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スキャンダルを暴露するという感受性はあるが、温厚なアプローチに物足りなさも

トッド・マッカーシー
2008/03/06

●製作:ジェレミー・トーマス、マルコム・マクラーレン 製作総指揮:ジェフ・スコール、リッキー・ストロース、クリス・サルバテラ、エド・サクソン、ピーター・ワトソン、エリック・シュローサー、デイヴィッド・M・トンプソン 共同製作:アン・カーリ 監督:リチャード・リンクレイター 脚色:エリック・シュローサー、リチャード・リンクレイター 原作:エリック・シュローサー(「ファーストフードが世界を食いつくす」 草思社刊)
●出演:パトリシア・アークエットボビー・カナヴェール、ポール・ダノ、ルイス・ガスマン、イーサン・ホーク、アシュリー・ジョンソン、グレッグ・キニア、クリス・クリストファーソン、アヴリル・ラヴィーン、カタリーナ・サンディーノ・モレノ、ブルース・ウィリス
●2006年/イギリス・アメリカ/108分/2月16日(土)より日本公開
●配給:トランスフォーマー

 エリック・シュローサーが2001年に発表したノンフィクション・ベストセラー「ファーストフードが世界を食いつくす」を基に、フィクションとして生まれ変わった映画『ファーストフード・ネイション』。この映画に弾みをつけているのも、原作同様、積極的にスキャンダルを暴露しようとする感受性であるということが言える。ただ、映画版の方は、物語の構成に緩慢なところが目立つ。リチャード・リンクレイターが監督を務め、アメリカの食肉業界で働く人々、また業界を牛耳る人々の様々な人生を織り込んだ群像ドラマは荒削りなところが目立つ上に、広い範囲をカバーしようとして、雑なところが目に付いてしまう。だがそれでも、体制を批判しようとする姿勢や醜聞を暴露することには、十分な魅力は残っている。切れ味の鋭さに物足りなさを感じることにはなるであろうが、原作の人気で題名も浸透しており、天邪鬼なものの見方もあって、若く流行に敏感な観客からは支援されるであろう。しかし、もっと好戦的で漫画的な表現がとられ、より感情に訴えかけるドラマが盛り込まれていれば、米での公開も、ずっと大作感のあるものになったのかもしれない。

 シュローサーが丹念なリサーチを重ね、アメリカ巨大ジャンクフード業界の醜聞を暴いた人気原作から、それなりに形の整った、感情移入の出来る映画を作り出すことは、それだけで相当に至難の技だ。しかし原作者と監督リンクレイターは、作品作りの焦点をどこに当てていくかということに関し、見事に適切な判断を下したと言える。

自社商品の調査のため、工場に出かけるマーケティング担当者

 映画の前半は、愛想がよく、詮索好きなミッキーズのマーケティング副社長ドン・ヘンダーソンを中心に展開していく。ミッキーズとは、一押し商品の「ザ・ビッグ・ワン」で人気の波に乗った巨大ハンバーガーチェーンで、ドンは上司からミッキーズの商品に牛の糞が混じっていないか極秘裏に科学的調査を行うため、牧場へと送られてしまう。

 証拠を求めるドンは、同社の巨大飼養場と食肉加工工場のあるコロラド州コーディーへとたどり着く。そこはまた、メキシコからの不法入国者がトラックに乗せられてどっさりと運ばれてくる町でもあった。彼らは、見た目ばかりがピカピカな食肉処理場で誰もやりたがらないような職に就かされるのである。不法移民の密輸業者ベニー(ルイス・ガスマン)によって連れられてきた新しいメキシコ人の中に、魅力的で物分りのいいシルビア(カタリーナ・サンディーノ・モレノ)や彼女の鼻っ柱の強い妹ココ(アナ・クラウディア・タナンコン)、そしてシルビアの恋人ラウル(ウィルマー・バルデラマ)がいた。

