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心が冷えてくるような感銘がある力作

2008/03/14

©Mobra films 2007
©Mobra films 2007
●監督:クリスティアン・ムンジウ プロデューサー:オレグ・ムトゥ、クリスティアン・ムンジウ(モブラ・フィルムズ) 脚本:クリスティアン・ムンジウ 撮影:オレグ・ムトゥ 編集:ダナ・ブネスク 美術:ミハエラ・ポエナル
●出演:アナマリア・マリンカ、ローラ・ヴァシリウ、ヴラド・イヴァノフ、アレクサンドル・ポトチェアン、ルミニツァ・ゲオルジウ、アディ・カラウレアヌ
●2007年/ルーマニア/カラー/ドルビーSR/113分/2008年3月1日から銀座テアトルシネマほか全国にて日本公開
●配給:コムストック・グループ

政変2年前という時代

 ルーマニアは旧ソビエトが崩壊したときに一緒にバタバタと社会主義政権が倒れて行った東ヨーロッパのいわゆる旧ソビエト衛星国のひとつだった。この国で民主化の革命が行なわれたのは1989年であり、この映画の物語は1987年のことだから、政変の2年前。じつはその年に独裁者チャウシェスクの退陣を求める動きが始まっている。

 以上のような社会的背景はこの映画の内容と直接の関係はないし、とくに説明もされていない。しかしこの映画が言わんとしていること、外国人には分りにくいがこの国の人ならすぐ分る主題は以上の時代背景と深く結びついている。

作品と深く結びついている歴史的背景

 「4ヶ月、3週と2日」という時間は、この映画で妊娠中絶をする女性のその妊娠の期間を意味している。社会主義時代の1966年にこの国では中絶が禁止になったのだが、その結果、急激に人口がふえたという。同時に違法な中絶に走る女性もふえ、50万人以上もの女性がその失敗で亡くなったと言われているようだ。中絶の禁止の主張はいまのアメリカでそうであるように宗教的な理由からくるものが多いのだが、このときのルーマニアは工業化のための人口確保がねらいだった。だから妊娠は職場で点検され、ちゃんと出産しないと処罰された。食料も乏しいのにそんな政策を強行したため、孤児や捨子が大量発生した。だからそんな政治に反抗してあえて中絶する女性も少なくなかったらしい。だからチャウシェスク政権が壊滅して民主化が行なわれると、まず行われた政策のひとつが中絶の合法化だったという。

庶民の切迫した気分が描き出されたハラハラドキドキ

 この映画は学業を続けるためにあえて危険を侵して中絶手術を受ける女子学生と、それを手伝う女友達の物語である。彼女たちがまず、非合法な手術をやってくれる医者をさがし、まるでスパイ映画のように街頭で接触し、その指示のもとでホテルの部屋を借り、そこで手術をほどこしたうえで結果を待ち、さらにはそれに使った一切のものを誰にも分らないように処理してホッとするまでを、まるでサスペンス映画のように描いている。他人に分ったら犯罪としてたいへんなことになるので、ちょっとした行動のひとつひとつにハラハラドキドキさせられる。ただ一般のサスペンス映画と違うのは、そのハラハラドキドキは観客を面白がらせるための手練手管ではなく、政治にほんろうされている庶民の切迫した状況と気分がリアルに描き出されていることである。

 ルーマニアの観客は、もう何年後なら彼女たちは安全に中絶できたのに、と手に汗を握りながらこの映画を見るのだろう。そういう歴史的背景を知らないと、これはただのサスペンス映画になり、悪趣味だということにもなる。

 脚本監督はクリスティアン・ムンジウ。カンヌ映画祭でパルムドール賞を受賞した力作である。心が冷えてくるような感銘がある。

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