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唯一の救いはケイト・ブランシェットを観る楽しさ

トッド・マッカーシー
2008/03/09

(C)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.
(C)2007 Universal Studios. All Rights Reserved.
●製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ジョナサン・カヴェンディッシュ 製作総指揮:デブラ・エイワード、ライザ・チェイシン、マイケル・ハースト 共同製作:メアリー・リチャーズ 監督:シェカール・カプール 脚本:ウィリアム・ニコルソン、マイケル・ハースト
●出演:ケイト・ブランシェットジェフリー・ラッシュ、クライヴ・オーウェン、サマンサ・モートン、リース・イファンス、ジョルディ・モリャ、アビー・コーニッシュ、トム・ホランダー、エディ・レッドメイン
●2007年/イギリス・フランス/114分/2008年2月16日(土)より日本公開
●配給:東宝東和

「ゴールデンとしての輝きを失った」続編

 『エリザベス:ゴールデン・エイジ』は、1998年の1作目よりも「ゴールデンとしての輝きを失った」続編になってしまったようだ。この世に知れた君主の一生は、これまで様々な映画やテレビ番組で取り上げられているが、スターダムに躍り出すきっかけを作ってくれた前作での役柄を引き続き演じているケイト・ブランシェットを観る楽しさ以外、この最新映画にはお勧めできるところはほとんどない。物語はどこまでもメロドラマの域を出ず、彼女の人間としての脆弱さばかりを追及し、いつでもどこでも鳴り響いている音楽のせいだろう、ただただ大げさなもので終わってしまっている。興行的にはまずまずといったところだろうが、この作品が本来あるべきような一級の映画に見込まれるものは期待できそうにない。

 シェカール・カプールがエリザベスの若き日々を描いた前作では、ケイト・ブランシェットがすばらしい女優になっていく瞬間を発見できたり、フレッシュな脇役たちや、全体に流れる若々しいエネルギーのおかげで、かなり得をした感がある。

女王の弱さを表現、しかしそれがありふれた存在に見せる結果に

 しかし、本作は、その脚本からして、全てのことが少しずつ軽んじられているという感覚が付きまとっている。エリザベスのウォルター・ローリーに対するかなわぬ想い、そしてそれに伴う苛立ちと弱さを中心におくことで、女王らしさが妙に軽んじられてしまい、それによってより人間らしくなるというよりも、どこにでもいそうなありふれた存在になってしまっている。

 脚本家のウィリアム・ニコルソンとマイケル・ハースト(1作目はハーストの脚本によるものだった)も、時代物としては最高のネタを与えられながら、そこにあるはずのみずみずしいウィットも、言語的な優雅さをも引き出せずに終わっている。それによって観客に残されたのは、相対的にどこにでもありそうな政治的な駆け引き、カソリックが悪者でプロテスタントがいい者であるという分かりやすいほど単純な対比、そして割り引いて語られる歴史を読み取ることだけとなってしまっている。

 そういったこと全てを考慮に入れると、現エリザベス女王は自身を描いた映画のことを憂慮しているということだが、エリザベス一世のそれに比べたら、はるかに幸せであるというものである。

隠れた敵、メアリー女王とスペイン国王

 物語は女王冠位27年目にあたる1585年、脚本ではあえてそのことには触れていないが、かの処女王が52歳の時を舞台にしている。ブランシェットは、どう見ても設定より20歳は若く、断然妊娠可能で、彼女の侍女たちと比べても負けずとも劣らず魅力的である。それもこれもすべて、奔放で颯爽としたウォルター・ローリー(クライブ・オーウェン)との見果てぬ恋を成就させるという目的からか。ウォルター・ローリーは、ヴァージン・クイーンのエリザベスにちなんで、州のひとつをヴァージニアと名づけたと言い、新世界アメリカでの冒険談で女王を魅了し、そこに英国植民地を作るため、かの地に戻ることを支援してほしい言う。

 ローリーの存在は彼女を惑わしはした。だがしかし真にエリザベスを悩ませていたのは、彼女のいとこであり、スコットランド城内で軟禁中のメアリー・スチュワート(サマンサ・モートン)とスペイン国王で、元彼女の義理の兄弟であったフェリペ二世(とても上品ぶって演じているジョルディ・モリャ)によって引き起こされたカソリックの脅威であった。フェリペ二世はイギリスを侵略するための無敵艦隊を建造するために、スペイン領内の森林の半分を伐採してしまったような男である。