もっと辛らつな社会批判が出来なかったかと願わせる

 ファーストフード文化というものが、あまりに分かりやすい標的となっていることで、リンクレイターも安っぽい笑いを取るためだけの中傷を並べ立てるようなことをしていないのだと思われる。アメリカの多くの町と同じように、個性のないチェーン展開のレストランや店で埋め尽くされているコーディーの目抜き通りは、あまりにも力が抜けるほどがっかりさせられるので、ユーモアの範疇を超えている。

 しかし、この作品の多面的な構造は、多分にロバート・アルトマンが用いた集団群像劇やその描写を思い起こさせ、この作品で喚起できているものよりも、ずっと辛らつで、もっと突き刺すような社会批判が出来なかったものかと考えたり、願ったりせずにはいられない。

 ただリンクレイターの感性は、それよりもずっと穏やかなものであったようである。その優しさは、調査が進むにつれどんどんと取り乱していくドンや、他に選択肢を持たない不法移民たちに向けられているだけでなく、その他の登場人物たちにも向けられている。その中には、ミッキーズのレジ係をしているだけではもったいないほど優秀な高校生アンバー(アシュレー・ジョンソン)や、彼女にもっと上を見るべきだと言い続ける野心家の叔父ピート(イーサン・ホーク)、そしてドンに物事がさらに悪い方向に変化していることを説明してみせる地元の昔からの牧場主ルーディー(クリス・クリストファーソン)がいる。

ショッキングな食品加工工場の現場描写

 違った意見を述べる人物もいる。牛肉の供給元ハリー(ブルース・ウィリス)である。彼は、ミッキーが巻き込まれている食物汚染に対し、もっと割り切った考え方をしろとドンに迫る。彼の意見は、こうだ。「少しばかりなら、クソを食らわなきゃならないときがあるっていうもんだ」

 食物汚染の問題とドラマを扱うこの作品は、いや応なく食肉加工工場の、文字通り “内臓部分”に触れることとなる。メキシコ人の1人シルビアは、その部署の配属となってしまっている。屠殺作業場や内臓処理部の場面を見た後は、菜食主義者をごっそりと生み出す結果にならなかったとしても、映画を見終わったあとのハンバーガーの消費量が確実に減ることは請け合いである。

観客を引きつける数々の挿話

 リンクレイターとシュローサーがここで指摘する問題は、巨大企業が不法入国労働者を脅迫したり、医療保険の支払いを拒否するといったことを通して、簡単に不法移民の弱みにつけ込むことが出来る能力を持っているということでもある。

 そういった展開の全ては、観客の注意を引きつけるものである。そのほかの挿話としても、シルビアとココの姉妹間の確執や、工場監督官マイク(ボビー・カナヴェイル)の性的な悪ふざけ、そして地元学生たちによる牛を「解放」しようという馬鹿げた努力などがある。学生たちは、真夜中に飼養場を襲うのだが、彼らが出した結論は、牛は彼らが思っていた以上に間抜けであったと言うものだった。

戦闘準備にある者には賛同できるところが多いが、温厚さが残念

 でありながら、残念なことにドンは話し半ばで消えてしまい、クリストファーソンやウィリスなどが演じた登場人物も、一瞬登場するだけで、きちんと描かれることはない。そのほかにも、ミッキーズの反抗分子が強盗を計画するという伏線も用意されるが、計画が実行に移されることはないといった具合である。こういったこと全てと、ゆったりとしたペース、のんびりとした映像スタイルは、物語を語る上で自由奔放な感覚を生み出してはいる。これを不快に思うかどうかは別として、シュローサーの原作にあるシステマチックな姿勢が喚起する攻撃的モードを、十分にこの映画が引き継いでいるということでは決してない。

 結局のところ、感情的な、もしくはドラマチックな見返りを期待している観客たちは、がっかりさせられるということなのである。戦闘準備にあるものとして、本作品は実に賛同できるところが多いものなのだが、如何せん驚くほど温厚なものとなってしまっているのが残念である。

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