちも最後に別の面を見せて、田口を救うことになるし、白鳥技官に至っては、最初から余りにも複雑な顔をさらしている。

 唯一、田口だけは一貫して「愚鈍なお人好し」という一面的な人物として描かれる。しかし、その田口も、最後のソフトボールのシーンで新たな一面を見せる。メインプロットからはずれたソフトボールという設定をわざわざ導入したのにはやはり意味があった。ヒロイン田口の別の顔が表れたところで、人間の多面性を主題にしたこの映画は、ようやく完結することが出来るのだ。

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