お気に入りの2人に心を乱される女王

 物語の枝葉の部分がごちゃごちゃしてしまっているのは、いらいらするほど姿を現さないカソリック系の謀反人たちの存在で、彼らはメアリーとフェリペに支援を受けてエリザベス暗殺を企てているわけだが、当のエリザベスはますますローリーにのめりこんで行くという具合だからである。そんな二人は、田舎で一緒に馬を乗り回し、女王はこの程度の仲で満足するしかない。逆に本当に恋仲になったのは、ローリーとエリザベスのお気に入りの侍女、若く美しいベス(アビー・コルニッシュ)で、ベスの妊娠が発覚すると、エリザベスはローリーともども彼女をしばらくの間追放したりもする。

 快活で聡明かつ知的好奇心旺盛、そんなエリザベスは同時に、苦渋に満ちた不安感にとらわれがちでもある。気恥ずかしくなるような会話の中、「いつも自分の気持ちを抑えているのには、もう飽き飽きしたわ」などと現代的な発言をしてみたり、またその後、ローリーに「別の世界に生きていたら、私を愛してくれていたかしら?」と、まだキスもせがむ前から聞いてしまったりもする。また女王は星占いにもご執心で、住み込ませている占い師(デイヴィッド・スレルフォールがいい感じで演じている)に出来事の結末に関して、出来もしないような具体的な確証を求めたりもしてしまう。

歴史的に重要な場面をわきまえる判断力に欠けてしまった脚本

 やがて女王暗殺計画は阻止され、メアリーは斬首されてしまう(エリザベスは、これにひどく狼狽する)。そしてスペイン人たちは、テムズ川を下り退却せんとする。これにより守備隊が配置され、襲撃者が敗走してしまうまでをCGIスタッフが頑張って映画を描いている。おまけとして、ローリーが水の中を泳ぐという印象的なシーンも用意されている。

 全体的に、この作品は歴史をつまみ食いしているようなもので、次から次へと起こる騒々しい出来事を急いで進めていってしまっていて、本来描こうとしている重要な歴史絵巻に関する場合場合をわきまえる判断力に欠けてしまっている。エリザベスに関しても、彼女もまた一人の人間であったということ以外に伝えているものはなく、それではとても満足とは言えない。


様々な姿を見せるケイト・ブランシェットの演技

 唯一の救いはケイト・ブランシェットで、たとえ彼女の役が共感できない発言や行動をとったり、見ている側がして欲しくないと思うようなことをしていたとしても、彼女は常に目を見張るほど印象に残る。彼女が演じるエリザベスは議論の余地なく生身の人間であり、ことさらそれ以上に何かを言わなくてもいいのである。彼女が最も輝く瞬間は主に、映画の前半で描かれており、ちやほやしてくる種々雑多な廷臣たちを相手取り、尊大でいながら、あるときは形式張らず気取らない発言し、またあるときは思慮深く距離を保つなど、様々な姿を見せてくれている。

 乱れた頭髪とワイルドな雰囲気の服を着たオーウェン演じるウォルター・ローリーは、30年代から40年代のハリウッド冒険活劇映画であればしっくりいったであろう。ジェフリー・ラッシュは前作と同じようにエリザベスの側近フランシス・ウォルシンガムを演じている。コーニッシュは宮廷のマドンナ的存在にふさわしく魅力的である一方、モートンにも、すばらしい瞬間が用意されている。エリザベス暗殺の報告を緊迫した面持ちで待ち受けていた彼女は従姉妹が生き残ったことを、そして自分が今度は背信の罪で逮捕されることを知る。そのとき、彼女の期待に溢れていた表情は一瞬にしてぽっかりと感情が抜け落ちてしまったようなそれに変わる。まさに命といえるものが彼女の身体から消えていくのが感じられる。

 製作側への評価は、衣装、メイク、ヘアメイクで最も高いと言える一方、最も低いのは劇版音楽で、現代的な音楽様式が悪いということなのだろうか、ほとんど休む間もなくあてられた音楽に耳を棍棒で殴られたような気分になってしまう。

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